齊藤 原発性脂質異常症の中で幾つかお話をいただきます。
石橋 ガイドラインの中に原発性脂質異常症の表がありまして、その一番上に、高カイロミクロン血症という疾患があります。これはトリグリセライド、中性脂肪が1,000を超えるぐらい極端に高くなる疾患でリポ蛋白リパーゼをはじめとして、すでに5つぐらいの原因遺伝子がわかっています。採血すると白濁していて血清の外観で気がつかれることがありますが、急性膵炎を起こした患者さんの中から見つかる場合もあります。それ以外の症状としては、発疹性黄色腫といって皮膚にポツポツと丘疹様のようなものがたくさん出たり、眼底が白くなったりしますが、急性膵炎が一番大事な合併症です。
齊藤 これは食事、生活、お酒と関連がありますか。
石橋 当然、脂肪が多い食事やアルコールで悪くはなるので、やはり食事が大事です。あまり薬物が有効ではないので、脂肪制限を第一に行います。中性脂肪は1日の脂肪の摂取量を15g 以下にすることで下がる方がかなり多いですが、下がらない方もいるので、急性膵炎を繰り返し起こしてしまう方には血漿交換のようなことを行う場合もあります。
齊藤 フィブラート系の薬はあまり有効ではないのですか。
石橋 基本的に薬物は有効ではないとされています。有効性があるとすれば、膵リパーゼの阻害薬は、有効である可能性がありますが、それほど効くわけではなさそうです。
齊藤 それから次は何になりますか。
石橋 次はⅢ型高脂血症になります。これは、1万人に1人ぐらいの頻度なのですが、最初に気づかれるのは、おそらく総コレステロールとトリグリセライドの両方が高い複合型高脂血症と呼ばれるタイプです。多くはVLDLとLDLの2種類のリポタンパクが増えるII b型のパターンなのですが、それ以外にIDLという、レムナントというリポタンパクが増えるパターンがあって、その場合はこのⅢ型高脂血症になります。発症には遺伝的な素因が重要です。アポEには3タイプありますが、アポE2、E3、E4の中のアポE2を2つホモ接合体として持っているような方にプラスαの要因が加わって発症します。冠動脈疾患以外にも腎動脈、脳血管、下肢などの末梢動脈の動脈硬化もFHに比べると起こりやすいといわれています。
齊藤 これは治療あるいは生活習慣の改善を続けますか。
石橋 生活習慣の改善が非常に有効とされていて、食事療法と、肥満等が合併していれば肥満の改善、甲状腺機能低下等が合併していればその改善でかなり正常化する場合が多いですが、生活習慣改善が無効の場合には昔からフィブラートが有効といわれています。スタチン等でもコレステロールや中性脂肪は下がりますので、難治性の場合はそういった薬物を使うことになっています。
齊藤 併用になるのですね。
石橋 そうですね。スタチンだけで下がりきらない場合は、フィブラートを使うし、フィブラートだけで下がりきらない場合は、スタチンを使ったほうがいいかと思います。
齊藤 今は、普通に併用していますか。
石橋 そうですね。ただ腎障害がある場合は要注意で、フィブラートの中でも古いタイプのフェノフィブラートやベザフィブラートは腎機能障害があるとスタチンとの併用は少しリスクが高いので禁忌ですが、ペマフィブラートという新しいタイプのフィブラート系薬剤は腎機能障害があってもスタチンとの併用でも比較的安全に使えることになっています。
齊藤 それから次はどうでしょうか。
石橋 次は原発性の高HDL血症ですが、これは日本人には比較的遭遇する機会が多いと思われる、HDLが90㎎/dLや100㎎/dLを超えるような方です。CETP(コレステロールエステル転送蛋白)の欠損症が頻度的には圧倒的に多く、特徴的な臨床症状は基本的にはありません。ホモ接合体の中に動脈硬化などの関連疾患を合併される方がいますが、治療対象にはならないと思います。
齊藤 次はどうですか。
石橋 今度は低脂血症になります。コレステロールが極端に低い病態が疾患名としては2種類知られています。一つは無βリポタンパク血症で、もう一つは家族性の低βリポタンパク血症です。
齊藤 これはどういうことですか。
