ドクターサロン

池脇

最近、抗凝固薬の質問を時々いただきます。今回はワルファリンとDOACの比較という質問です。DOACは、日本でも発売されて十数年経って、使っている患者さんが多くなりました。海外も含めていろいろなエビデンスが蓄積されていると思いますが、まずは改めて、ワルファリンとDOACの効果と副作用について総括をお願いします。

奥村

はい。ワルファリンとDOACの効果からまずお話しします。いわゆる脳梗塞の抑制効果ですが、ワルファリンとDOACで基本的には、あまり変わらないというのが一般的にいわれています。これは、大規模ランダム化比較試験(RCT)でも我々が行ったSAKURA AFレジストリでもそうでした。ただ、DOACのほうが全体的には少し有効性が高めのデータが多く、実はアピキサバンに関してはRCTでも有効性が出ていますが、DOAC全体ではあまり効果は変わりません。先生方が一番気にしているのは、副作用、すなわち大出血、消化管出血と頭蓋内出血になると思うのですが、頭蓋内出血はどのDOACを使用してもワルファリンに比べてイベントが少ないというのは確立しています。

もう一つ、消化管出血ですが、海外の論文ではDOACのほうが、少し発現率が高くなるのではないかというデー タもあります。ただ、日本人は欧米人と違って、ポリープや憩室が少ないといわれています。そのため、欧米人ではポリープや憩室からの出血が多くなるようですが、日本人のデータだと消化管出血も、ワルファリンとDOACの差はそこまでないのではないかといわれています。

総合的には、出血リスクはDOACのほうがワルファリンより少ない傾向にありますので、実際にはDOACのほうが安心して使える薬剤ということになります。DOACはワルファリンと違い血液によるモニタリングも不要ですので、非常に簡便ですし、実臨床に即した薬剤として広く使われているのではないかなと思います。

池脇

質問で、効果に関しての非劣性は証明されているとありますが、逆の言い方をすると、同程度あるいはそれ以上の効果だろうという理解でよいですか。日本人は副作用を気にする傾向にあります。

奥村

そうです。効果は同程度かそれ以上ということになるかと思います。

池脇

副作用が少ないというのは、日本人に対して、DOACが使いやすいという背景になりますよね。ですから、あとは薬価の問題になるのでしょうか。

奥村

そうですね。ある一部の薬はそろそろ特許期間が切れますので薬価の問題も少し解決します。しかし、基本的にはDOACは薬価が高いのに対して、ワルファリンは非常に安い薬ですので、患者さんの負担は大きいです。ただ、実際の日本での対医療コストということになってくると、ワルファリンの出血リスク、特に頭蓋内出血による入院や、血液によるモニタリングなどを考えますと、長期的には医療経済的にもDOACのほうがいいというデータもあります。患者さん個人の薬価の問題というところだけではないと、個人的には思います。

池脇

重大なイベントを起こさないための予防的なところに、多少のお金をかけるかどうかですね。起こってしまったら、もっと大きな負担になってしまうので、ただ単に薬価だけの問題ではなさそうですね。

奥村

そうですね。

池脇

質問の後半の部分で、ワルファリンで、きちんとPT-INRをコントロールされているグループとDOACを比べたときの副作用の差とありますが、効果と副作用をワルファリンで管理良好な場合と比較するとどうなのでしょうか。

奥村

PT-INRが良好な人についての効果に関して見てみると、DOACとほぼ同程度であることは間違いないと思います。ですから、私もワルファリンを否定するわけでは全然ないので、PT-INRが非常に良好であれば、ワルファリンの有効性は間違いないかと思います。

ただ、先ほど申しましたように、PT-INRのコントロールが良好でも頭蓋内出血だけに関しては、やはりDOACのほうが半分ぐらい少なくなります。実際にはワルファリンでも年に0.5~0.8%くらいでほとんど起きないですが、DOACの場合、1年で0.2%とか0.3%のデータがほとんどです。要するにPTINRがコントロール以内でも、頭蓋内出血を起こす人は起こしますので、そこに関してはDOACのほうがよいとなります。

消化管出血に関してはPT-INRが良好であれば、ワルファリンでもDOACでもどちらでもいいというイメージではないでしょうか。

池脇

すると、冒頭で総括いただいた、効果がほぼ同程度ですが、副作用に関してはDOACのほうが安心できるということ以外、基本的には同じような感じがします。例えば、長年ワルファリンを飲んでいて、高齢になった方も出血の懸念から、DOACへのスイッチを考える医師もいるかもしれませんが、その点に関して何かデータはあるのでしょうか。

奥村

これが、一番のトピックで、今年の欧州心臓学会(ESC)、いわゆる循環器で世界的に一番大きな学会で、興味深いRCTが発表されました。FRAILAF試験という、75歳以上のフレイル患者を対象としたRCTです。

まさに、その質問の答えを示したRCTなのですが、ワルファリンを飲んでいる1,330例をそのままPT-INR2~3にコントロールするワルファリン群とDOACに切り替える群に分ける試験がオランダで行われました。もちろん、仮説としてはDOACのほうが副作用は減るだろうと思っていたのですが、実はそれが逆で、DOACに変えたほうが大出血・対応を要する非大出血リスクがハザード比で1.69、要するに60%ぐらい増えてしまったのです。血栓塞栓病イベントもハザード比1.26でしたが、有意性はなかったのですが、ややDOAC変更群のほうが少し増えているという印象があります。ただ、総死亡は最終的なアウトカムは変わらなかったという結果になっています。この試験の平均年齢は83歳でしたので、超高齢の場合ではなかなか難しいのですね。

なぜこういう結果になったのかの機序はわからないのですが、DOACの薬剤の代謝などいろいろな問題もあるのかもしれません。でも、昔から前向きの試験や、後ろ向きのレジストリなど我々がやっていたSAKURA AFレジストリ試験でも、DOACに変えている人のほうが少しイベントが多めになるデータもありました。なぜかと思っていたら、実際、RCTでもそういう結果が出たので、そうだったのかと考えました。こういうデータを見ますと、ご高齢の方は、今まで慣れていた薬が急に変更されることに耐性があまりなく安定しているのであれば、現状を変える必要は実際のところないのかもしれません。

池脇

オランダ人をそのまま日本人に適用していいのか疑問が残りますが、日本の高齢者で、長年きちんと薬を飲まれている方の場合は、どうも変更しないほうがよさそうということですね。

奥村

今回はそういうデータが出ていて、私も気持ちを変えました。以前は“DOACに変えていったほうが出血が少なくなるからいいですよ”といろいろな講演会などでも言っていましたが、今は、ワルファリンで安定していれば、そのまま継続でいくようにと言っています。もちろん、ワルファリンが不安定になってくる方はいるので、そういうときにはDOACに変えていただければいいかとは思います。今後、実臨床ではそういう使い分けで考えていったらいいのではないかと思います。

池脇

必ずしも、DOAC一択ではない。こういうときには少し気をつけましょうね、という話でした。ありがとうございました。