ドクターサロン

 池脇 眼科のナイトコンタクトレンズという質問をいただきました。眼科医は一般的にナイトコンタクトレンズというよりも、オルソケラトロジーといわれていますが、オルソケラトロジーとは何かを教えてください。
 松村 オルソケラトロジーはハードコンタクトレンズを睡眠中に装用して、起床時に外すと角膜の形が変わっていることによって、視力を矯正する治療です。角膜の中央部分が平らになって、周辺部分が厚くなるように変わるので、それで視力の矯正ができるといったことから、大人への処方で日本に導入された治療法です。
 池脇 オルソケラトロジーという言葉を分解すると、最初の「オルソ」というのは正常化する、真ん中の「ケラト」が角膜ですから、その角膜を平坦化、正常化するという意味が込められた言葉なのですね。
 松村 そうですね。言葉のままの意味です。
 池脇 日本ではいつごろ導入されたのでしょうか。
 松村 オルソケラトロジーは2009年に導入され、その時点では、大人への視力の矯正の一つとして使われていたのですが、ここ10年、お子さんに使用すると、近視の進行を抑える効果があることがわかり、ナイトレンズとして注目を浴びて、処方がどんどん増加しています。ガイドラインは、2017年に20歳未満の処方も慎重投与と変わりましたので、その時点で処方の増加が目立ってきたと思います。
 池脇 先生の説明を聞いて、ある程度理解はできたのですが、2つほど疑問があります。一つは、コンタクトレンズというのは角膜が酸欠に陥るので寝ているときはしてはいけないと思うのですが、このオルソケラトロジーで使うコンタクトレンズは、それを払拭できるようなものになっているのでしょうか。
 松村 はい。このオルソケラトロジーとして使用するハードコンタクトレンズは、酸素の透過性の高いものとなっていて、やはり長期のデータはないので、それを見ないといけないというところはありますし、合併症もゼロではないのですが、先生方がよく心配される角膜の内皮細胞が減るのではないかという点については、今のところメタアナリシスなどでも内皮は減ってはいないことが報告されています。正常の生理的減少と同じであることが報告されていて、慎重に見つつも、使えるレンズとして処方されています。
 池脇 もう一つは、夜間にコンタクトレンズで押しておくと、角膜は変形するのですね。
 松村 はい、そうなのです。特にお子さんに使用すると、角膜が柔らかいので、角膜が変形して視力が出やすいのです。もちろん大人も視力の矯正ができますが、お子さんのほうがそういった変化が早い特徴があります。
 池脇 夜間、押して、角膜を比較的平坦にすることによって、今まで焦点が網膜の手前だった近視の方が、網膜で焦点が合うようになる。ですから、翌日は裸眼で見えるようになる。そういうことなのでしょうか。
 松村 そのとおりですね。中央が平らになりますし、周辺部が厚くなります。そして、近視の進み方がこのメカニズムには少し特徴があるのですが、網膜の黄斑部という真ん中の視力が出るところに焦点が結んであっても、眼は丸いので斜めから入る光が眼の後ろに結ぶのです。そうすると、それが刺激になり、眼の長さがどんどん後ろに伸びてくることによって近視が進行する。これが、一般でいう軸性近視というお子さんの近視のメカニズムなのです。まだ、はっきりわかっていないところもありますが、オルソケラトロジーで周辺部の角膜を厚くすることで、斜めから入る光がちょうど網膜の上や網膜の前に結ぶことによって、そういった後ろの収束の刺激が減り、近視が進みにくくなると考えられています。
 池脇 どういう方に、こういった治療法が適するのでしょうか。最初は大人で始まったということですが、近視でも、比較的軽症の人たちが対象で、逆にいうと重症の方にこの治療は難しいと聞いたのですけれども、そうなのでしょうか。
 松村 そうですね。角膜をコンタクトレンズで圧迫しますので、一応ガイドラインでは、-4までが推奨値となっています。度数を上げて視力を出すこともできるのですが、圧迫が強くなると角膜の上皮が減る率も上がります。すると、どうしても傷が増えるといった合併症が増えてきますので、-4ぐらいまでが適用になります。
 池脇 これのいいところは、それを取ると、角膜もまた、徐々に本来の形に戻る。要するに、そのコンタクトレンズで起こす変化が可逆性というのは、装着する側にとっては安心感が大きいように思いますが、どうでしょう。
 松村 そうですね。やはり手術をしてしまうと、元に戻らないですが、その点、この治療は可逆性で、お子さんにも使えるというメリットもありますので、おっしゃるとおりだと思います。
 池脇 今はお子さんにも使うようになってきた大きな理由というのは、お子さんの近視の進行を抑制できるといいうデータがあるのですね。
 松村 そうなのです。だいたいオルソケラトロジーでは、近視が進む半分、50~60%ぐらいの進みを減らすというデータが出ています。今、近視を進みにくくする治療というのは未承認ですので、自費の治療で行っています。オルソケラトロジーだけではなくて、低濃度アトロピンという目薬であったり、多焦点のソフトコンタクトレンズという治療法もありますが、やはりオルソケラトロジーの有効性がとても高くて、また、裸眼で視力が出るというところが人気です。
 池脇 できれば、昼間はコンタクトレンズでメガネはしたくない、あるいは、アスリートレベルの方でコンタクトレンズができないような方にはすごくいいですね。
 松村 そうですね。やはりスポーツをしている方、よくプールで泳ぐ方には喜ばれます。
 池脇 いくつかの会社からそういったレンズが出ていますけれども、それは既製品なのか、あるいはその方の眼に合わせたものを作っていただけるのか、どちらなのでしょうか。
 松村 まずトライアルといって最初に決まった型を入れるのですが、そこでフィッティングを見て、その方の眼に合うオーダーメイドのレンズを作るかたちになります。
 池脇 そこそこの値段だと聞いたので、ちょっと合わなかったからこちらに変更しようというのも、費用のことを考えると、できれば1回目で自分に合うものを見つけたいと皆さん思うでしょう。どのようなプロセスで選ぶと間違いなく選べるのでしょうか。
 松村 基本的には、だいたいの方が最初の処方で満足されることが多いのですが、やはり中にはオルソケラトロジーの処方が難しい眼というのがあります。少し言うと、平らな角膜をしている眼であったり、逆にすごく尖っているような形の角膜であったり、そういった患者さんには、オーダーメイドで何回かコンタクトレンズを変えることをお話しして、また料金もかからないように、数カ月か、何回か変えても問題ないということで処方になっています。
 池脇 使い始めてからも眼科医が定期的にみていくのでしょうか。
 松村 そうですね。ガイドラインでは、3カ月に1回の定期検査をすすめていまして、やはり、お子さんなどは保護者の方もすごく心配されますので、きちんと定期的に来院してくださっています。
 池脇 今のところは保険が利かない自費の治療ということですが、できれば保険が利くようになったらいいかなと思います。これは学会としてもそういう働きかけをされているのでしょうか。
 松村 そうですね。我々も、本当に保険でなんとかならないかなと思っています。しかし、これは世界中の問題でして、まだ未承認の高い治療になり、どうしてもそこで不公平が出るのです。保険適用になるのが理想ですけれども、なかなか難しく、まだまだ時間がかかるかと思います。
 池脇 新しい近視の治療法を教えていただきました。ありがとうございました。