池脇
スタチンの相互作用について質問をいただいています。佐藤先生は東京女子医科大学循環器内科で、家族性高コレステロール血症の患者さんを多く診療し、スタチンもたくさん使っておられるということで解説をお願いしました。
ロスバスタチンと水酸化マグネシウムを併用すると、ロスバスタチンの血中濃度が50%低下し、2時間ずらすと血中濃度の低下が20%になるという相互作用についてです。これはどういうことなのでしょうか。
佐藤
あまりよく知られていないのかもしれませんが、これはAUC(薬物血中濃度時間曲線下面積)の低下によります。制酸剤の投与を2時間ずらすことにより、このAUCの低下が回避されます。吸収過程における薬物相互作用が原因であると考えていただければよいかと思います。制酸剤は水酸化マグネシウムですが、その他の汎用されているPPI等の胃薬に関しての報告はされていません。
池脇
血中濃度が下がるということは、水酸化マグネシウムとの相互作用でロスバスタチンが吸収されにくくなるということですね。この機序は、あまり明らかではないのでしょうか。
佐藤
はい。水酸化マグネシウムには相互作用があります。似た名前で酸化マグネシウムという便通改善薬があります。ロスバスタチンとの相互作用としては、ロスバスタチンの中にカルボキシル基があり、弱酸性薬物であることが知られています。そのため、胃のpHが上がることにより、イオン化が進み吸収されにくくなります。また、このロスバスタチンのOH基に酸化マグネシウムが結合すると、キレート形成してロスバスタチンが吸収されにくくなることも知られています。両者は名前が似ていますが、水酸化マグネシウムと酸化マグネシウムは、相互作用の機序に違いがあります。ほかのスタチンでは、今のところ報告はありません。
池脇
1点確認なのですが、どうして吸収が落ちるのですか。胃のpHが制酸剤によって上がるとおっしゃいましたが、我々が胃薬として汎用しているPPIやH2ブロッカーは、同様に胃のpHを上げるので、スタチンの吸収低下阻害は心配しなくてもいいのでしょうか。
佐藤
pHは確かに変化しますが、今のところスタチンとの関連は報告されていないと思います。
池脇
スタチンとPPIやH2ブロッカーを併用している患者さんは大勢いらっしゃいますので、それは一つ安心材料です。もう一つ、今回はロスバスタチンとの相互作用についてでしたが、ほかのスタチン製剤では同様の報告はないのでしょうか。
佐藤
スタチンの中で、ロスバスタチンは唯一極性の高いメタンスルホンアミド基を含むために水性であることが知られています。このためにキレートしやすくなっています。しかしほかの多くは脂溶性なので、その違いがあるのではないかと考えられます。
池脇
逆にほかのスタチンでは、相互作用の報告はなく、心配はないと考えてよいですか。
佐藤
そうですね、報告はされていないと思います。
池脇
わかりました。今回、制酸剤、水酸化マグネシウム、あるいは酸化マグネシウムの質問ですが、スタチンは様々な薬剤との相互作用や、併用禁忌や慎重投与の必要な薬がありますが、気をつけたほうがよい薬はありますか。
佐藤
はい。特に気をつけていただきたいものは、免疫抑制剤です。シクロスポリンを使っている場合には、併用禁忌です。多くのスタチンでは、先ほども出ましたAUCやCmaxが併用により非常に上昇します。唯一、併用注意となっている薬はフルバスタチンです。最大60㎎まで投与可能となっていますが、AUCが3倍増加するので、それを考慮して最大用量の3分の1程度の10~20㎎投与であれば、安全に使用できると思います。
池脇
それ以外には、抗真菌薬マクロライド系抗生物質、抗凝固薬のワーファリンなども、ほかの薬剤との相互作用で血中濃度変化が知られていますが、慎重投与の範疇に入るのでしょうか。
佐藤
ロスバスタチンの電子添文をご覧になった先生方は、併用注意の中に入っているのをご存じかと思いますが、抗凝固作用が増強することが知られています。INRなどをみながら、注意して使用していただければと思います。マクロライド系抗生物質やアゾール系抗真菌剤なども、HMG-CoA還元阻害剤(スタチン)との併用で、ミオグロビン尿症や腎機能悪化による横紋筋融解症をきたすおそれがあります。フィブラート系薬剤同様に注意をしていただければと思います。
池脇
最後にスタチンとフィブラートを併用すると横紋筋融解症の副作用発現率が高まると考えている医師は、投与を慎重にしてこられたと思いますが、このあたりはどうでしょう。状況は変化してきたのでしょうか。
佐藤
日本動脈硬化学会でスタチン不耐に関する診療指針2018が出されていますが、家族性高コレステロール血症などの心血管疾患リスクの高い患者では、LDLコレステロールを厳格にコントロールしなければいけません。この場合には、スタチンは用量依存性に、CPK値上昇、腎機能悪化、筋肉痛などの症状出現の可能性があり、それらを注意しながら投与します。しかし、症状が何もなく、CPKも上昇しない場合は、積極的に増量して大丈夫だと思います。また、筋肉痛などの症状は、ノセボ効果(逆偽薬効果)によりスタチンを内服していることで症状がある患者さんもいます。この場合は、患者さんに薬の効果や副作用、必要性の説明をしっかりしていただくことが重要です。CPKなら症状がなければ1,000㎎/dLまで、肝機能は2倍まで、ビリルビン値でしたら2㎎/dLを超えるまでスタチンを投与してもメリットのほうが大きいことがわかっています。実際に有害事象での、CPK値の上昇や筋痛などは7.2%程度といわれています。
池脇
先生の解説でスタチン不耐の話もしていただきました。スタチン内服により、ノセボ効果で薬が悪さをしていないケースもけっこうあるとのことですね。筋痛など筋の症状以外にCPKとか、肝酵素を見ながら、けっこう、使えるケースはあるというのが大筋だったと思います。フィブラートに関して一つ確認ですが、最近出たペマフィブラートは、スタチンとの相互作用がほとんどないという触れ込みですけれども、先生の印象はどうでしょう。
佐藤
ペマフィブラートは、ほぼ肝代謝の薬ですので、腎機能が悪くても使えるという特徴があります。発売された当初は同じフィブラート系薬剤として、電子添文には同様な腎機能障害には禁忌との注意が出ていましたが、途中で見直されました。今は変更され、高度腎機能障害患者においても増悪はなかったと記載されています。腎機能障害がある患者さんにペマフィブラートは比較的安全に使っていただけると思います。高トリグリセライド血症によく効く薬ですので、積極的な投与をご検討いただければよいかと思います。当然、肝機能、CPK、腎機能には注意をしてください。
池脇
確かに、スタチンや併用可能な脂質低下薬により、LDLコレステロール値は以前に比べ、ターゲット値までだいぶコントロール可能となった一方で、中性脂肪の問題は残っています。高トリグリセライド血症をコントロールする際に、併用薬の選択に慎重な医師も多いと思います。フィブラートの中で新しく出たペマフィブラートでは、腎機能障害や横紋筋融解症の懸念をあまり持たなくてもいい薬という理解でよいのでしょうか。
佐藤
はい。そのとおりです。
池脇
どうもありがとうございました。