医療面接において「月経」menstruationは極めて重要な項目ですが、その英語表現には日本の医療者にはなじみのないものも数多く存在します。
日本語の「月経」に相当する表現がmenstruationです。これを短くしたmensesという表現もありますが、どちらも日本語の「月経」のように少し専門的な表現となります。
日本語では「生理」という表現が「月経」よりも一般的に使われますが、英語でも同様にperiodという表現がmenstruationやmensesよりも一般的に使われます。このperiodはmonthly periodやmenstrual periodの省略形なのですが、患者さんが自身の症状について話す際には“I’m on my period.”や“I skipped a period.”のようにperiod単体で使うことが一般的です。ただ日本語の「月経」が一般の人にも理解されるように、英語のmenstruationも一般の人に十分理解されますので、最終月経日について医師が尋ねる際には“When was your last menstruation?”や“When was your last menstrual period?”のようにmenstruationやmenstrualを使うことが一般的です。
そしてこのperiodは日常会話ではtime of the monthのように婉曲的に表現される場合もありますし、「血まみれの週」というイメージでshark weekのようにユーモアを使って表現される場合もあります。
また「月経前症候群」であるpremenstrual syndrome(PMS)は、その略語であるPMSを動詞として使って“I always break out when I’m PMSing.”「生理前はいつも肌荒れします」のようにPMSingを「ピー・エム・エスィング」のように発音して使います。
menstruationでは子宮uterus/uterine/wombから出血がありますが、この「月経時の出血」のことを一般的にflowと表現します。そして出血量が多い場合にはheavy/heavier flowと、少ない場合にはlight/lighter flowと表現します。「月経」を意味する医学英語としてmenorrheaというものがありますが、これはmenstrual flow「月経時の出血」という意味になり、menstruationとは微妙に意味が異なります。
このmenorrheaが通常よりも高い頻度で起こるものをmenorrheaに「多い」を意味するpoly-をつけてpolymenorrhea「頻発月経」と、低い頻度で起こるものを「少ない」を意味するoligo-をつけてoligomenorrhea「希発月経」と呼びます。また「無」を意味するa-がついたamenorrheaは「無月経」となりますが、dysmenorrhea「月経困難症」の場合のdys-はdifficultではなくpainfulという意味になりますので、「生理痛がひどい月経」という意味になります。
「生理痛」の英語は「キューっと締め付けられる痛み」を表すcrampを複数形にしたcrampsで表現されます。これとは別に排卵に伴う痛みであるovulation painはmid-cycle painと呼ばれ、ドイツ語でこれに相当するmittelschmerzという表現もovulation pain を意味する「医学英語」として英語圏の医療者に使われています。
flowによく似た表現としてspottingというものがありますが、これはlight bleeding between periods「月経間の軽度の出血」という意味ですので、医学的にはintermenstrual bleedingと表現されます。そして患者さんがoral contraceptive pills(OCP)「経口避妊薬」を服用している場合に起こるintermenstrual bleedingは、breakthrough bleedingとして区別して表現されます。
患者さんがheavier flowやprolonged flowを経験する場合、その状態をmenorrhagia「過多月経」という医学英語で表現します。そしてこの有無を尋ねる際には「生理用品」の英語表現が重要になります。
日本語では「生理用ナプキン」のことを「ナプキン」と省略して表現しても通じますが、英語では「生理用ナプキン」であるsanitary napkinsをnapkinsと省略することはできません。というのも英語のnapkinsは食事の際に使う「ナプキン」の意味になってしまうからです。英語ではsanitary padsを省略したpadsという表現が日本語の「ナプキン」に相当する表現として使われます。このほかにも薄型のpanty linersや、洗浄して繰り返し使えるmenstrual cupsなどもありますが、生理用品としてはこのpadsという表現が最もよく使われるので、まずはこちらを覚えてください。
患者さんがflow at irregular intervals を経験する場合、その状態をmetrorrhagia「不正出血」という医学英語で表現します。そして先ほど紹介したheavier/prolonged flowであるmenorrhagiaとこのmetrorrhagiaが同時に起こるものをこの2つを組み合わせてmenometrorrhagiaと表現します。
このmetrorrhagiaの原因としてuterine leiomyoma「子宮筋腫」がありますが、一般的にはfibroidsと表現されます。そしてその発音は「フィブロイズ」ではなく、「ファィブロイズ」のようになりますので注意してくださいね。
そしてamenorrheaの原因としては当然妊娠が挙げられますが、読者の皆さんは学生時代に「女性を診たら妊娠を疑え」という教えを受けていたのではないでしょうか?(私は学生や研修医時代に何度もそう教わりました)ただこのような教え方はmicroaggressionとなりますので注意が必要です。
microは「小さい」、そしてaggressionは「攻撃」を意味します。日本語にするのは難しいのですが、microaggressionは「無意識の差別」として理解するとわかりやすいのではと思います。
このmicroaggressionは日常のささいなやり取りで生じる「差別」であり、特定の属性の人に対する無意識の「ステレオタイプ」や「偏見」から生じています。
「ステレオタイプ」stereotypeとは、特定の属性の人に対する固定概念であり、どのような方もある程度は持ち合わせています。そして「偏見」prejudiceとは、このstereotypeに負の感情が加わったものです。そして「差別」discriminationとはこのprejudiceに言動が伴うものとなります。先ほどの「女性を診たら妊娠を疑え」という指導に関して「何が問題なの?」と感じた方は、ご自身が多数派であること、もしくは多数派の考え方を内在化しているということに無自覚である可能性があります。
このようなmicroaggressionを避ける方法としてIntention, Assumptions, and Impactの3つを意識するという方法があります。
まずはIntentionとして、自分の言動の意図を自覚しましょう。今回の「女性を診たら妊娠を疑え」という指導の背景には「指導医として若手に医師としての知見を与えるべきだと感じていた」という意図があります。
次にAssumptionsとして、自分の思い込みを言語化してみましょう。今回の例で言えば「女性ならば例外なく妊娠する可能性が高い」という思い込みがあったのだと思います。
最後にImpactとして、自分の言動が与える影響を立ち止まって予測してみましょう。そうすると「この指導によって自分は女性として不完全と感じる学生や研修医もいるかもしれないな」と予測できるはずです。そうすることで「女性を診たら妊娠を疑え」という表現ではなく、「子宮外妊娠の可能性も考慮に入れましょう」という単純な表現を使うことができるようになります。
このIntention, Assumptions, and Impactという思考方法は、職場のdiversity and inclusionを実現する上で有効な方法ですので、ぜひ皆さんも試してみてくださいね。