ドクターサロン

齊藤

家族性高コレステロール血症(FH)についてうかがいます。これは3主徴triasが有名ですが、どのようなものなのでしょうか。

斯波

FHは、高LDLコレステロール血症、皮膚および腱黄色腫、早発性冠動脈疾患が3つの特徴とされています。

齊藤

LDLコレステロールは、どのような数値になってくるのでしょうか。

斯波

FHの診断基準ではLDLコレステロール値が成人の場合は180㎎/dL以上、子どもの場合は140㎎/dL以上になっています。

齊藤

次にアキレス腱の肥厚はどういうことなのでしょうか。

斯波

FHの診断基準の一つに皮膚および腱黄色腫の存在というのがあります。特にアキレス腱はX線あるいは超音波で厚さを測定することができます。正常以上に厚いというのがこの病気の特徴です。

齊藤

これは超音波検査が使いやすいのでしょうか。

斯波

はい、X線でも測定できますが、例えば実地医家では超音波のほうがより簡単に実施できるし、ポータブルの小さい機器もありますので、診察室にも置くことができます。

齊藤

頸動脈エコーを行う医師は多いと思いますが、そういったものを使えばいいということですか。

斯波

はい、頸動脈エコー用のプローブをそのまま使っていただけます。

齊藤

それからもう一つ、早発性の冠動脈疾患の家族歴も関係がありますか。

斯波

はい。診断基準の3つ目がFHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴になっています。男性は55歳未満、女性は65歳未満で、冠動脈疾患を起こした場合に早発性冠動脈疾患になります。

齊藤

親か子どもということでしょうか。

斯波

第1度近親者ということで、兄弟、子どもあるいは親になります。

齊藤

年齢としては、だいたい何歳ぐらいで冠動脈疾患が起こってくるのですか。

斯波

男性で平均46歳、女性で平均58歳ぐらいです。ただし、男性で、20代で起こす例もあります。

齊藤

原因の遺伝子はわかってきているのでしょうか。

斯波

LDL受容体という悪玉コレステロールの受容体に遺伝子変異が起きてFHヘテロ接合体で半分、ホモ接合体だと全くなくなってしまっている。それからもう一つの原因遺伝子としてはPCSK9遺伝子です。PCSK9遺伝子の機能が高くなってしまう機能獲得型遺伝子変異と呼ばれており、LDL受容体を壊してしまう場合に原因となります。

齊藤

今は管理していくことが可能なわけですね。

斯波

これらの遺伝子異常によって、FHの患者さんは生まれたときからLDL コレステロールが高い、そして、この冠動脈疾患を含めた動脈硬化性疾患を起こしやすいので、子どものときから正しい生活習慣を身につけたり、適切な時期からコレステロールを下げる薬を飲んでいただいたりすることで動脈硬化の進行をかなり遅らせることができます。

齊藤

こういった遺伝子の問題がある人の頻度はどのぐらいですか。

斯波

FHヘテロ接合体で300人に1人といわれていますので、代謝性遺伝性疾患の中で頻度は最大で、かなり多いといえます。

齊藤

相当多いですね。冠動脈疾患を起こした患者さんの中ではどのぐらいの頻度ですか。

斯波

冠動脈疾患を起こした人の中では5~10%といわれていますので、10人に1人から20人に1人ぐらいです。

齊藤

ということは、診断できていない人がかなりいるということですね。

斯波

そう思います。

齊藤

診断は、まずは健康診断でのLDLコレステロールの値が高いことでわかることが多いですか。

斯波

健康診断でLDLコレステロー ルが高いから二次検診に行きなさいといわれて受診される方が多いです。

齊藤

その場合に、先ほどの180㎎/dLという数値がポイントになりますか。

斯波

はい、180㎎/dLが一つのポイントになると思います。

齊藤

そういう健康診断での異常者の診断を一歩進めることが重要なのでしょうね。

斯波

その段階で高LDLコレステロール血症を見れば、まず家族性高コレステロール血症を疑って、家族の方の状態を聞いたり、アキレス腱が厚くないかを調べたりなどをしていただくのがいいと思います。

齊藤

それから、子どもでこれを見つけることはどうなのでしょうか。

斯波

今、世界的に子どものときにマススクリーニングを行おうという動きが出てきています。例えばスロベニアでは、全国でこのスクリーニングをするプロジェクトがありますし、日本でも香川県では10歳でマススクリーニングをして、コレステロールが高い子どもについては、さらに受診をしていただいて、診断をつけるというプロジェクトが進んでいます。

齊藤

小さい子どもで見つかった場合には、スタチン治療などを行っていくことになりますか。

斯波

小児の場合はまず生活習慣を改善していただき、食事、運動に気をつけていただいて、それでもLDLコレステロールが180㎎/dL以下に下がらない場合にスタチンを開始することを検討することになっています。

齊藤

日本で患者さんのレジストリーは行われているのですか。

斯波

日本では、原発性脂質異常症調査研究班でPROLIPIDというレジストリーが行われていて、その中でFHヘテロ接合体およびホモ接合体についてのレジストリーが進んでいます。

齊藤

今はどのぐらい患者さんが登録されているのでしょうか。

斯波

合わせて1,000例以上は登録されています。

齊藤

最後に治療ですが、先ほど遺伝子異常についてのお話が出ましたが、それに合わせた薬があるのですね。

斯波

まずは第一選択薬としてスタチンが用いられていますが、そのほかにエゼチミブ、そしてPCSK9阻害薬などの薬剤が使われています。

齊藤

もう一つ、そういった薬の中でMTP阻害薬という薬があるそうですね。

斯波

はい、MTP阻害薬というのは、ホモ接合体の患者さんのみに使うものですが、microsomal triglyceride transfer proteinの阻害薬で、特に重症な方に使われています。

齊藤

そういったものを駆使して患者さんを治療して発症を予防するのですね。

斯波

はい。やはりLDLコレステロールをきちんと下げることで、将来の動脈硬化性心血管疾患、冠動脈疾患を予防することがとても重要だと考えています。

齊藤

課題としては、診断率を上げることが重要でしょうか。

斯波

はい。まだ日本において、FHは広く診断されているわけではありません。心筋梗塞を起こして、CCUに飛び込んできてから後でFHとわかる人もけっこういます。したがって、もっと診断率を上げていくことがたいへん重要だと考えています。

齊藤

どうもありがとうございました。