多田
杏林シンポジアでは日本動脈硬化学会の協力を得て、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年度版の周知を図っています。その一環として、続発性脂質異常症とは何か、その対応について、お話しいただきます。まず続発性脂質異常症は脂質異常症全体の何パーセント程度を占めているのでしょうか。
吉田
非常に大切なことです。脂質異常症といっても何らかの原因で起こしてしまう、例えば、甲状腺機能低下があってコレステロールが高くなってしまうようなものを続発性脂質異常症といいますが、だいたい脂質異常症全体の30~40%ほどがその続発性脂質異常症に当たるとされています。
多田
脂質異常症の患者さんが紹介されてきたり、また先生ご自身が見つけることもあると思うのですが、治療を始める前になぜ脂質異常症を発症したのかを考えると思います。この点に関して先生の意見をいただきたいと思います。
吉田
脂質異常症の確定診断に至っては、どのような原因で脂質異常症になったのかを確認していく必要があります。例えば、問診や必要に応じて臨床検査を行いながら、その他の要因があって脂質異常症が発生していないかを見ていきます。例えば甲状腺機能低下症があった場合はLDLコレステロールなどが高値となりますが、それを確認せずに通常の脂質異常症の治療を行い、また必要に応じてスタチンなどの薬物治療を行った場合にコレステロールが下がると何らかの有害事象、例えば筋肉の痛みや肝機能障害などが起こってしまうリスクがあります。そういったことを前もってしっかりと捉えるために、その他の原因に基づく続発性脂質異常症、あるいは二次性脂質異常症といいますが、そういった要因がないかを捉える必要があります。
すなわち、患者さんを的確に治療していくためには、原因をしっかりと確認することが大切です。私もそのようなところに注意しながら取り組んでいます。
多田
脂質異常症は生活習慣病の一つともいわれているように、多くの生活習慣の破綻が脂質異常症の誘因となると同時に、幾つかの疾病、今、先生にお話しいただいた甲状腺機能低下症などが脂質異常症の原因となります。一方、ある疾病の治療で用いる薬剤によって脂質異常症をきたすこともあります。このあたりの事柄についてのポイントを聞かせていただきたいと思います。
吉田
今お話があった中では、甲状腺機能低下症は比較的、頻度が高い疾患で、特に比較的高齢の女性や閉経後の女性で、そのときに通常閉経でコレステロールが上がってきたのではないかと考えるのはもちろんですが、実はそれとともに疾患頻度の高い甲状腺機能低下症が隠れている可能性もあります。まして、若い世代の甲状腺機能低下症の場合は、甲状腺の腫大などがはっきり見えたりしますが、高齢になってからの場合はときどきそれが目立たないこともあり、そのあたりを見極めて疑うという考えがないと意外と捉えることができないこともままあるので、気をつけていただきたいと思います。
それ以外に、例えば、話の中にありました薬の服用に伴って、脂質異常症が発生することもあります。最近はいろいろな薬が出てきていて、様々な脂質異常症が見られることがあります。例えばプロテアーゼ阻害剤のHIVの薬は脂質異常症を起こしやすく、中性脂肪が高くなったり、HDLコレステロールが低くなったりすることがよく見られます。また非定型抗精神病薬などをはじめ、ほかの診療科にかかっている方で薬物治療により脂質異常症を起こすことがあるので、内科以外のどこの診療科にかかっていて、何の薬を使っているのかなどを確認しておかないと、二次性、続発性の脂質異常症を見落とす可能性もあります。
代表的なものとして抗精神病薬の中ではオランザピンなどの薬もありますが、これらはどちらかというとインスリン抵抗性に関連していて、中性脂肪が高くなったり、HDLコレステロールが低くなったりすることが明らかとなっているので、注意しながら確認していく必要があると思います。精神神経科の医師も精神疾患のために必要に応じてその薬を使っていると思うので、お互い連携してバランスを取っていくことが大事だと思います。
多田
脂質異常症と一言でいっても、例えばコレステロール値が高い、LDLが高い、HDLコレステロールが低いなどといった状態から続発性脂質異常症の特徴を探ることはできるのでしょうか。
吉田
続発性脂質異常症の中において、続発性で高脂血症となるタイプと、続発性で低脂血症になるタイプの両方があることが知られています。一般的には続発性高脂血症の脂質異常症のほうに目が行きがちです。先ほどから出てきているような甲状腺機能低下症などは、まさしくそうですし、あるいは腎臓内科の領域でよく見られるネフローゼ症候群などは続発性脂質異常症の中の高脂血症を示すタイプです。
一方で続発性低脂血症で、例えばHDLコレステロールが低くなるような状態も起こります。その中には例えば喫煙によってHDLコレステロールが低くなることはよく知られていますし、肥満、過体重、2型糖尿病などにおいてもHDLコレステロールは低くなるので、続発性の低脂血症といった問題も一部に存在していることを私たちは忘れてはならないと思います。
多田
脂質異常症の状態から続発性脂質異常症の特徴を探ることはできますか。
吉田
脂質異常症の状態から続発性脂質異常症がどこまで確認できるかは、なかなか難しいのですが、中性脂肪がけっこう高い印象を受けた場合には、まずお酒の習慣がどの程度あるのかをしっかり捉えることはとても大切です。中には、先ほど少しお話ししたほかの診療科で使われている治療薬、その中にも明らかな脂質異常症を起こすことがある薬もあるので、ほかの診療科で薬を使っているところはないかを確認するなど、薬剤性脂質異常症への留意も必要だと思います。
多田
続発性脂質異常症で、基礎疾病治療に用いる薬剤との関連性も教えていただいたと思います。基礎疾患を治療してもなかなか脂質異常症が改善しないこともまま経験します。こういうときはどうすればよいでしょうか。
吉田
非常に大切なことだと思います。今お話がありましたように続発性脂質異常症はやはり原疾患の治療を十分に行うことが原則ですが、おっしゃるとおり、一部にはなかなかうまく脂質異常症が改善しないことがあります。もともとの現病の状態を改善しつつ、必要に応じて薬物治療を行っていくことが求められてくる場合もあります。その際にまずは、しっかりとした食事療法などの生活習慣指導についても同時並行で行う必要があることも、私たちは忘れてはならないと思います。
多田
最後の質問になりますが、例えば、日常治療中に急に血清脂質に変化が生じて検索すると多発性骨髄腫などの血液疾患や肺がん、胃がんなどが見つかることも経験します。また、COVID-19感染症ではHDLコレステロールが低下し、低HDLコレステロールがCOVID-19感染症を悪化させるなど、血清脂質は様々な体の調子を反映する鏡と感じています。先生のご見解はいかがでしょうか。
吉田
非常に大事な点だと思います。特に最後のほうでお話があったHDLコレステロールが低くなることと感染症との関連、これはウイルス感染症、細菌感染症のどちらもそうなのですが、HDLコレステロールの低下が見られることが知られています。また、そういった感染症の場合は、いわゆるサイトカインストームが起きていて、中性脂肪すなわちトリグリセライドの分解が抑制され、中性脂肪の代謝がうまくいかないことに伴いHDLコレステロールが低くなってくるなどの状況があります。新型コロナウイルス感染症などのそういったウイルス感染などでも、特に重症度が高いとより一層そういったことを起こします。例えば血球貪食症候群までに至る場合は、顕著な中性脂肪の濃度の上昇が認められたりします。そうしたことについて私どもはしっかりと留意していく必要があると思います。
多田
脂質管理は動脈硬化性疾患の予防で非常に大事ですが、その他の様々な病態を把握できる鏡でもあるということでした。ありがとうございました。