池脇 高尿酸血症の治療薬の使い方について質問をいただきました。その前に、どのくらいの数値で治療するのか患者さんの背景によっては違うようで、ガイドラインの診療アルゴリズムをみると尿酸値の7㎎/dL、8㎎/dL、9㎎/dLとあり、それによって治療するかどうかということです。まずこのあたりの整理をお願いします。
桑原 まず、高尿酸血症というのは、血清尿酸値が7㎎/dLを超えるものと定義されています。その背景には、血液中で血清尿酸値が7㎎/dLを超えると尿酸が結晶化しやすいことがあります。ですので、血清尿酸値が7㎎/dL を超える方にはまずは生活習慣の改善を心がけていただきます。生活指導をしながら、ほかに高血圧や糖尿病、慢性腎臓病など何らかの合併症があった場合は、血清尿酸値が8㎎/dL以上の状態が継続するようであれば治療をお勧めしています。全く合併症がない方は、血清尿酸値が9㎎/dL以上であれば、治療を開始することをガイドラインでは勧めています。
池脇 合併症があってもなくても、いわゆる痛風発作を起こしていない無症候性の場合には、血清尿酸値が8㎎/ dLと9㎎/dLで少し高めに判断をして、痛風の場合には治療を厳格にということで、血清尿酸値が7㎎/dLあたりで治療するのですね。
でも、痛風があれば尿酸値にかかわらず治療したほうがいいのかと思いますがいかがですか。
桑原 おっしゃるとおりです。痛風発作が認められているときは、血清尿酸値は普段の尿酸値より低く出ることも多いです。ですので、痛風の既往があったり、痛風結節で関節が少し腫れたりしている患者さんにはしっかりと治療をして、血清尿酸値を6㎎/dL以下、できれば5㎎/dL以下に下げることが望まれます。
池脇 そのあたりを整理したうえで、高尿酸血症の治療薬の使い方ですが、質問者は、高尿酸血症が尿酸産生過剰型か尿酸排泄低下型かという前提でお話をされています。最近、その病態の分け方が、若干、変わったように聞いていますが、どうでしょうか。
桑原 尿酸値は、血液か尿でしか調べられないので、尿中の尿酸値などを測って、腎臓で尿酸の排泄が低下している低下型か、もしくは尿酸が腎臓にかなり負荷をかけているという状態で、腎負荷型という名前が使われています。この尿酸排泄低下型というのは、名前のとおりで、尿中の尿酸排泄が減って、体に溜まる高尿酸血症をいいます。腎負荷型というのは、尿酸の負荷が多い状態で2つの機序が考えられます。一つは経口でプリン体を摂ったり、エネルギーの代謝で尿酸が増える、産生過剰によるもの。もう一つが、最近、腸管でも尿酸が排泄されることが知られていて、腎臓以外からの尿酸の排泄が低下して体に尿酸が溜まるもの。この「尿酸産生過剰型」と「腎外排泄低下型」 の2つを合わせて、「腎負荷型」としています。
池脇 腎負荷型の中に、質問の産生過剰、あと新しいエビデンスとして、腸管からの排泄が低下するために腎臓に負荷がかかる腎負荷型ですね。確かに、それは正しいことなのでしょうけれども、少し理解しやすいという点から、産生過剰型か排泄低下型というかたちで進めさせていただきます。
質問者はまず、そのどちらかを判断するのは、少し難しいという印象をお持ちのようです。確かに尿酸とクレアチニンのクリアランス、あるいは1時間法で尿を溜めるのは、少し難しそうですね。
桑原 実際の臨床のお忙しい時間の中で、これらを分類するのは非常にたいへんだと思います。そこで一つの指標として、尿中の尿酸とクレアチニンを同時に測って、尿中の尿酸、尿中のクレアチニン比を取る方法も参考になります。その値が0.5未満であれば、尿酸排泄低下型。0.5以上であれば腎負荷型、尿酸産生過剰型の可能性が高いと判断できる参考の一つになります。
池脇 確かに、尿酸排泄低下型は尿中の尿酸が減り、尿酸とクレアチニンの比は下がるので、理解しやすい指標ですね。必ずしも、一番正確なパラメーターではないけれども、臨床実地という状況の中で、比較的、簡便に測れるという意味で、これはお勧めの検査ということでよいでしょうか。
桑原 ほかの薬の影響も受けるので、注意は必要ですが、一つの参考としては有用だと思います。
池脇 おそらくけっこうな割合が尿酸排泄低下型ですが、これは日本人に多いのでしょうか。
桑原 日本人では8割以上が尿酸排泄低下型という報告もあります。
