ドクターサロン

 池田 アトピー性皮膚炎で痒みが激しい小児の治療についての質問です。子どもさんが痒くて痒くて寝られず、親もイライラしてしまう状況もあると思います。小児といっても、アトピー性皮膚炎の症状は少しずつ変わってきますね。例えば、乳幼児はどのような状態になることが多いのでしょうか。
 佐々木 小児のアトピー性皮膚炎は臨床的に乳児期、小児期、思春期と分けられますが、乳児期から始まった場合、最初の子育ての中で、赤ちゃんがすごく痒いと、お母さんたちがたいへんショックを受けたり、アトピー性皮膚炎という診断を受けると、すごく心配されますが、大半は幼児期に至るまでにかなり軽くなる方も多いのです。そして、幼児期よりも「小児期」のほうがむしろ慢性期の湿疹がずっと続いている状態で、やや治療が慢性化したために悪化したりすることは多いと思います。乳児期のほうが短期間で、そう痒感が楽になっていくことも多いように思います。思春期に入ると、成人の病態に近くなりまして、症状の強いお子さんだけが残っていくと思います。
 池田 では、乳児がアトピー性皮膚炎様になっても適切な治療をすると多くの方が症状が消えていくのですね。
 佐々木 そうですね。
 池田 症状が消えないお子さんが、いわゆる小児のアトピー性皮膚炎に移行していくのですね。
 佐々木 はい。それが多いと思います。
 池田 そこが少し頑固になるのですね。小児には抗アレルギー薬の種類がたくさんありますが、第一世代、第二世代の使い分けはどのようにしているのでしょうか。
 佐々木 今は痙攣誘発作用がある第一世代の薬は、あまり使われない傾向が強くなって、第二世代が主に使われていると思います。第二世代には、ドライシロップ、シロップ、顆粒、口腔内崩壊錠、錠剤剤形があるのですが、やはり年齢的に乳幼児はシロップ、ドライシロップ、顆粒が中心になると思います。お子さんによりますが、最近は年齢があがってもドライシロップしか飲めないお子さんも増えているかもしれませんが、そのお子さんが飲めるものを選んでいきます。あとは年齢別に区分されている規定を守ることになると思います。
 池田 やはり痒みが強い場合は、規定の用量を飲ませてもあまり効かないという親御さんがいますよね。その時はどのように対処されるのですか。
 佐々木 この場合は、用量を倍にする、あるいは第一世代を選択したほうが効果が高いお子さんもいるので、例えば熱性痙攣の既往がないかなどを確認して、既往がないお子さんであれば、薬剤師と相談しながら処方をしていくと効果が出る場合もあります。
 池田 第一世代がダメと言わないで、よく親御さんに説明しながら、投与してみて大丈夫だったら第一世代でいってみるのですね。
 佐々木 はい、使うときがあります。
 池田 倍量投与という話があったのですが、これは電子添文等で認められているのでしょうか。
 佐々木 抗ヒスタミン薬に関しては、電子添文にはありませんが臨床上認められているものが多いと思います。
 池田 第二世代にしても、いわゆる眠気が少ないことを特長とするものもあります。例えば、第二世代の少し眠くなるかもしれないものを投与してダメな場合、眠くなりにくいとされているものを、2種類併用して飲ませるようなことはあるのでしょうか。
 佐々木 そういった場合もあります。例えば、朝は眠くないもので幼稚園での生活や学童期の勉強に差し支えないものを選び、夜だけ少し眠気があってもいいものを選ぶ場合もあります。お子さんの痒みのイライラで親御さんも一緒に寝られないことがあるといけませんので、夜はよく眠れたほうがいいということもあります。
 池田 抗ヒスタミン薬だけではコントロールがつきにくい場合、外用等はどのように使われるのでしょうか。
 佐々木 まずアトピー性皮膚炎は皮膚疾患であり、皮膚に炎症のある痒みの強い病気だということを考えますと、やはり抗ヒスタミン薬は補助なので、まず第一に外用療法を見直す必要があると思います。ですから、例えば同じ薬を出しても、きちんと塗れているのか、指示した量を使っているかを確認する必要があります。学童期になり本人任せにしていると、本人はベタベタするのが嫌いで実は塗っていないということがあります。あるいは保護者がステロイド薬を心配して薄く塗りすぎているなどもありますので、まずは外用療法の検証がとても大切だと思います。
