ドクターサロン

 大西 藤城先生、「消化管疾患治療の最新情報」シリーズの第1回ということで、消化管疾患治療の最近の進歩について、いろいろうかがいます。
 治療の話に入る前に、この領域は内視鏡診断の周辺が重要な柱になるかと思います。診断法が進歩し、画像強調内視鏡をかなり行われていると思いますが、そのあたりは今、どのような状況になっていますか。
 藤城 通常の白色光での観察が従来の内視鏡診断だったのですが、今は当てる光を変えたり、場合によっては、拡大をして見るような内視鏡診断が可能になってきました。それによって異常箇所を発見した後に、病変の質的診断まで生検しなくても、ある程度診断を行うことができるようになりました。さらには、超拡大内視鏡といいまして520倍まで拡大できる内視鏡があり、細胞レベルで診断をすることもできるようになってきました。
 大西 人工知能、AIですね。非常に注目されていますが、内視鏡診断に何か応用されるような動きがあるのでしょうか。
 藤城 数年前に大腸の領域では検出したポリープが腫瘍性なのか、非腫瘍性なのかを診断するAIが上市されました。また、上部消化管もAI上市が遅れていたのですが、今では食道や胃の腫瘍性病変を拾い上げるようなAIが上市されてきました。ですので、今後AIがさらに広まっていくのではないかと思います。
 大西 先ほど超拡大内視鏡の話が出ましたが、顕微内視鏡もヒットしているのですか。
 藤城 はい。超拡大内視鏡、別名、顕微内視鏡というのですが、本当に細かい細胞レベルまで見えるので、AIとうまく組み合わせて、大腸ではこれが腫瘍なのかという質的診断を病理診断に迫る精度でできるようになってきています。
 大西 小腸内視鏡も最近の進歩があるのでしょうか。
 藤城 2000年ごろカプセル内視鏡が出たのと同時にバルーン内視鏡が出てきましたが、今はさらにそれを進化させて電動で深部まで挿入するような、新しい小腸内視鏡も開発されています。
 大西 診療ガイドラインもだいぶ整備されてきたように思いますが、そのあたりの状況、概略を教えていただけますか。
 藤城 消化器病学会もしくは消化器内視鏡学会でガイドラインが徐々に整備されてきていて、例えば胃がん、大腸がんなどのがんに対するガイドラインは数年ごとに改訂を繰り返していますし、さらには機能性疾患などの非腫瘍性疾患に対するガイドラインも整備されつつあります。
 大西 次に薬物療法も今だいぶ進歩していると思いますが、そのあたりの状況はいかがですか。
 藤城 2000年ごろは、殺細胞性の抗がん剤だけだったと思います。近年は分子標的薬が多くの切除不能のがんにファーストラインとして使われるようになってきました。分子標的薬と殺細胞性抗がん剤を組み合わせたり、さらには免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせたりするような治療も出てかなり進歩してきました。
 大西 その中でも、直腸がんに対する治療もいろいろ進歩しているそうですね。
 藤城 抗がん剤を使って、場合によっては放射線療法を組み合わせていくと、がんが消えてしまうような症例も出てくるのです。そうすると手術をしなくて済むのではないかという未来が少し見えてくるような、そんな治療の進歩があります。
 大西 TNT(Total Neoadjuvant therapy)とはどのような治療ですか。
 藤城 まだ日本ではあまり取り上げられていませんが、欧米ではそういうような言い方をしていまして、もうすでにがんが消えてしまうぐらい、外科手術の前に化学放射線療法に加えて、化学療法を集学的に組み合わせていこうという考え方です。
 大西 日本で始められているところもあるのですか。
 藤城 東京大学病院では化学療法と放射線療法をうまく組み合わせて最終目標としては、直腸がんの手術を回避するようなことを目指しています。まずは術前の化学放射線療法から少しずつTNTの概念が取り入れられつつあります。ただ、手術を完全に回避できるのかどうかという点では、本当にがん細胞が消えたのかどうかの判断が難しいところもあり、最終的には手術をしないと、本当にがんが消えたかどうかわかりません。その辺の確認をしっかりと画像でできるようになってきたら、本当に手術をしなくて済む時代が来るのではないかと思います。