池脇 質問の続きですが、頻度の高い尿酸排泄低下型の場合に、排泄を促進する薬剤で効果がなければ、産生過剰型に使う、産生を抑制する薬に変えるという方法でいいのでしょうか。正直いいまして、私は、あまり排泄促進型の薬を使ったことがなくて、フェブキソスタットか以前でしたらアロプリノールを処方すると尿酸はだいたい落ち着くのですけれども、どうなのでしょう。
桑原 尿酸排泄低下型に対して、理想は尿酸排泄促進をして尿酸値を下げるというのが適切と考えられるのですが、尿中に尿酸を多く出すと、尿路結石や腎結石が増えやすくなることが知られています。また、肥満の方など尿のpHが低い方=酸性尿の方では、尿酸が結晶化しやすいため、そのような方に対しては尿のアルカリ化などが結石予防等に勧められます。尿のアルカリ化のために薬剤数が増えるのが煩雑なので、尿酸の産生を抑えるフェブキソスタット、トピロキソスタット、アロプリノールなどを使っていただくのも、尿酸値を下げる効果とともに、その結果として尿酸排泄を抑えることもできるので適切だと考えます。
池脇 本来は病態に合わせた治療がいいのかもしれませんが、尿酸排泄低下型でも産生抑制型の薬で十分コントロールできるのなら、臨床的にはそれでもよいのですね。尿酸排泄を促進する薬を病態に合わせて使われたときには、尿のpHをチェックするという、プラスアルファのチェックポイントが増えるということですね。
桑原 そうですね。尿酸排泄促進薬を使う際には、尿のpHを測って、そして酸性尿をチェックすることが大切です。
池脇 少し話がずれますが、私もほとんど尿酸産生過剰型の薬を使って、まずまず効いているのですけれど、まれに、なかなか効かない方に尿酸排泄促進薬を使うとけっこう効きます。ごく一部には、病態に合わせた治療が必要な患者さんがいらっしゃるのでしょうか。
桑原 1剤でなかなか効かないときには、作用機序が違う薬を併用すると劇的に効くという患者さんもいるので、作用機序の違う薬の併用療法も有用だと思います。
池脇 後半の部分では、患者さんがほかの薬を飲んでいる、あるいはほかの薬を使うときにそれが尿酸値を上げる場合もあれば、下げる場合もあると思うのですが、質問の利尿剤やβブロッカーは尿酸を増やしますよね。
桑原 おっしゃるとおりで、サイアザイド系利尿薬、ループ利尿薬、β遮断薬などは血清尿酸値を上げます。薬剤性高尿酸血症に対する治療は、エビデンスが不足しているところですが、ほかの合併症がある場合は、先ほど申し上げたように、血清尿酸値が8㎎/ dL以上が続くようであれば、尿酸降下薬を使用することが勧められます。これは痛風の予防という面でも、役立つと思います。
池脇 尿酸値が上がるから使うなといっても、利尿剤、βブロッカーはやはり必要な患者さんがいるので、それを使って、一定以上に上がった場合には、薬も考えるのですね。逆にARBなど血圧を下げて尿酸値も下げるというような薬もいくつかあるようですね。
桑原 高血圧に対して、高尿酸血症が合併している患者さんについては、ロサルタン、イルベサルタンなど、尿酸値を下げる効果ももつ薬を選んでいただくのが良いと思います。また、糖尿病や心不全の患者さんでは、SGLT 2阻害薬が尿酸値も下げてくれますので、このような薬も選択肢になると思います。ほかには、脂質異常症(高中性脂肪血症)で高尿酸血症を合併している方については、フィブラート製剤も尿酸値を下げますので選択肢になると思います。
池脇 ほかの代謝異常がメインで、高尿酸血症もあるときには、先生がおっしゃるようなことを少し頭に入れながら、薬を選択すると両方とも管理できる可能性があるということですね。
桑原 そうですね。1剤で2つの疾患をカバーできるというのは、かなりのメリットだと思います。
池脇 どうもありがとうございました。
高尿酸血症の治療
虎の門病院循環器センター内科医長
桑原 政成 先生
(聞き手池脇 克則先生)
尿酸降下薬投与の前に尿酸産生過剰か尿酸排泄低下かを判断し治療開始することが望ましいとされていますが、実地臨床では分類を行うことが困難な場合があります。頻度の高い尿酸排泄低下型の薬剤で効果がなければ産生過剰型の内服薬を使用する方法でよいでしょうか。
また、利尿剤による薬剤性高尿酸血症にも排泄低下型の薬剤を使用してよいのかご教示ください。
兵庫県開業医