ドクターサロン

 皆さんの部署では定期的に「論文抄読会Journal Clubを開催されているでしょうか?「全員参加の英語論文抄読会を毎週開催しています!」という熱心な医局もあれば、「論文は日本語に翻訳されたものしか読まないし、医局員が集まって読むこともない」というように論文読解に消極的な医局もあることでしょう。
 定期的に開催している熱心な医局では独自の「形式」があり、毎回その形式に沿って抄読会が開催されていると思います。しかしその形式が「抄録の和訳を読み上げた後、図や表の解説を行う」というものになってはいないでしょうか? 私の経験上、多くの日本人医師が「抄録Abstractを読んだ後、論文本文においては「Figuresや「Tablesにしか目を通さないという行動を取ります。この理由としては「先輩医師からそのように読むようにと教わったから」というものがあると思いますが、そこに論理的な根拠はなく、単に「図や表は英語が少ないので読みやすいから」というのが真の理由だと個人的には考えています。
 しかし図や表を解説するよりも簡単に論文の全体像を把握できる「形式」があるのです。私が教鞭を執っている国際医療福祉大学医学部では、2年生全員がその「形式」に沿って15分間でのJournal Club Presentationを行っています。学生からの評価も高く、私が担当している様々な医学英語授業の中で、学習効果としては最も高く学生から評価されている内容なのです。ここではその「形式」の要点をご紹介したいと思います。
 まずは多くの皆さんが行っているように「抄録Abstractの解説から始めます。ご存じのように、原著論文のAbstractはBackground, Methods, Results, and Conclusionsという4部構成になっています。もちろんこれを順番に解説していくわけですが、ここではその配分が重要になります。
 少し話がそれますが、皆さんは3MT® というものを聞いたことはありますか? これはThree(3)Minute Thesisの略で、「博士論文の研究発表を3分間で行う」という豪州クイーンズランド大学発祥の発表形式です。学位には大きく分けてMaster修士」とDoctor(PhD)博士」の2種類がありますが、欧州・ 豪州では「修士論文」をDissertationと、そして「博士論文」をThesisと呼びます(米国ではこれが逆になり、「修士論文」をThesisと、「博士論文」をDissertationと呼びます)。これら学位取得のための正規の「口頭試問Viva/Defenseとは別に、欧米の大学院では研究内容を専門外の人にわかりやすく伝えるという発表会も行うのですが、それを3分間で実施しようというのがこの3MT®なのです。ここでは研究について背景知識のない人が対象となるので、AbstractのBackground, Methods, Results, and Conclusionsの4要素の中で最も重要となるのが「研究背景」であるBackgroundとなり、3MT®ではこのBackgroundをOpening, Keywords, Issue, and Original Con tributionの4項目に細分化して説明することが一般的なのです。
 この3MT®のAbstractの発表形式を我々のJournal Club Presentationにも応用しましょう。
 まずは聴衆の興味を引くためのOpeningです。ここではなぜ発表者がその論文に興味を持ったのかを説明するほか、論文の著者についても言及しましょう。スライドを使って発表する際には著者のプロフィール写真を提示します。そうすることで研究者に親近感が湧き、研究そのものも身近に感じられるようになります。また「著者の所属機関Author Affiliationsにも言及し、その研究が単一の機関で行われたのか、複数の機関で行われたのか、単一の国で行われたのか、複数の国で行われたのかなどについても言及しましょう。
 次にその研究のKeywordsを説明します。Journal Clubに参加している方の全員がその研究で重要となる用語について知識があるわけではありません。ですから最低限の背景知識はここで共有しておきましょう。
 通常Backgroundには「先行研究でわかっていること」「まだわかっていないこと」「この研究の目的」が書かれています。そして「先行研究でわかっていること」を見ることで「研究が解決しようとしている問題Issueが、そして「先行研究でわかっていること」と「この研究の目的」を対比することでその研究の「独自性Original Contributionが浮かび上がります。このIssueOriginal Contributionを明確に言語化して発表するようにしましょう。
 Abstractに関しては、後は順番どおりMethods, Results, and Conclusions を述べていきましょう。もちろん必要に応じて本文中のFiguresやTablesを用いてもかまいません。
 Abstractについての発表が終わったら、本文中の「考察Discussionについて発表しましょう。というのもここにはAbstractには載っていない重要な情報が含まれているからです。
 このDiscussionは複数のパラグラフから成り立ち、1)Summary of the results結果のまとめ」2)Interpretation of the results結果の解釈」3)Generalizability/Limitations of the study研究の限界」4)Conclusions結論」で構成されています。このうち1)Summary of the resultsを解説している最初のパラグラフはAbstract のResultsに、そして4)Conclusions を解説している最後のパラグラフはAbstractのConclusionsに相当するわけですから、この最初と最後の2つのパラグラフは読む必要はありません。ですからDiscussionを発表する際には2番目以降のパラグラフが解説する2)Interpretation of the resultsと、最後から2番目のパラグラフが解説する3)Generalizability/Limitations of the studyの2つに力点を置いて発表すれば良いのです。
 ここまでが自分が選んだ原著論文の内容なのですが、その原著論文に関する2つの別の論文も読んでみましょう。
 1つ目がEditorial編集後記」という論文です。これは医学学術誌のその号に掲載された様々な論文を批評する論文なのですが、世界的に著名な学術誌では論文ごとにEditorialを掲載することが一般的です。つまり自分が発表する原著論文に関するEditorialを読めば、自分が発表する原著論文が持つ「その研究分野での意義」もわかるのです。
 このEditorialは幾つものパラグラフで構成されています。「その研究分野での意義」を紹介しているパラグラフはたいてい最後か、最後から2番目になることが一般的ですので、その部分だけを読むことで自分が発表する原著論文の「その研究分野での意義」を見つけることができるのです。
 2つ目がCorrespondence通信欄」という論文です。これはその学術誌に掲載された論文に関するLetters to the Editor読者から編集者に寄せられた手紙」と、Author's Reply著者からの回答」からなる論文です。寄せられる手紙の筆者は同じ分野の研究者であることが多く、このCorrespondenceを読むことで自分が発表する原著論文の研究が「世界のほかの研究者からどのように批判されているか」を理解することができるのです。
 このようにEditorialを使えば、自分が発表する原著論文の「その研究分野での意義」がわかり、Correspondenceを使えば「ほかの研究との関係」を理解することができるのです。これまでJournal ClubでこういったEditorialやCorrespondenceなどを全く活用してこなかった方はぜひ一度試してみてください。対象となる論文を俯瞰して考えることができ、自身の研究の質疑応答にも応用できる知識が蓄積できるので強くお勧めいたします。
 そしてJournal Club Presentationで最後に言及するのがConference Report学会レポート」やSocial MediaSNS」 などに現れる著者のコメントです。海外の有名な学術誌に掲載されるような原著論文は、論文が掲載される前に国際学会にて発表されていることが一般的です。そのような口頭発表では英語で書かれたConference Reportを見つけることができます。ここでの著者のコメントを確認することによって、論文などでは見つけられない著者の「本音」を確認することができます。特に最近では研究を動画やSNSなどで紹介している場合も多いので、そういったSocial Mediaから論文には現れてこない「人間味溢れる情報」を集めてみるのも面白いと思います。こういう人間らしいコメントを紹介することで、無味乾燥になりがちなJournal Clubも楽しくなると思います。
 いかがでしたか? これまで英語医学論文抄読会を敬遠していた方も、Abstractを3MT®形式で発表し、Editorial, Correspondence, and Social Media を活用して論文を多角的に発表することで抄読会を楽しめることと思います。ぜひ次の機会から試してみてください。