ドクターサロン

 藤城 食道・胃静脈瘤に対する治療について教えていただきます。
 入澤 もともと食道・胃静脈瘤というのは、多くは肝硬変などに合併する病気です。肝臓が本来は100ぐらい血を受け入れるところが、肝臓が硬くなってしまって50しか受け入れられないとします。そうすると余った残り50の血はどうやって心臓に戻るんだというところが問題で、その時に食道や胃の周りの血管を通って心臓に戻るのです。そうすると、もともとあまり太くない血管に大量の血液が流れますから、血管は太くなります。つまり血管の瘤になったものが食道・胃静脈瘤です。食道や胃というのは、食事が通るところですし、胃酸も関係して、そのような刺激によって静脈瘤が破れたりすると大出血を起こして命にかかわってしまいます。食道・胃静脈瘤とはそういう病気です。
 藤城 その肝臓が硬くなる肝硬変患者さんが増えていて、食道・胃静脈瘤の患者さんも増えているのでしょうか。
 入澤 以前に比べると、医療の進歩によって今はC型肝炎やB型肝炎が相当制圧されてきています。このようなことから食道・胃静脈瘤の患者さんの数自体は減っていると思います。
 藤城 そうなのですね。減っているけれど、出血をしてしまう、瘤が破れてしまうと命が危なくなってしまう、そういう危険をはらんでいる病気なのですね。出血をしてしまう前に何か診断する方法はあるのでしょうか。
 入澤 やはり内視鏡検査です。口からでも鼻からでもいいのですが、内視鏡検査をしていただければ食道や胃に静脈瘤があることがわかります。もし静脈瘤が見つかったら、それが破れる危険性があるかどうかを判断します。その時に、これは大丈夫だなとなったら様子を見ますし、これは破れそうだなとなったら治療が必要になります。
 藤城 破れそうだなというのは、どのように診断ができるのでしょうか。
 入澤 内視鏡で見て静脈瘤の上にぽつんと赤い血豆があったらこれは危ない、つまり、出血の危険があるということになります。また、明らかに蛇行した太い静脈瘤も破裂の危険性が高いといわれています。
 藤城 なるほど。ではまずは内視鏡検査を受けて血豆のような所見がないかどうかを見ていただいて、なければ経過を見ていくことができそうですか。
 入澤 そうですね。ただ大きさによるのですが、経過を見るにしても、やはり半年ごとくらいには内視鏡検査を受けていただくべきかと思います。
 藤城 静脈瘤ができていると診断を受けた患者さんは、どういうことに注意をして生活をしていけばよいのでしょうか。
 入澤 まずは、肝臓を大事にすることです。お酒で肝臓が悪くなってしまった方は、お酒をやめなければいけません。また、体に無理をさせて、肝臓の働きが悪くなってしまったりすると静脈瘤の悪化につながるので、そのあたりは生活の中で注意しなくてはなりません。
 藤城 お酒をやめる、体に無理をさせないということですね。
 入澤 そうですね。
 藤城 血豆ができているような人に対する治療には、どのような方法があるのでしょうか。
 入澤 一番は、内視鏡を使った治療になります。内視鏡を使った治療にも2通りありまして、一つは輪ゴムを使って静脈瘤を結んでしまうEVLという治療法です。またもう一つは、硬化療法といって静脈瘤に針を刺し、静脈瘤の中に薬を入れて血管を固めてしまうEISという治療法です。
 藤城 血管を固めてしまうと血管が閉塞して血液が流れなくなってしまい、心臓に戻ってこないのではという心配もあるのですが、そのあたりは大丈夫なのでしょうか。
 入澤 はい。人間の体はうまくできていて、食道や胃の静脈瘤が詰まっても、きちんと別の逃げ道となるルートを作ってくれて、血液は心臓に戻っていきます。
 藤城 薬で治すということはできないのでしょうか。
 入澤 肝臓に行く血管を門脈というのですが、その門脈の圧力を下げることによって、静脈瘤が小さくなることはあります。ただし、薬だけで血豆が消えたり、大きいものがすーっと縮むようなことは、ほとんどないと思います。