 大西 先生は内視鏡治療が特に専門だと思いますけど、そのあたりでの新しい展開というか、進歩はあるのでしょうか。
 藤城 内視鏡治療にはポリペクトミー、EMR、ESDがあります。ESDが2000年ごろから出てきまして、そのころはかなりリスクの高い手技だったのですが、今はかなり安定化してきて、一般病院でも広く行われるようになってきました。さらに、LECS(腹腔鏡内視鏡合同手術)は、外科医の縮小手術である腹腔鏡手術とESDを組み合わせたような治療ですが、それに加え、近年では内視鏡だけで病変を全層で切除しようというような治療法も出てきており、日進月歩です。
 今、腫瘍の話をしましたけれど、ESD の発展形の話をしますと、Submucosal en doscopyといって粘膜下層に入り込んで、それで厚くなっている固有筋層の内輪筋を切開し、食道のアカラシアの治療をしようとしたり、あとは粘膜下層に粘膜下トンネルを作って、穿孔させずに固有筋層由来の粘膜下腫瘍を切り取るような治療も行われるようになってきています。
 大西 治療の適応も以前はいろいろと厳しかったと思うのですが、少しは拡大されてきているのですか。
 藤城 例えば大腸ESDに関しては、保険が通ったころは2~5㎝の病変という縛りがあったのが、今は5㎝以上の病変に対しても保険が適用されるようになっていますので、そこは技術の進歩とともに適用も拡大してきている状況かと思います。
 大西 日本はけっこう進んでいるのではないかと思いますが、欧米の状況はどうでしょうか。
 藤城 まず日本は消化管がんのうち、早期胃がんが6割以上です。欧米では2割以下と言われているので対象となる病変が少ないことで技術の発展を阻害している部分があります。ただ、やはり欧米の先進施設においてはセンター化してESDを積極的に取り入れて、非常に上手に治療しているようなところも出てきています。
 大西 日本は内視鏡が非常に得意だということ以外に、早期に見つけるのには、どういった点が影響しているのでしょうか。
 藤城 やはり、一番のポイントは内視鏡へのアクセスが非常に容易であることだと思います。保険で内視鏡の患者負担も安く抑えられているところもあると思います。あとは胃がんに関して、対策型の胃がん検診が行われています。従来はレントゲン検診、バリウム検診でしたが、今は内視鏡検診が始まっているので、そのあたりもかなり内視鏡治療の発展に寄与していると思います。
 大西 レントゲンの話が出ましたが、まだ行われている場合も多いかと思いますが、どうなのでしょうか。
 藤城 レントゲンでは病変があるだろうと要精検として引っ掛けた病変と違うところに早期のがんが見つかってくることがあったりします。内視鏡医のマンパワーがクリアできればレントゲンではなくて、内視鏡検診にすべきではないかと思います。
 大西 次にロボット手術もかなり進歩していると思いますが、そのあたりの状況を教えていただけますか。
 藤城 ロボット支援手術に関して、消化器系のがんは保険が適用されてきていますし、ダヴィンチという海外のメーカーのロボットが特許切れになって、国産のヒノトリというような、新しいロボットが保険適用されました。全国的にこのロボット支援手術を広めていこうという動きも出てきています。東京大学病院では、胃食道外科の瀬戸教授がNOVEL(Non One-lung Ventilation Esophagectomy with extended Lymphadenectomy)という食道がんのロボット支援根治手術を新規に開発されていて、今後注目を集めるところではないかと思います。
 大西 患者さんに勧める場合、ロボット手術のメリットについてはどのように説明されていますか。
 藤城 私自身が実際にやることはないのですが、まず傷が小さくて済むという点があると思いますし、食道がんの場合は、従来の手術の仕方では片肺換気といって肺をつぶして食道の手術をしなければならなかったところが、ロボットを使うと、肺を両方膨らませたまま治療ができるようなこともうかがっています。あと、経験を積んだ外科医のノウハウというのは非常に重要だと思うのですが、一方で歳を取ってきますと集中力が少し落ちたり、手振れをしたりということも起こります。それがロボットでは全くないというメリットもあるかと思っています。
 大西 どうもありがとうございました。