池田 今はダヴィンチに象徴されるようなロボット支援手術でも腹腔鏡を使いますよね。この質問はおそらく、ロボット技術も含めた腹腔鏡を使う外科手術ということなのでしょうか。
鍋島 おっしゃるとおりで、従来はお腹に5本、5㎜と12㎜のポートを入れるような腹腔鏡手術が行われていました。そこにいわゆるダヴィンチを代表とするロボット手術が発展してきて、ロボット支援腹腔鏡下手術という名称で呼ばれています。原則的には腹腔鏡手術にロボットをアシストしたような手術と理解していただけるといいと思います。
池田 特にダヴィンチのようなシステムですと、少し患者さんから離れた術者が操作するコンソールという操作台に、いわゆる腹腔鏡で見た画面と、医師が操作される鉗子の先端のところが見えているのでしょうか。
鍋島 そうですね。ハイビジョンの3Dカメラになっていて、その中を覗き込むと、術者はほとんどコンソールの画面、その腹腔内に入ったようなイメージで術野が見えています。さらに、そのアームから出てくる、いわゆる鉗子の先がちょうどロボットの場合は3 本見えているので、その3本のアームを術者が操作をして、3Dで立体化された腹腔内を見ながら手術をすることになります。
池田 腹腔鏡で数カ所から映すことで3Dになっていて、3つの穴から鉗子が入っているというイメージですか。
鍋島 はい、ロボットアームが3本と、あとはアシスタントポートから、助手も1本手が入れられますので、術者は3本のアームを操作しますし、助手がもう1本手をアシストしてくれて、場面によっては、それを使いながら術野を展開したりします。助手のポートは基本的には、ガーゼを入れたり、吸引のために使うことが多いです。
池田 手は2つで鉗子3つですが、どのようにするのでしょうか。
鍋島 セッティングによっていろいろ使い分けられますが、一般的には足のフットスイッチの部分にアームを切り替えるスイッチがあるので、一つのスイッチで、例えば胃を持ち上げて、左胃動脈周囲など部分部分の場面を作りながら、アームを固定します。助手の手で持ってもらうように臓器を持ち上げた状態で1本のアームで固定することによって、残りの2本のアームで手術をすることができるので、場面や手術のやり方によっては、ほぼソロサージェリーのようにできることが多いです。
池田 では、両手だけではなくて、足のスイッチでアームを切り替えるのですか。
鍋島 アームを切り替えたり、足のスイッチで電気メスのスイッチを入れることができます。
池田 すごいですね。自動車の運転みたいな感じですね。
鍋島 そうですね。右足と左足、両方使わなければいけないので、左足でアームを切り替えたり、カメラの近接や遠近を調整したり、いろいろな操作ができます。
池田 ですから、かなり慣れた方でないとうまくいかないですね。
鍋島 そうですね。サーティフィケート(certificate)といいまして、その企業が設定したプログラムをこなさないと、術者の許可が下りないので、そういったプログラムにしたがってサーティフィケートをとった医師が行うのが現状です。
池田 胃がん全部、どのような状態でもロボット手術ができるというわけではないですよね。どのような症例が適応になるのでしょうか。
鍋島 従来、腹腔鏡手術の適応はステージ1といわれていましたが、2023 年に開腹手術と腹腔鏡手術の進行がんに対する非劣性試験であるJLSSGという試験の結果では、開腹手術と比べて腹腔鏡手術の非劣性が証明され、どちらを行っても進行がんに対しては同程度だという結果が出ました。その結果を受けて、胃がん学会はガイドラインの速報ということで、現状は技術認定医であれば、進行胃がんに対しても腹腔鏡手術もしくはロボット支援の腹腔鏡手術を適応していいということになっています。
池田 腹腔鏡手術の利点とはどのようなものなのでしょうか。
鍋島 腹腔鏡手術の利点は開腹手術に比べて傷が小さいがゆえに、痛みも少ないことです。さらに、これも大規模Studyがありますが、ロボット手術は腹腔鏡手術に比べて合併症が減る、在院日数が短くなるという結果が出ましたので、そういった意味では、当然開腹手術に比べてのメリットがありますし、ロボット手術と腹腔鏡手術とを比べてもメリットがあるといわれています。
池田 入院期間が短くなるということですが、どのような入院スケジュー ルになるのでしょうか。