 藤城 わかりました。胃と食道で静脈瘤の治療の方法は違うのでしょうか。
 入澤 基本的に内視鏡を使って治療するのは同じですが、胃の場合は、内視鏡を使わずに、例えば放射線下の治療を行う場合もあります。これは、放射線を当てて静脈瘤を治すわけではなくて、放射線で見ながら血管の中にカテーテルを入れて、胃の静脈瘤そのものを中から硬化剤で硬めて潰すという方法です。このように、内視鏡に限らず、いろいろな治療法で潰していくことになります。
 藤城 先生が先駆的にされている超音波内視鏡を使ったコイルを血管の中に入れるような治療もあるとうかがったのですが、そちらもご紹介いただけますか。
 入澤 ありがとうございます。我々が日本で初めて行った治療です。超音波内視鏡という内視鏡の先端に超音波発生装置が付いている機器があります。それを用いて胃、または食道の中から胃の静脈瘤を観察しながら針を刺して、静脈瘤の中にコイルを留置します。このコイルは、先ほどお話しした放射線下の血管内治療でも使うものです。それを内視鏡を使って入れてしまうという画期的な治療法です。ただ、これはまだ開発されたばかりの治療法で、これからの発展が非常に期待されるところです。患者さんにとって、この治療法が普及することはとても良いことではないかと思っています。
 藤城 日本でこの治療が受けられるのは何施設ぐらいあるのでしょうか。
 入澤 今のところは、我々の施設以外、ほとんどありません。少しずつ始めている施設がありますが、それでも1桁台です。
 藤城 そうしますと全国津々浦々というわけではなくて、本当に数施設で行われている最新の治療ということかと思います。出血を起こしてしまった命が危ないような患者さんに対する治療法はあるのでしょうか。
 入澤 静脈瘤出血を起こしますと、まず血を止めなければいけません。その時に、例えば食道から血が噴き出しているような場合は、内視鏡に装着した小さな輪ゴムを使って血を止めます。この方法は、日本全国どこでもできる治療法で、血が出てしまったら瞬時に血を止めることができます。ただ、胃の静脈瘤から出血した場合には特殊な薬剤、いわゆる瞬間接着剤を血管の中に注入して血を止めます。これは専門施設で行うことになります。
 藤城 全国的にはどれぐらいの施設で、その治療ができるのでしょうか。
 入澤 東京は別としても、各県とも最低でも2~3施設では行っていると思います。ですから、ほとんどの医療圏でしっかりと、その治療を受けることができるのではないかなと思います。
 藤城 それなら少し安心ですね。食道、胃の静脈瘤に関しては、本当に様々な治療法が開発されてきているということをうかがいましたが、今後、どのような治療法の発展の可能性があると先生はお考えでしょうか。
 入澤 一概に食道・胃静脈瘤といっても、個人個人でその病態や血の流れ、いわゆる血行動態が違います。ですから、皆で同じような治療をするのではなくて、例えばAさんはこういう血行動態を持った静脈瘤だから、この治療法でやりましょう。Bさんはこういう血行動態だから、この治療法でやりましょう、というように、ほかの医療でもやっているような個別化医療という考え方が発展してくると、患者さんにとっては、優しくて安全で効果的な治療法が実施できるのではないかと思います。
 藤城 その個別化診断をしていくために使われるようなモダリティの開発などは現在なされているのでしょうか。
 入澤 現時点では、超音波内視鏡を使って、それで食道や胃静脈瘤の血行動態を把握することが最も有用だと思います。もしくはCTを使ってもある程度はわかります。このようなモダリティをうまく使うことで、個人個人の血行動態を把握することができます。このような方法で把握した血行動態を分類して個別化医療につなげることが、これからの研究テーマだと思います。
 藤城 まだまだやはり、やることがたくさんあるということですね。ありがとうございました