石橋 無βリポタンパク血症の場合は、それこそLDLコレステロールが1 桁みたいなかたちで、βリポタンパクがほとんどないために乳児期から脂肪の吸収障害を起こします。脂肪便や下痢をしたり、成長障害から見つかって、悪化すると脂溶性ビタミンの吸収障害の結果、夜盲症や脊髄小脳変性由来の神経症状を呈します。そのため神経疾患として見つかる場合もあります。ミクロソームトリグリセリド転送蛋白(MTP)の遺伝子異常です。
もう一つは、低βリポタンパク血症で、これはアポBの異常、PCSK9の異常、ANGPTL3の異常として現在3種類の遺伝子が知られています。アポB 異常の重症型のホモ接合体は先ほどの無βリポタンパク血症と同様の症状をきたしますが、ANGPTL3、PCSK9 の異常の場合には、脂溶性ビタミンの吸収障害に起因する症状は基本的に認められません。
齊藤 今のMTPやPCSK9は薬に使われているのですね。これらの疾患で異常が見つかると薬にたどり着くということなのですか。
石橋 そういうことですね。MTPを阻害すれば高脂血症の治療薬になるのではないかと治療薬が開発された経緯があります。ロミタピドという薬ですが、PCSK9に関しても同様で、低脂血症患者さんは非常に長命で、冠動脈疾患を起こしにくいことがわかって、それを治療薬に応用したのがPCSK9 阻害薬です。
齊藤 それからどういったものがありますか。
石橋 家族性の低HDL血症があります。HDLコレステロールが非常に低い方、極端な場合で10㎎/dLを下回る方には、大きく3疾患知られています。一つはタンジール病、もう一つはLCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)が欠損しているLCAT欠損症で、最後にアポA-Ⅰ欠損症というのがあります。
齊藤 これらはどのような症状ですか。
石橋 タンジール病の場合は末梢神経障害、マクロファージのコレステロールをため込むものですから、口蓋や咽頭扁桃がオレンジ色に腫れてくる所見で見つかります。あとは、冠動脈疾患の発症頻度もタンジール病は高いです。
齊藤 これも非常にまれな疾患ではあるけれども発症することもあるのですね。
石橋 日本人にはタンジール病よりLCAT欠損症が多いと思いますが、腎障害が比較的多い症状で、それ以外にも貧血や先ほどのタンジール病もそうですが、角膜が濁ってくる症状があります。腎障害が強い場合、これがQOL を著しく障害するので、それに対する対策が必要になります。
齊藤 もう一つありますか。
石橋 もう一つは、アポA-Ⅰ欠損症で、これはアポ蛋白のA-Ⅰが欠損します。アポA-Ⅰの近傍にはC-ⅢやA-Ⅳという遺伝子で並んでいるので、欠損する遺伝子の範囲が大きくなると、複数のアポタンパクが欠損して、臨床症状としては角膜混濁等や冠動脈疾患の発症頻度が高いことがありますが、腎障害や末梢神経障害などは基本的にはありません。
齊藤 最後に何かありますか。
石橋 脂質異常症としては分類されないのですが、FHの腱黄色腫と紛らわしい疾患ということで、鑑別の対象になるシトステロール血症と脳腱黄色腫症という疾患があります。
齊藤 これはどういうものなのですか。
石橋 シトステロールの場合は、植物ステロールの排泄が滞るために黄色腫と、人によっては高コレステロール血症を起こします。スタチンよりもエゼチミブのような吸収阻害薬が有効になっています。
齊藤 そういう特徴があるのですね。
石橋 脳腱黄色腫症の方は、これはどちらかというと神経疾患ですが、腱黄色腫があって、神経症状や白内障を起こします。神経内科医が疑うことで診断に至る場合が多いです。
齊藤 指定難病ですか。
石橋 はい。これらの多くは厚生労働省の指定難病になっています。厚生労働省で指定難病の制度が立ち上がったときに、最初にFHのホモ接合体が登録されて、その後、6疾患を追加して、今はさらに疾患数が増えていると思いますが、そういう仕事をさせていただきました。
齊藤 非常にまれな疾患ですが、先生がその辺を牽引されてきたのですね。ありがとうございました。
動脈硬化性疾患の予防を考える(Ⅳ)
その他の原発性脂質異常症
いしばし糖尿病内分泌内科クリニック院長
石橋 俊 先生
(聞き手齊藤 郁夫先生)