池脇
B型肝炎ウイルスの様々なマーカーについてです。HBcr抗原、一般的にはHBコア関連抗原というらしいですが、調べるとメイド・イン・ジャパン、日本の技術で生まれたマーカーなのでしょうか。
渡邊
そのとおりです。これはメイド・イン・ジャパンで、最近、世界的にもかなり認知され、広く使われるようになってきています。エビデンス的には、これからどんどん蓄積していかなければいけませんが、将来性があり、特にB型肝炎のがんのマーカーの一つになるのではないかというエビデンスが、いろいろ出てきています。
池脇
コア関連ということは、HBVのコアあたりの抗原だろうと思われますが、これもいろいろな抗原があるのですね。
渡邊
そうです。従来、B型肝炎の抗原検査は血液中に出てきたウイルスタンパクを測りますから、まず抗原としては一番多いHBs抗原があり、その次にHBe抗原があります。さらに血液中ではHBV-DNA、ウイルスそのものをPCRで測定するという評価系が、これまでは行われていました。
そこに新たな血液中のマーカーとして注目されたのが、HBのコアタンパクが関連する抗原なのです。コアタンパクはウイルス粒子の中に入っているタンパク質なので、通常、その外側にはエンベロープタンパクといって、主にs抗原が取り囲んでウイルス粒子になっています。ですから、血液中でそれを測ろうとするとs抗原の量としてしか測れず、中に入っているコアタンパクは、通常は血液中では測れなかったのです。
これを特殊な処理をして測れるようにしましたが、一つ問題がありました。実はコアタンパク質と、先ほど言ったe抗原のタンパク質はアミノ酸配列が一緒で、測定上では識別できません。それでコアに関連するすべての抗原、タンパク質として定量しているのがHBcrコア関連抗原なのです。
すなわち、コアタンパクとe抗原、あと実はもう一つ、中空粒子といって、ウイルスの遺伝子であるDNAが入っていない空の粒子も出ます。その3つを合わせて血液中の量を測定するのがコア関連抗原となります。
池脇
本来は血液中に出ているけれども、エンベロープで囲われているから、なかなか測れない。そこを特殊な技術で測れるようにして、エンベロープの中に入っているタンパクを含め、いろいろな抗原、p22crなどが測れるようになったのは、それまでのマーカーからすると、大きなブレークスルーになる可能性があるのですね。
渡邊
そのとおりです。最初のs抗原は、ウイルスの1,000~10万倍ぐらい、ものすごく多く血液の中にいるので、ウイルスそのものの量をあまり反映しません。その場合、ウイルスの量を反映する血清のタンパク質としては、もう一つ新たなものとして、このコア関連抗原が出てきたので、もちろんHBVDNAを測れれば、それと相関性はあります。
ただし、核酸アナログ治療といって、B型肝炎に対する抗ウイルス薬ですが、これを使うとB型肝炎のウイルス、すなわちHBV-DNAは低下しますが、これはウイルスの複製を阻害しているだけで、肝臓の中に感染しているウイルス量としては変わらないのです。
血液中ではウイルス遺伝子の入った粒子が減る、HBV-DNAが減るので効いたかに見えますが、その場合、感染した肝臓の細胞から出てくるタンパク質であるs抗原やe抗原、コア関連抗原というタンパク質は減りませんから、それが感染している状態をより反映する。特に、今お話しした核酸アナログ治療などでは、治療しているときの感染している肝細胞にいるウイルス量の反映という意味では、非常に優れているのが、コア関連抗原が新たにブレークスルーした点になります。
池脇
確かに今はラミブジンという核酸アナログ製剤がつくられるようになり、治療できる時代になってきました。治療中にその方の経過や将来のリスクを評価するのがPCRのDNA定量ではなかなかうまくできないことから、ある意味では、非常に画期的なアッセイともいえますね。
渡邊
