大西 土橋先生、「動脈硬化性疾患の予防を考える」シリーズ、「小児への対応」についてうかがいます。小児の脂質異常症の早期発見は難しいのではないかと思うのですが、どのようにしたらよいのでしょうか。
土橋 小児は成人と違って事業者による健康診断のようなものがないので、採血の機会が少ないです。外来でもだいぶ具合が悪くないと採血しないので、何か採血の機会があるときには、TC、TGぐらいを検査項目に入れてもらえると脂質異常症が見つかるのではないかと思っています。
大西 コレステロールや中性脂肪も機会があればチェックしておく、ということですね。
土橋 そうですね。できるだけ機会をつくっていただいてチェックするとよいでしょう。
大西 学校の健診ではあまり採血しませんよね。
土橋 そうです。採血する健診は本当に少なく、生活習慣病健診のようなものは、一部の地域だけに限られています。例えば腎臓でも肝臓でも貧血でもいいので何か採血の機会があったときに一緒にチェックしていただけるといいと思います。
大西 一般的にお子さんの脂質異常症は、増えているのでしょうか。肥満のお子さんも見かけますが、増加してきているデータはありますか。
土橋 特に増えてはいないと思いますが、発見率は少しずつ高まっているかと思います。
大西 小児の脂質異常症の基準を具体的に教えていただけますか。
土橋 ガイドラインにも載せたのですが、LDLコレステロールは140、HDL は40です。トリグリセライドは成人では150ですが、小児は140としています。これはだいたい高いほうが95パーセンタイル、HDLは5パーセンタイルを基準としています。そして小児では、総コレステロールもよく見られるので、TCの値は220としています(表1)。
それから、もう一つ、最近使われるnon-HDLコレステロールというトータルコレステロールからHDLを引いたものですが、これはだいたい小児の95パーセンタイルが150ぐらいになるので、150にしてあります。全体的にほぼ成人と同じような値になっていますので、わかりやすいと思います。
大西 具体的な疾患についてうかがいます。原発性脂質異常症が問題になるかと思いますが、はじめに原発性の高コレステロール血症、FH(家族性高コレステロール血症)に関して教えていただけますか。
土橋 コレステロールが高いのは、やはりFHが一番代表的なもので、昨年、小児FHの診療ガイドラインも改訂されました。詳しいところはそれを見ていただければと思うのですが、LDLコレステロール140以上で、特にFHの家族歴があれば、これはもう間違いなくFHとなります。もう一つは、LDLがすごく高い場合には、家族歴ははっきりしなくてもFHを積極的に疑っていきましょう、ということになっています(表2)。
大西 その目安はどれくらいですか。
土橋 だいたい180としているのですが、180以上あれば、先ほども言いましたように、家族歴がはっきりしなくても、FH疑いとしてフォローを奨めています。中にはすごく高い人がいて、250くらいありましたら、それはもうFHの診断でいいとしています。
大西 お子さんの場合、FHの治療は何歳ぐらいからと考えるのでしょうか。
土橋 一般的なFHでは、10歳以上でLDLコレステロールが180以上が持続する場合には、もちろん食事や生活習慣指導もするのですが、薬物療法をすることにしています。
大西 次に中性脂肪が高い場合の対応について教えていただけますか。
土橋 中性脂肪が非常に高くなるのは、リポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損症が有名で、それは小児でもあります。やはり膵炎を起こすので、少し問題になります。なかなか治療が難しいのですが、基本的には食事療法になります。
大西 その疾患は、どのようにして見つけたらよいでしょうか。
土橋 検査しないとわからないところがあります。LPL欠損症の部分的なタイプでは食前に測ってもあまり高くないことがあります。ただ、食後にすごく高くなり、1,000近くになるタイプもあります。
大西 そんなに上がるのですね。
土橋 そういう人は、食後の採血も重要かと思います。
大西 膵炎はどれくらいを超えると起こるのでしょうか。
土橋 やはり4桁になってくると、危険性が出てきます。
大西 膵炎まで起こるのはたいへんですね。
土橋 そうですね。
大西 続発性脂質異常症についてうかがいたいのですが、どういった疾患があるのでしょうか。
土橋 肥満に伴って脂質の異常が出てくる頻度が高いと思います。やはり中性脂肪が高くなったり、HDLが低くなったりして、LDLコレステロールも高くなりやすいです。ただ、肥満の子どもが皆異常を起こすわけではないので、必ず原発性の脂質異常症も念頭に置く必要があると思います。それから、もう一つ重要なのは、やはり甲状腺です。橋本病などの甲状腺機能低下症で、本当にFHのようにLDL が高くなります。
大西 小さいお子さんでもそうなりますか。
土橋 はい。小学生くらいになると、ときどき見られます。
大西 我々はよくご年配の方で見つけることがあるのですが、小さいお子さんでもあるのですね。
土橋 成人の方が多いとは思いますが、小学生ぐらいからだんだん増えてきます。
大西 糖尿病などでも関係することはありますか。
土橋 糖尿病でも脂質の異常は出てきます。ただ、糖尿病で値がいくつになったら薬物療法をしましょうという基準が今のところ小児にはないので、専門医と相談し、血糖をしっかり管理しながらになると思います。
大西 適切な食事療法や運動習慣によって適正体重を維持していくことが重要だと思いますが、何か肥満の判定方法はあるのですか。
土橋 はい。小児は肥満の判定をBMIではできないのです。というのは、身長が伸びるため体重の標準値が年齢とともに変化してしまうのです。ですから、どのくらいがいいというのは言えないので、一般には肥満度という、標準体重から何パーセント隔たっているかを見る式を用いて標準体重より20 %を超えたら肥満と判定しています(図)。
大西 お子さんへの食事、運動療法というのは、どのように指導したらよいのでしょうか。
土橋 高度な肥満の方は、なかなか難しいのですが、もちろん、食事と運動療法を一生懸命やってもらって、小児ではあまり厳しいダイエットはしません。背がまだ伸びますので、体重があまり増えないようにしておけば、背が伸びて自然にバランスが良くなるという考えでやっています。
大西 大人の場合だと1日何歩など、具体的な目標がありますが、あまり細かい指導ではないのですね。
土橋 そうですね。できるだけ長続きできるような指導を心がけています。
大西 肥満のお子さんを最近見かけることもあるのですが、お子さんでは男女の性差はあるのでしょうか。
土橋 脂質異常症に関しては、あまり性差はありません。ただし、尿酸値は少し性差があります。子どもでも、内臓脂肪の蓄積というのは重要で、やはりウエストを見ながらやっていくのがいいと思います。
大西 受動喫煙もいろいろ問題になるかと思いますが、喫煙との関係を教えていただけますか。
土橋 特にFHのように脂質の異常が強い場合にはなおさらですが、将来的に喫煙しないように、それから受動喫煙も問題になりますので、ご家族にも協力していただいて、そういうものを除けるといいと思います。
大西 どうもありがとうございました。
動脈硬化性疾患の予防を考える(Ⅴ)
小児への対応
塩山市民病院小児科
土橋 一重 先生
(聞き手大西 真先生)