ドクターサロン

 池脇 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に対しての咽頭形成術に関して質問をいただきました。最近の睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断治療は、循環器あるいは呼吸器内科医が中心になって、ポリグラフの検査をし、ある一定の条件を満たしたらCPAPを導入することでなんとなく終わっているような感じですが、耳鼻咽喉科医の関与はどのようになっているのでしょうか。
 千葉 閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関しては、今、CPAPが世界的にコンセンサスを得た治療法であることは間違いありません。それは治療効果が長期にわたって確認されていること、保存治療として侵襲が少ないことからです。ところが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症要因は患者さんによって様々です。最も多いのは体重増加、肥満ですが、それ以外にも、顔の骨格や鼻、喉などの上気道疾患、あるいは機能的要因といって、呼吸の調節が問題になるなどの要因があります。ですので、例えば、診断がついてCPAPで保存治療を開始することはかまわないのですが、もし、原因がはっきりしていて根治を目指せるのであれば、その中の一つとして、外科治療が入ってくるだろうと思います。
 池脇 確かに舌根のあたりの咽頭が閉塞してしまうのは肥満もあるかもしれませんが、その一帯に何か解剖学的な異常があるかどうかは、まさに耳鼻咽喉科医しか評価できない領域で、SAS の患者さんがきちんとそこまで評価を受けたうえで、治療を受けている方はそんなに多くないような印象なのですが、どうでしょうか。
 千葉 プライマリケアの中では呼吸器内科、循環器内科の医師がSASの患者さんを診療することが多いので、実際にそういう現状があります。ただ、日本には今、睡眠時無呼吸症候群に関するガイドラインが2つあります。日本呼吸器学会が2020年に出したガイドラインと日本循環器学会が2023年に出したガイドラインですが、このどちらにも、上気道疾患がある場合は、まず最初にそれを治療するということが書かれています。ですので、上気道疾患があるという正確な診断があれば、それに対する治療を考慮することが必要だろうと思います。
 池脇 一応、マニュアル上では、そういったことをチェックするのですね。おそらくチェックされるのは耳鼻咽喉科医ですから、先生方もかかわることにはなっているでしょうけれども、実際問題はどうなのでしょうか。
 千葉 時期の問題で一人ひとりの患者さんをすべて、耳鼻咽喉科の医師に依頼ができるかどうかという問題もあります。例えばCPAPを始めてからでもかまわないので、上気道疾患を疑われる場合は、耳鼻咽喉科医がかかわる部分があると思います。
 池脇 おそらく、通常の治療ではなかなか良くならない。あるいは何か上気道の異常を疑って、専門施設に患者さんが紹介されて、先生方が外科治療を中心に介入されていくのだろうと思いますが、咽頭形成術(UPPP)とはどのような手術なのでしょうか。
 千葉 閉塞性睡眠時無呼吸症候群が閉塞を起こすのは咽頭部分が多いという研究があり、その部分を拡大する手術です。具体的には口蓋垂、軟口蓋の形態に問題がある場合や、あるいは口蓋扁桃がある場合などです。通称でいう中咽頭という部分を形成手術によって拡大します。1981年にウィスコンシン大学の教授になられた藤田先生が開発した方法で、CPAPが公表されたのとちょうど同じ年です。
 池脇 CPAPと同じぐらい歴史のある治療ということですね。
 千葉 そうですね。それ以前は、気管切開しか治療法がなかったので、その当時は画期的な方法だったと思います。
 池脇 一般的にOSAに対しての手術というと、このUPPPが最も一般的な手術だと考えてよいのですか。
