山内
鈴木先生、まず、尿閉で尿道バルーンカテーテルが留置となるようなケースですが、これはどういったことが原因で多いのでしょうか。
鈴木
高齢男性では前立腺肥大症に伴う尿閉の患者さんを多く経験することがあります。あとは骨盤内臓器の術後や糖尿病による末梢神経障害によって神経因性膀胱に至り、自力で排尿ができなくなってしまったような患者さんです。女性でも高齢者に限らず巨大な子宮筋腫があるような方では尿閉が起こりえます。また、薬剤性の尿閉になることもあり、もともと前立腺肥大症があるところに総合感冒薬や抗アレルギー薬を服用して、薬剤の抗コリン作用によって膀胱の収縮力が妨げられてしまい突然おしっこが出にくいとか、出せないというような訴えで病院に来られるケースを多く経験します。
山内
ただ、さらに尿道カテーテルの留置、持続となるとどうなるのでしょうか。かなり長い年月、持続になるケースであれば、その中の一部の方になりますよね。
鈴木
そうですね。最初の尿閉に対する対応が尿道カテーテル留置になってしまって、その後ずっと、なぜか尿道カテーテルの交換を持続されているケースに出合うことがあります。認知機能や身体機能に問題がない方なら間欠的な自己導尿をマスターしていただいて、自分で尿路管理をされる方もおられます。長期間にわたって尿道カテーテルを留置すると尿道下裂のような合併症もありますし、自己導尿と尿道カテーテル留置を比較すると、尿道カテーテル留置のほうが尿路感染症のリスクが高いというエビデンスもあります。安易に尿道カテーテル留置で管理を長く続けることは、立ち止まって考えたほうがいいと思います。
山内
したがって、実際に尿道カテーテルが閉塞してしまうケースはやはり高齢者、少し認知症があるケースに多いような気がしますね。
鈴木
できるだけ患者さんにとってベストな尿路管理を考えたいところですが、やむをえず尿道カテーテルの交換を続けているような患者さんも実際におられました。
山内
全体の数%ぐらいの方でしょうか。
鈴木
そうですね。実際の数をカウントしたことがないので、正確な数値は申し上げられませんが、やはり数%ぐらいではないかと思います。
山内
質問の尿の混濁の問題ですが、やはり感染絡みで、いろいろな異物が出てきた結果かという気がしますが、いかがですか。
鈴木
まず、尿道カテーテルが閉塞する原因の多くは尿中に出てくる沈殿物です。その成分は尿路上皮や血液といったような細胞成分のほかに、腎臓から出てくるような尿円柱、それから尿中に析出してくるような結晶の成分、あとは脂肪成分細胞や細菌が含まれます。特にバクテリア、微生物が尿中に逆行性感染で入ってきてしまうのですが、その細菌が、ウレアーゼ(尿酸分解酵素)という尿酸を分解する酵素を持っているような微生物の感染を受けると、尿中の尿酸が分解されて水酸化アンモニウムが生成されます。水酸化アンモニウムは水に溶けるとアルカリ性を示すので通常ならば中性から弱酸性ぐらいの尿がアルカリ性になってしまいます。尿がアルカリ性になると尿中から塩類が析出して、それが尿の沈殿物の主たる成分になっています。
山内
アルカリ化塩ですね。これは大きな問題ですね。
鈴木
そうですね。感染尿というのはほぼアルカリ尿だと私たちは教わりましたが、実際に尿検査をすると、pH8、中にはpH9という方もいます。
山内
長期留置されているケースではかなり高い頻度で出てくるのですか。
鈴木
そうですね。実際に尿道カテーテルの交換をしていると、尿道カテーテルの先端に析出した塩類がこびりついているようなケースを多く経験します。すると、尿道カテーテルを引き抜くときに、やすりをかけたような状態になります。ということは、患者さんにとってたいへんな苦痛です。
山内
普通に考えると、尿道カテーテルの内径を太くするとか、尿道カテーテルを頻繁に交換するなどといった対応になりそうですが、いかがですか。
鈴木
私もこの機会に文献をたどってみたところ、『BJU International』という雑誌の2021年128巻667頁に尿道カテーテルを洗浄する、太い尿道カテーテルに変更するといったような対応は、結局のところあまり有効ではないというように書かれていました。実際の臨床でも、尿道カテーテルの洗浄をしてもあまり尿道カテーテルが長持ちした経験がありません。よくもって2週間ぐらい。やむをえず2週間ごとに交換していた高齢者の方の経験があります。
それから、あまり太い尿道カテーテルにすると患者さんご自身の苦痛にもつながりますし、尿道そのものが血流不全を起こします。尿道海綿体は血流豊富なところなので、太い尿道カテー テルが入っていることによって血流不全を起こすと、ゆくゆくは尿道狭窄の原因にもなりうると考えられます。
山内
なかなかいい案がないということですね。
鈴木
そうですね。
山内
尿道カテーテルの交換頻度をもう少し頻繁にするというのは、先生のご経験ではどうだったのでしょうか。
鈴木
私自身、最も高頻度に交換したとしても2週間ごとの交換というケースが多かったように思います。通常は4週間ごとに交換するという対応ですがどうしても詰まってしまう方の場合は、2週間ごとの交換で対応ができていたと記憶しています。
山内
ただし、医師も患者さんもたいへんですね。
鈴木
そうですね。2週間ごとの通院もそうですし、交換のときの苦痛がその都度あるわけですから、患者さんもたいへんだと思います。
山内
通常考えられる抗生物質はどのようにしていますか。
鈴木
これは非常に罪深いことかなと私自身は思っています。どうしても多剤耐性菌を生む元凶になっていると思いますので、一時的には尿がきれいになると思うのですが、長い目で見ると、やはり耐性菌による感染が起きて、次に使える抗生剤がなくなってしまう。もっと広い視野で見ると、その地域や医療圏に多剤耐性菌が蔓延するようなことの手助けをしてしまう可能性もあるので、抗生剤による対処はあまり好ましくないと思っています。
山内
それ以外のステントのようなデバイスに関してはいかがですか。
鈴木
尿道ステントは、私自身が挿入したわけではなくて、ほかの医師が挿入している場面に立ち会わせていただいたことがあるのですが、定期的に交換が必要で、交換のときにやはり塩類がこびりついてしまって、なかなかたいへんだったというような話も聞いたことがあります。もう少しバイオフィルムや塩類の付着に強いデバイスが出ていればよいのですが、私自身、そのあたりの知識を今は持ち合わせていませんので、正確なお答えができなくて申し訳ありません。
山内
水分をしっかり摂ることは先ほどのアルカリ化の問題の是正ということになるのでしょうか。
鈴木
そうですね。尿のアルカリ化防止という意味では、クランベリージュースを飲む、ビタミンCを摂る、あとは酸性食品である魚、肉類、乳製品、穀物というような食品を摂って尿を酸性化に導くことが尿のアルカリ化防止に有用かもしれません。
山内
そういったものは、サプリでも最近供給されていますね。
鈴木
サプリメントでも売られていますし、クランベリージュースについてはドラッグストアなどに行きますと、健康食品として陳列されているように思います。私自身も購入して飲んだことがあります。
山内
飲みやすいのですね。
鈴木
少し酸っぱいので、水で薄めて飲むというようなことが書かれていたように記憶しています。
山内
水分摂取と一石二鳥になるかもしれないですね。
鈴木
そうですね。おっしゃるとおりです。
山内
ありがとうございました。