そのとおりです。もう一度言うと、核酸アナログの治療をしていると、ウイルスが増えるのは抑えられます。ただし、感染して肝臓の中に居座ってしまったウイルス量を評価するためには、血液中に増えて出てきたウイルスDNAでは、特に治療しているときには反映しない。
そうなると、コア関連抗原というものが、肝細胞の中にできるcccDNA、感染したときに最初にできるminichromosome、そこからHBVの複製がすべて始まります。そのcccDNA量を反映するものとして、コア関連抗原が非常に有用だといわれています。
池脇
確かにHBVの活動性、cccDNAに最も相関するということで、今のところHBコア関連抗原が一番相関するといわれているのですね。
渡邊
そのとおりです。従来は、HBs抗原がcccDNAのサロゲートマーカー(代用マーカー)だといわれていましたが、このコア関連抗原が出てきたことにより、s抗原よりもコア関連抗原のほうがいいのではないかと最近報告されつつあります。
池脇
HBコア関連抗原を測定する意義に関して、今まさに先生が言われた核酸アナログ製剤の治療中にあることは十分理解しました。
質問の60歳の男性で、HBs抗原抗体、c抗体、e抗原抗体、陰性、陽性、いろいろ書いてありますが、この状況でHBコア関連抗原の測定をする意義があるのでしょうか。
渡邊
いただいた質問を少し詳細に述べると、HBs抗原がマイナス、陰性。HBs抗体が陽性。すなわち、中和抗体といわれるs抗体がついています。しかもHBc抗体も強陽性、いわゆるキャリアの人、ないしは急性肝炎で治った人。要は、ワクチンで抗体がついたわけではなく、ウイルスに感染した既往があることを意味しています。
あとはe抗原、抗体は、両方とも陰性です。その人に対し、コア関連抗原を測定する意義があるかという質問でしたが、一般的に見ると、B型肝炎の既往感染パターンといわれるものです。
すなわち、急性肝炎で治った後、ないしはキャリアの人でも、もうs抗原は消えて抗体ができ、Functional Cureといいますが、機能的な治癒、キャリアの人の治癒になった状態だと判断します。
ですから、通常はこの段階でHBV-DNAやコア関連抗原を測ってもマイナスです。すなわち、もう治った、既往感染の人ですから、本来は測る意義はないと思います。
ただし1点だけ、この方がそれを意図しているかどうかはわかりませんが、s抗原の変異ウイルスというパターンがあります。その場合、s抗原が測れず、一見s抗体があるように見えますが、実はPCR、具体的にはHBV-DNAを測定すると検出できることがあります。
ただし、HBV-DNAは低い値になります。通常はキャリアの人だと5乗、8乗と多いですが、s抗原の変異体の場合はだいたい低くて、1log、2logぐらいになります。その場合、コア関連抗原を測るのは意義があると思います。
なぜかというと、s抗原の変異体のウイルスが感染した状態というのは、実は発がんのリスクの一つになるといわれています。本来、s抗原は血中に分泌されるウイルスタンパクです。これが変異すると血中に分泌できなくなり、感染した細胞の中に蓄積する、すなわち、ERにリテンションするとよくいいます。そうすると、s抗原が酸化ストレス、ROSを産生し、発がんになるのは昔からいわれていることです。
そういった意味では、もしこの状態でコア関連抗原が検出されることがあった場合、これは発がんのリスクになるので、注意しなければいけない症例だとなります。ただし、非常にまれなパターンになると思います。
池脇
その、まれなケースをどこまで追究し、HBコア関連抗原を測定されるか。これは質問者の考えでいいと思いますが、そういう可能性はあるということなのですね。
渡邊
そうですね。s抗原の変異したウイルスは実はあるので、非常にまれですが注意が必要です。ですから、まずはHBV-DNA、PCR検査を行い、そこで検出されない場合は、コア関連抗原もほぼ検出されません。
池脇
コア関連抗原に関して詳しく説明していただきました。ありがとうございました。