山内
急性期病院から療養型病院にカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)を保菌している患者さんを引き受ける場合の注意点についてです。まずCREの日本での出現の状況はいかがでしょうか。
小林
例えば私が勤務している国立がん研究センター中央病院はだいたい570床で、比較的回転率がいい病院でも実際に届け出するのは年に数件だと思います。氷山の一角として捉えられるかと思いますが、その下には、例えば、保菌している患者さん、あるいは、その耐性遺伝子を持っているけれども、実際には耐性化していない菌を保有している患者さんが、山ほどいると想像していますので、潜在的にはけっこうな数がいるのではないかと考えられております。
山内
実際に問題になるケースは、それほど多くないのでしょうか。
小林
そうだと思います。
山内
さて、CREですが、これは腸内細菌なのですね。
小林
もとは腸内細菌科、あるいは、腸内細菌目と記載している教科書もありますが、腸内細菌科細菌で、分類学上はエシェリキア属、大腸菌の類です。あるいは肺炎桿菌の類。あとプロビデンシア、セラチア菌、エンテロバクターなど腸管内の常在菌のうち、通性嫌気性菌で普通の培地でよく発育するようなグラム陰性桿菌をこのように分類しているようです。
山内
たくさんあるのですね。
小林
はい。CREは一つではないのです。
山内
場合によっては、一人の患者さんに複数の菌があるということですね。
小林
そういう可能性もあると思います。
山内
腸内細菌自体がまだまだわかっていないことが多いと思われますがいかがですか。
小林
はい。本当に難しい分野だと思います。
山内
そうしますと複雑そうですが、主な感染の場所は、腸などの消化器官系と考えてよいでしょうか。
小林
そうですね。腸内細菌科細菌ですので、やはり腸管感染症が一番多いイメージがあるかと思いますが、消化管のみならず胆道系、尿路感染症、あとは敗血症になるかと思います。一部、肺炎を起こすものもあるようですが、これは、あまり数は多くないと思います。
山内
院内での感染経路は接触感染ですか。
小林
はい。一度、カルバペネムの耐性になりますと、接触感染が一番多いかと思います。
山内
当然、便が多いのでしょうね。
小林
そうですね。便、尿、特にそこに異物がある人。例えば、胆道のステントが入っていたり、膀胱内にバルーンが入っていたりすると、なかなか消えづらいかと思います。
山内
腸内細菌のたぐいが腸の中でどんどん湧いてくると、ほとんどきりがないような気もしますね。とりあえず、このような方が出てきた場合は、接触時の徹底した清潔操作と考えてよいのでしょうね。
小林
そうですね。基本的には個室管理になると思います。その上で個室に入るときは、医療スタッフは手指衛生ののちにグローブをして、例えば必要であればエプロンをする、尿や痰を取らなければいけないといった飛沫が飛んでくるようなときには、マスクやアイガードを装着していただくことになると思います。その上で部屋の中で、それをゴミ箱に入れて、手指衛生をして外に出ていただくというような行為が必要になると思います。
山内
トイレやドアノブにもかなり気を使うべきでしょうか。
小林
標準予防策の考え方では、毎度毎度、そこを拭くわけにはいかないので、触れるごとにそこを清潔にするのは難しいかと思います。例えば、自分でトイレに行けるような方に関しては、患者さんご自身にも手指衛生とともに環境をきれいにしていただくことを教えて、自分が使用した後は、ノブや便座などを備え付けのアルコールで清拭してもらうようなことをお願いしている次第です。
山内
病院としては、むしろ寝たきりの方のほうが管理しやすいということになりますね。
小林
そうかもしれません。長期臥床の方は、移動しない分、病床周辺をきちんと清拭すればよいということになるかと思います。また、個室管理といっても、個室の中で複数管理するコホート管理という集団隔離の方法は長期臥床の方のほうがやりやすいかもしれません。
山内
尿にも出てくるとなりますと、トイレ全体の清潔を保ち、便器にも注意を払わなければならないものになりますか。
小林
私どもも、便器の蓋、便座の部分までは拭いていただくように、患者さんにお願いしている次第です。尿は男性でも、女性でも比較的遠くまで飛びますので、そこを介した環境からの感染には非常に気をつけたいところです。
山内
ということで、今回の質問ですが、大部屋での管理は可能でしょうか。これはもう前に出てきたのですが、原則個室、ということになるでしょうか。
小林
結論から申し上げると、CREは個室管理が望ましいです。菌種の中には、常温や室温で、かなり長期に、月の単位まで生き延びるものもありますので、そこには非常に気をつけていただきたいと思います。先ほども申しましたが、同じ病原体の保有者、あるいは感染者であれば、コホート管理、集団隔離というようなかたちも可能かと思います。そういう場合は細かくなりますが、ベッド間隔を1m以上離していただいて、しばしば、カーテン等で隔離をし、隔壁を作ることも有効だといわれています。
山内
ただ、原則は個室ということでしょうね。
小林
そうですね。
山内
そこのところも絡みますが、2番目の質問で保菌者の状態が改善し、抗生物質をむやみに使わなければ、耐性菌は消失するものなのでしょうか。
小林
これが残念ながら、もともとは常在菌なものですから、なかなか消えません。適切な抗菌療法をやっても、なかなか消えないことが難点で、一度の検査でCRE、特にカルバペネマーゼ産生株が検出された場合には、たとえいったん検査で消えても、入院中は感染対策を継続するべきです。
山内
なかなか消えないというと、かなり長期の個室管理になりますね。
小林
そこは、そうせざるを得ない部分があると思います。ただ、やはり、精神的に相当疲れてきます。そうすると条件として、例えば一定の時間廊下に出ていいとか、このようなレクレーションは出ていいよとか、条件を少し緩和していくというかたちをとるのがいいかと思います。
山内
そうしますと通常月単位で、年単位まではいかないのですね。
小林
いいえ、私の施設では、カルバペネマーゼ産生CRE検出例は例えば、再入院の際でも、個室隔離の対応で行っております。
山内
非常に長くなるのですね。
小林
そうですね。
山内
となりますと、3番目の質問ですが、より対応が難しいと思われる介護施設はどうなるでしょうか。
小林
介護施設や長期療養型の病床群で、新たに病原菌の検査を行うのはなかなか難しいと思うので、まず一つは、患者紹介の際に、診療情報提供書に、当該患者さんからどのような菌が検出されているのか、どのような感染隔離が適当であるかという情報も併せて送っていただくことが重要だと思います。私の知り合いの施設では、長期療養型と介護をやっていますが、やはり医療スタッフに看護師が少なくて、ヘルパーさんというかたちになるので、年に1回などの単位で、手指衛生、感染管理、エプロンの付け方などの講習会を行い、レベルの維持を図っているところがありました。そうすると、例えば、今回のコロナ禍の対応でも、今までやっていたことに加えて、マスクを付ければいいのかなど、そういうことがわかってもらえるので、非常に良かったと聞いています。
山内
最後に、このCRE以外の耐性菌も含めて、ここまで厳しいことが本当に必要なのでしょうか。
小林
多剤耐性緑膿菌、あるいは多剤耐性のアシネトバクターは厳格に対応するべきだと思いますが、それ以外の耐性菌であっても、例えば、痰が出ていない、咳が出て、下痢をしていない、バルーンが抜けて少しきれいになったようだということであれば、大部屋管理が可能な場合もあるかと思います。そういったときの相談相手として、保険医療では感染対策向上加算というのが算定されていますので、そういった施設にご相談されるのもいいと思います。
山内
こういったものをうまく利用して、病院としてピンポン感染しないようにすることが大事ですね。ありがとうございました。