鍋島 当院のスケジュールでいいますと、入院の翌日に手術を行って、術後は1日目から歩行開始になります。3~4日目ぐらいに経口摂取を開始して、9~10日ぐらいで退院というようなスケジュールが一般的になっています。
池田 翌日から歩くとはなかなか厳しいですね。
鍋島 そうですね。開腹手術のイメージですと、かなり痛みもありますが、腹腔鏡手術もしくはロボット支援の腹腔鏡手術は、先ほど申しましたように、5~12㎜程度の創が5個ぐらいで済みますし、さらに最近は麻酔の技術が非常に発達していますので、術前の全身麻酔をかける前にオペ室で硬膜外麻酔を入れていただきますと、だいたい術後3日間ぐらいは、持続的に麻酔薬が背中から投与されます。その痛み止めによって、ほとんど患者さんの痛みは軽減できています。
池田 翌日でも歩けるのですね。
鍋島 そうですね。痛みは少ないので、歩きやすいということですね。
池田 気になるところは合併症とその対応ですが、どのようなものがあるのでしょうか。
鍋島 出血、感染、縫合不全、あとは膵液瘻になりますが、そういった胃切除手術の大きな合併症が3~4つあります。
池田 場合によっては開腹手術になるなどと同意書などに書いてありますが、実際に、そういった4つの合併症というのは開腹しなければいけないのでしょうか。
鍋島 いいえ、ほとんどの合併症は保存的に、例えば、縫合不全だったり、膵液瘻や膵炎ならば絶飲食をしていただいて、炎症反応が高ければ抗生物質を使って、あとは点滴で保存的に経過を見ることがほとんどです。再手術を行うことは、当院では数年に1例あるかないかです。出血に関しても、最初のアプローチはインターベーションの治療になるので、カテーテル等の血管造影検査で、出血源を止めることで再手術を回避することが多くあります。それでも止まらない場合は再手術になりますが、再出血はほとんどありません。もちろんインフォームドコンセントでは説明はしますが、だいたい保存的に様子を見ることができます。
池田 実際のところ開腹手術になる場合というのはあまりないのですね。
鍋島 あまりないです。
池田 どうしても同意書に書いてあるので気になりますが、それを聞いてちょっと安心しました。ダヴィンチ手術を含めて、どんどん新しい機器も出てきていますが、どのへんが新しくなっているのでしょうか。
鍋島 現在、ダヴィンチの最も新しいものはXiといわれているものです。以前のSとかSiに比べると、セッティングの自動化が進んでいます。ロボット手術のデメリットとして、セッティングに時間がかかるというところがありますが、それがある程度、自動でセッティングしやすくなってきているのが最新の機器のメリットになります。
池田 この機械を動かすときは、やはり医師だけでは無理ですよね。MEさんがいらして、まずセッティングしてから手術を始めるのですよね。自動化というのは、そのセッティングのところが自動化されているので、時間が短縮するということなのでしょうか。
鍋島 そういうイメージで捉えてよいと思います。以前のバージョンの機械に比べますと、いろいろな部分が自動化されていて、セッティングがしやすくなってきているイメージです。
池田 セッティング前から手術時間と考えていくと、時間がグッと短くなるので、トータルの手術時間も短くなる。そういうイメージなのでしょうか。
鍋島 まず、ロボット手術を始める前に腹腔鏡と同様に、加刀してポートを挿入します。ドッキングやロールインといわれていますけれども、患者さんサイドにペーシェントカートという、ロボットアームが入っていきます。そこからダヴィンチのアームを患者さんのポートにドッキングさせ、セットする部分が、より短縮化されます。加刀している時間から手術時間が出ますので、全体の手術時間が短くなります。
池田 まず、ポートを入れない限りはセッティングが始まらないから、そこが短くなることは、患者さんにとっての負担も軽くなるのですね。
鍋島 そうですね。トータルとしての手術時間が短くなります。
池田 やはり、そのへんの自動化が患者さんにもメリットがあるのですね。ありがとうございました。
胃がんの腹腔鏡手術
東海大学消化器外科准教授
鍋島 一仁 先生
(聞き手池田 志斈先生)
胃がんの腹腔鏡手術についてご教示ください。
神奈川県開業医