ドクターサロン

 池脇 こむら返りとは正式には有痛性筋痙攣という病態ですが、実はここ数年の間に数回、こむら返りの質問をいただいています。この質問にも出ていますが、こむら返りで困っている患者さんに芍薬甘草湯を処方すると「すごくよく効いたので、またください」 という感じで、特に高齢者のこむら返りは本当にコモンディジーズという印象があります。やはり高齢者には多いのでしょうか。
 尾上 一説によると、50歳以上で3割以上の方が、この症状で困っているという報告もあるようです。
 池脇 そんなに長くは続かないけれども、本当に痛くて痛くて、それが真夜中に起こると、本人は不安もすごくあるし、たいへんですよね。
 尾上 そうですね。
 池脇 その原因、病態、どういうメカニズムでこむら返りが起こるのですかという質問ですが、どのように考えられているのでしょうか。
 尾上 はっきりしたことはまだ十分に解明されていないようですが、カルシウムの濃度などに関する報告が一番多いようです。
 池脇 カルシウムの濃度というのは、細胞内の濃度という意味でしょうか。
 尾上 細胞内の出入りで、カルシウムは活動電位に関係していますから、神経の活動電位が変化し、急に筋収縮を起こすというメカニズムが考えられています。
 池脇 あまり科学的な言い方ではないかもしれませんが、筋の痙攣はなぜか腓腹筋(ふくらはぎ)に多い。それは、どういうわけか腓腹筋が過剰に興奮しやすい状況になっていて、そこにカルシウムのいろいろなチャネルが関係している可能性があるという理解でしょうか。
 尾上 なかなか難しいところかと思います。筋肉は全身にあるのに、どうして下肢にだけ起こりやすいのかは、簡単なようでまだわかっていないところかと思います。
 池脇 もちろん、それ以外の筋肉でも起こるそうですが、圧倒的にふくらはぎに多いような気がします。いずれ、原因やメカニズムがもう少し明らかになってくると思いますが、先生の解説では、どうもカルシウムが関与しているようです。
 これは対処を考えると、要因を排除する意味でも大事だと思いますが、どういう状況で、こむら返りが起こりやすくなるのでしょうか。
 尾上 汗をたくさんかいた後に少し脱水状態になってしまうと、それに伴う電解質のアンバランスで発作を起こしやすい状況になるかと思います。
 ほかには基礎疾患として血糖値の変動、甲状腺ホルモンの変動も起こしやすい要因になるかと思われます。
 池脇 確かに、脱水は電解質の異常も一緒に起こしやすそうな気もします。そういう意味ではけっこういろいろな要因はあるようですが、薬も考えなければいけないのでしょうか。
 尾上 薬剤性で発作を起こすかということですね。頭に置いておかなければいけないのはHMG-CoAのスタチン、ステロイドのグルココルチコイド、利尿剤やβ刺激薬などでも、そういった発作を起こしやすくなることです。
 池脇 患者さんの訴えがあったときには、高脂血症、高血圧で飲んでいる薬の中に該当するものがないかどうか、一度チェックすることになりますね。
 尾上 はい。
 池脇 私もこむら返りの患者さんに芍薬甘草湯を出していますが、出荷調整で、なかなか薬が出回っていないそうです。そういうときに、何かほかの薬はないでしょうかという質問です。
 尾上 芍薬甘草湯は非常に重宝されていて、それ以外に選択肢がないようなことが長く続いていたと思います。品不足で入手できないとなると、違う薬、違う方法も考えなければいけません。
 芍薬甘草湯は、名前のとおり芍薬と甘草、たった2つの成分でできている薬です。芍薬と甘草により、カルシウムイオンが細胞の中に入りすぎるのを抑えてくれたり、甘草はカリウムに関係しますが、カリウムイオンの流出促進という作用があり、それで効き目があるということです。
 芍薬甘草湯で偽アルドステロン症を起こして困るということで、甘草が含まれない薬で、同じような効き目のものがないかを検討した報告がありました。それによると、甘草を含んでいない四物湯(71番)を使うとうまくいったという報告があったようです。
 池脇 確かに、四物湯の4つの成分の中の一つが芍薬で、芍薬甘草湯の半分の芍薬とオーバーラップしていますから、何らかのかたちでこむら返りにも効きそうな印象は受けました。今、それが品薄になっているかどうかわかりませんが、芍薬甘草湯が手に入らないときには、漢方としてはもう一つ、そういったものを考えてもよいということですね。
 尾上 はい。
 池脇 漢方から離れると、ほかにはあるのでしょうか。
 尾上 保険適用外ですが論文等で報告されているものでは、ビタミンBの複合体、マルチビタミンのようなもの、カルシウム拮抗剤のジルチアゼム、ベラパミルといったものもわりと効果があるという報告があるようです。
 池脇 これも何らかのかたちでカルシウムチャネルに作用するということなのですね。あと、専門医は抗てんかん薬もお使いになるかもしれませんね。
 尾上 神経内科だと、てんかんのときにカルバマゼピンやクロナゼパムを使いますが、この辺りの薬も有効性があるという報告を聞いています。
 池脇 症状が起きたときは漢方薬を使うという話になりましたが、大事なのは、つらいかもしれませんが、最初にご自身で筋肉をストレッチしてもらうことですよね。
 尾上 これが一番すぐにでき、かなり効き目のある方法と考えます。実際、ストレッチはいいという論文の報告もありました。
 池脇 以前から不思議に思っていたのですが、芍薬甘草湯は痛みが始まってから飲んでも効くほど即効性があります。飲み薬で即効性があるというのに驚きですが、これはどうしてでしょうか。
 尾上 なぜ即効性があるのかははっきりしませんが、芍薬甘草湯はたった2種類の構成成分でつくられています。西洋の薬と違い構成成分が少なければ即効性があり、しかも効果が強いことが漢方薬の大きな特徴になっているようです。
 池脇 私のイメージでは、こむら返りは高齢者、特に女性に多く、妊婦さんもこむら返りで困っている方がけっこう多いと聞きます。妊婦さんだと漢方等は、なかなか出せませんが、こういう場合、何がいいというエビデンスはあるのでしょうか。
 尾上 今回のテーマを調べるに当たり、妊婦さんがこむら返りで困っているという話もたくさんありました。その中で、きちんと論文になってはいませんが、マグネシウム製剤が妊婦さんのこむら返りに対して効果があるという報告も少し確認しました。
 池脇 単純にマグネシウムだったら、酸化マグネシウム(MgO)を飲ませればいいのかと思いますが、それでは駄目なのでしょうか。
 尾上 実臨床では、そういったことでうまくいくかもしれませんが、論文などで見ると、酸化マグネシウムはプラセボ対照では、有意差はそれほどないと報告されていました。
 池脇 いずれにしても、困っている妊婦さんにも何かエビデンスがあるものが出てくるといいかと思います。ありがとうございました。