池田
新庄先生、RSウイルスとはどのようなウイルスなのでしょうか。
新庄
respiratory syncytial virusといって細胞の中で感染して増えていくときに、細胞がくっついて、フュージョンというか合胞体ができるので、そのような名前がついています。このウイルスは呼吸器系ウイルスで、風邪のウイルスの一つです。RNAウイルスなので、比較的変異をしやすいエンベロープというものがついており、アルコールに弱いという特徴があります。
池田
今、コロナで季節性もなくなっているような感じですが、従来はいつごろの季節にはやったものなのでしょうか。
新庄
従来は秋の終わりから冬でしたが、だんだん秋の初めぐらいになってきました。コロナになってから、いったん流行がなくなりましたが、またさらに早まって、夏ぐらいが流行時期になってきたという傾向があります。
池田
では、以前とは、少し感染時期が変わってきているのですね。今は2023年10月末ですが、インフルエンザもはやってきているので、コロナとインフルエンザとRSウイルスが混ざった状態なのでしょうか。
新庄
アデノウイルスやヒトメタニューモウイルスなどいろいろ混ざっています。
池田
では、ざっと5~6種類くらいは、はやっているのですね。
新庄
そうですね。ほかにもライノウイルスなどたくさんあります。
池田
となると症状、診断が大切になってきますが、例えば、小さなお子さんが感染した場合に特徴的な症状はあるのでしょうか。
新庄
赤ちゃんの場合は、あまり風邪の症状がはっきりしないことがあります。実は、呼吸が止まる無呼吸のような症状のときがありますが、乳児でも少し大きくなってくると、やはり鼻風邪が多いのです。0歳までは、下気道の下のほうまで感染して、細気管支炎といって喘息のようにゼーゼーするのが特徴です。年齢が上がるとだんだん軽くなってくるといわれています。
池田
これは何回も繰り返し感染するのですか。
新庄
そうですね。0歳で7割ぐらいがかかるといわれていて、3歳までにほぼ全員かかる。知らないうちにかかっていることも多いです。
池田
そして、高齢になっても、かかるのですね。
新庄
はい。大人になってもかかるし、流行のたびに、やはり何%かの人はかかっていくので、何回かかっているか、わからないのです。
池田
でも1回かかると、ある程度の免疫は反応するのですね。
新庄
そうですね。反応しますが、そんなに長くは続かないので、何回も繰り返しているうちに、軽くなっていくといわれています。一般成人はそんなに重症にならないです。
池田
逆に言いますと、やはり新生児から生後6カ月ぐらいまでが、重症になりやすいのでしょうか。
新庄
そうですね。重症になって入院しやすいです。
池田
検査については例えば、レントゲンやCTなどで、小さなお子さんに特徴的な所見はあるのでしょうか。
新庄
肺炎になれば肺炎の像が出てきますが、だいたいは細気管支炎といって喘息に似た感じで過膨張になるか、あるいはレントゲンではあまりよくわからないことが多いと思います。
池田
では、特異的所見なしということですね。
新庄
特にないです。
池田
先生がおっしゃった鑑別としては喘息になるのでしょうか。
新庄
そうですね。ただ、0歳で喘息を診断するのはなかなか難しいので、0歳の子が熱とか微熱で来院して、ゼーゼーして、鼻もひどいような場合は、やはりRSウイルスをはじめとした細気管支炎を先に疑います。
池田
まず感染症を疑うのですね。
新庄
そうですね。
池田
今、5~6種類ぐらいはやっているということですが、迅速診断キットはあるのでしょうか。
新庄
小児科医の中では有名なのですが、RSウイルスは、インフルエンザより前から迅速診断キットがあって、今もイムノクロマト法を中心として、かなりの迅速診断キットがあります。
池田
迅速診断キットは、一般的によくインフルエンザ診断の際に使われていますね。鼻をぬぐって、試薬液に溶かして流す、あのような感じなのでしょうか。
新庄
そうです。同じものです。最近はいろいろなウイルスや菌をまとめてPCRで検出できるセットがあり、その中にも、RSウイルスやインフルエンザが一緒に入っています。
池田
たくさんのウイルスをターゲットにしたプライマーがあって、それを一度に反応させて、増幅してきたものが何かを調べるのですね。それは便利ですね。なにしろ、多くの感染症がはやっているということでこういう質問があったと思うのですが、すでに診断キットとして売られているのでしょうか。
新庄
はい。保険適用もあって、普通に市販されています。
池田
RSウイルス感染症と鑑別がついたら治療になると思いますが、特異的な治療はあるのでしょうか。
新庄
RSウイルスに効く薬はインフルエンザのようにはないので、やはり対症療法になってしまいます。
池田