 池田 外用に関しても、今お話があったステロイドと、最近はステロイドではない薬も出ていますが、この使い分けは、どのように指導されるのでしょうか。
 佐々木 まず、2歳以下はステロイドを中心にすることが多いのですが、最近出てきましたJAK阻害薬の外用薬は、生後6カ月から濃度が高いものも使えるようになってきています。ですから、選択肢は広がっていると思いますし、2歳以上になれば比較的長い歴史を持っているタクロリムス軟膏も、もちろん選択肢に入ってきます。痒みには、ステロイドとはまた違った効き方をしますので、これも選択肢に入れる余地は十分にあります。
 池田 エビデンスとしては、ステロイドの外用薬があると思いますが、両親としては、ステロイドというネーミングだけで使いづらいイメージがあると思います。JAK阻害薬やタクロリムスの使い分けはどのように指導されているのでしょうか。
 佐々木 急性期にステロイド、慢性期にそれ以外の抗炎症薬という使い方を基本にしています。ただしステロイドに比べると効果が低い場合もあったり、あるいは患者さんによってはステロイドよりも効果が出ることがあるので、その症例によって試しながら使っていく必要はあると思います。慢性期のコントロールは非常に重要で、それに関してはステロイドの外用薬よりも、初めてプロアクティブ療法が唱えられたタクロリムス軟膏の歴史が長くなってきたので、そういったものを取り入れていくこともよい方法だと思います。
 池田 なるほど。やはりプロアクティブ療法で悪くなる前に抑えようということですが、やはり、ある程度お子さんの年齢があがりますと薬についてお話しされるのですか。
 佐々木 薬の内容については小さいお子さんはあまり興味がなくて、塗り方や塗りやすさや、実は塗らなくていいというような話が一番嬉しくなります。ですから、ローションや保湿剤などは、抗炎症薬と併用しますが、広く塗る保湿剤に関しては、軟膏だけではなくローションやフォームタイプがあり、泡状のものなどが子どもは好きで、そちらを塗ってくれることがあります。
 池田 確かにヘパリン類似物質の外用もいろいろな種類がありますね。
 佐々木 剤形の選択というのは、けっこう大切で、保護者の塗りやすさ、特に朝の忙しさなども十分考えて、時短で、子どもが嫌がらずに塗れることも考えながら処方しないと、思った効果が得られないことはあると思います。
 池田 そのためにも、いろいろな剤形を示して、どれがいいかを聞くのですね。
 佐々木 はい、本人にそのようなことを聞いて選んでいくことはあります。
 池田 本人がこれがいいと思えば塗ってくれて、親の負担が減るのですね。
 佐々木 はい。
 池田 でも、やはり本当は、塗らないで済むといいですよね。
 佐々木 毎日塗るのはたいへんです。
 池田 成人ではデュピルマブや、バイオロジクスが出てきているのですが、小児はどうしたらよいですか。
 佐々木 薬によりますが、12歳以上で使えるものが何種類かあります。それから、乳児まで適用が拡大されて近いうちに使えるようになりますので、これも大いに期待できるところです。
 池田 バイオロジクスですので、注射薬になるのでしょうか。
 佐々木 今のところ、注射薬が乳児からの適用が通りそうですね。
 池田 2週間に1回の注射ですか。
 佐々木 そういうことになると思います。
 池田 外用はしないといけないのだけれども、外用の範囲や頻度が減る可能性があるのですか。
 佐々木 やはり中等症以上の強い症状のお子さんが対象になりますので、学童期以降が主になるかと思います。これから、そういったものを使うと、ステロイド、あるいは抗ヒスタミン薬だけであった治療とは違うそう痒感のコントロールが、うまくいくようになると期待をしています。
 池田 武器がもう一つ増えるのですね。
 佐々木 そうですね。機序が違いますので、痒みには成人に使った経験からはとてもよく効きます。これは小児にとっても同じではないかと考えています。
 池田 確かに成人に使っているのを小児にも使うのは、言い方が悪いですけど、大きな副作用がなく、ある程度効果がある、分子特異性も高いので、安全性も高いですよね。
 佐々木 そうですね。
 池田 そういったものを使って、そう痒感が抑えられれば、外用もコントロールがうまくいくのでしょうか。
 佐々木 そのように思います。
 池田 ありがとうございました。