 千葉 その後の歴史で、適応を吟味しないまま、行われすぎたという反省がありまして、今は、そのUPPP自体は数が非常に減っています。その代わり、適応をしっかり診断して、なおかつ低侵襲に行うという改良が進み、英語でいうBarbed pharyngoplastyという棘を持った縫合糸を使った咽頭形成術が現在は世界の主流になっています。
 池脇 これも広い意味での咽頭形成術の改良版(低侵襲)という理解でよいのでしょうか。
 千葉 はい、おっしゃるとおりです。
 池脇 CPAPで済むところを、メスを入れての手術となると、患者さん自身の決断も、なかなかのものだと思うのですけれども、そのあたりはどういう検査をするのでしょうか。単なる検査で、だいたい適応がわかるのか、あるいはある程度の詳しい検査を行って、患者さんにそういった手術を提案されているのでしょうか。
 千葉 まず第一は、CPAPフェイラーといって、CPAPに耐えられない患者さんが適応になります。もう一つは冒頭にお話ししました上気道疾患がある場合になります。例をあげると、口蓋扁桃、口蓋扁桃肥大が閉塞の主因になっていると思われる場合が適応になります。
 池脇 扁桃の肥大がある患者さんに効果的だということは、それがない場合には適応にならないのですね。
 千葉 咽頭形成術の効果を予測した研究が幾つかあるのですが、日本人で効果が高いのは第一に扁桃肥大がある場合です。それから顎顔面形態が標準以上、つまり顎が小さい人は効かないのです。そして、高齢の方、当然ですが、肥満のある方も効果が低いです。そして内科的合併症がある場合は適応外というように、かなり絞る必要があると考えています。
 池脇 専門医の領域で難しいですが、外科的なアプローチというのは、咽頭形成術以外にもあるのでしょうか。
 千葉 日本人は顔の骨格的に、欧米人に比べると少し不利だといわれています。極端な肥満がなくても、睡眠時無呼吸症候群を発症するといわれており、その根本治療として、顎顔面手術というのがあります。簡単にいうと、顔の骨格を作り替えて、気道を広げるということです。
 池脇 そうですか。OSAの中心的なところではないにしても、鼻閉も解除することによって、補助的な役割があるという意味では、鼻中隔の湾曲がある方の矯正も適応になる場合があるのでしょうか。
 千葉 鼻閉に関しては、手術の適応が幾つかありますが、まず一つはやはり、CPAPを始められた方で鼻疾患で鼻閉のために鼻呼吸ができない場合は適応になります。それから最終的に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を治すためには、やはり正常時鼻呼吸ができる状態が必要になります。ですので、鼻閉の手術に関しては、一つはCPAPフェイラー。それから閉塞性睡眠時無呼吸症候群を根治することは無理ですが、その呼吸状態の前提で、正常な鼻呼吸ができるためのもの。それからもう一つは、無呼吸の数とは関係ないのですが、鼻閉の手術を行うと、睡眠の質が上がります。これは睡眠時無呼吸のメカニズムだけではない。その睡眠自体に何か関与するものがあると思うのですが、睡眠の質が上がるということは睡眠の治療の一つになりますので、そういうものが適応となります。
 また、最新の治療として、舌下神経電気刺激療法が保険適用になりました。これは心臓ペースメーカーのように、装置の植え込みが必要ですが、舌の運動を支配する舌下神経を電気刺激し、咽頭の閉塞を予防し無呼吸を防ぐ方法です。
 池脇 最後に少し手術から離れてしまうのですが、マウススプリントについて教えてください。これはマウスピースだと思うのですが、この適応はどうなっているのでしょうか。
 千葉 先ほど、顔の骨格つまり顎顔面形態に問題がある場合は、顎顔面手術という話をしましたが、かなり侵襲が大きな手術です。ただし、重症の形態異常は無理ですが、マウスピースをして、例えば、下あごが若干、前方に移動できるような中等症未満の閉塞性睡眠時無呼吸症候群で、顔の骨格に少し治療の余地がある場合は、このマウスピースも治療法になります。
 池脇 CPAPでうまくいかない患者さんには、一度耳鼻咽喉科の医師にコンサルトする必要があるということがわかりました。ありがとうございました。