では、診断がついたけれども、その人の症状に合わせて、やっていくのですね。基礎疾患あるいは免疫不全のお子さんの場合はどのようにするのでしょうか。
新庄
治療としては同じなのですが、パリビズマブというモノクローナル抗体で、RSウイルスが流行する少し前ぐらいから流行期の間、それを毎月1回筋注するという予防方法があります。
池田
それはRSウイルスに対して、人工的に作られたモノクローナル抗体ということですね。コロナでカクテル療法というものがありましたが、それに近いものですか。
新庄
そうですね。近いのですが、これは治療には使えなくて、あくまでも予防で使うというかたちになります。
池田
これを使って治療することはないのですね。
新庄
はい。原理的には可能かもしれないのですが、適応上はないです。
池田
逆に言うと、診断がついてからでは意味がないものですよね。
新庄
診断がつく前の発症予防、あるいは入院予防効果を目指して投与するものです。
池田
おそらく、限られた病気をお持ちのお子さんしか使えないと思いますが、どのような疾患が対象になっているのでしょうか。
新庄
循環動態に異常がある先天性心疾患、早産の方、あとは21トリソミー、免疫不全者といった方が対象になっています。年齢は限られているので、そこは注意しなければいけないですね。
池田
具体的には何歳ぐらいまでなのでしょうか。
新庄
疾患によって違い、生後6カ月や2歳までとなっています。
池田
疾患の種類によって対象年齢が違ってくるのですね。なにしろ、高額でしょうから、大切なことですね。
新庄
そうなのです。非常に高いし、何回も打たなければいけないのです。
池田
でも、一度に6種類も7種類も感染症が流行している場合、いつ始めていいのかはわかりづらいですね。
新庄
そうですね。RSウイルスがいつ流行するかはなかなか難しい。地域によっても違うので、これを投与する開始時期も、やはり地域によって変えていくみたいです。
池田
それは、RSウイルスの感染症を定点観測していて、始めるということですか。
新庄
そういうものを参考にしたりしています。
池田
対象のお子さんに流行が終息するまで月1回、例えば、通常なら10月、11月ぐらいから2月、3月くらいまでパリビズマブで予防するのですね。
新庄
そうだったのですが、最近はいろいろ変わってきました。
池田
これだけ、いろいろなものがあるとたいへんですね。最近、RSウイルスに対してワクチンが開発されているとうかがいました。どういった状況なのでしょうか。
新庄
現在、承認はされていますが、まだ発売はされていないという状況です(注:2024年1月15日に発売)。本当は子どもに効果があるといいのですが、今のものは、高齢者を中心とした発症予防効果や下気道感染予防効果を目指したワクチンになっています。
池田
では、まだお子さんへの適応はないのですか。
新庄
はい。
池田
妊婦さんへの適応はありますか。
新庄
今、日本で使えるものはありませんが、妊婦さんに投与すると、そこでできた免疫がへその緒を介して赤ちゃんに効くといわれていて、そういう報告も実際ありますので、小児科医としてはそちらも期待したいと思います(注:2024年1月18日に国内製造販売承認を取得)。
池田
胎盤を通して、IgGが移行して、生後3カ月から半年ぐらいまでは残るだろうという間接的な効果ですね。
新庄
インフルエンザなども妊婦さんに打つと、そういった効果があるといわれています。
池田
それは新しい考えですね。特にRSウイルスは生後半年や1年で、とても重症になることからすると、すごく意味がありますね。どのようなタイプのワクチンなのでしょうか。
新庄
アジュバントのついた組み換えの不活化ワクチンです。
池田
コロナで有名になったメッセンジャーRNAとは違いますね。
新庄
はい。それとは違います。
池田
試験管内で合成したタンパク質をアジュバントに混ぜて打っていくのですね。少し気になるのは、繰り返して感染するということですが、この一つのワクチンを打って感染の防御ができるのでしょうか。
新庄
RSウイルスに対して長期にわたって予防効果があるかどうかは、なかなか難しいところだと思っています。
池田
基本的にはRNAウイルスなので、変容することはあるのでしょうか。
新庄
それはあります。
池田
コロナの場合は次々と新しいワクチンを作っていましたが、そういうことが必要になるかもしれないですね。インフルエンザでは毎年のように南半球ではやったものを見つけて作っているので、将来的にはそのような感じにもなるのかもしれませんね。
新庄
そうですね。今のインフルエンザワクチンよりはアジュバントもついていて、かなり免疫原性も高いので、どのように接種していくかは今後の課題だと思います。
池田
まだまだ発売もされていないので、今後どうなるのかを、見極めていくしかないということですね。ありがとうございました。
〈2023年11月2日放送〉