池脇
巨細胞性動脈炎(GCA)の治療について教えてください。まず確認ですが巨細胞性動脈炎とは以前は側頭動脈炎といわれていたものですか。
平野
はい。2015年ころから名称が変わりました。巨細胞性動脈炎とは、肥厚した血管壁の中に巨細胞が散見されるということが病名の由来になっています。
池脇
病名が変わった2015年に指定難病になったのですね。
平野
はい。指定難病の一つであった側頭動脈炎が、巨細胞性動脈炎に置き換わりました。
池脇
まずは巨細胞性動脈炎について基本的なところから教えてください。
平野
巨細胞の浸潤を伴った炎症によって血管壁の全層が肥厚し、内腔に狭窄あるいは血栓閉塞を生じます。つまり、虚血に陥ることで支配臓器に障害が生じ、臨床症状や所見として現れます。
このことをイメージしながら、診断や治療をしていくことがカギになると思います。
池脇
炎症が起こる動脈は、頭頸部の動脈、あるいはそこから枝分かれしたところが主体ですか。
平野
その部分が好発部位です。
池脇
側頭動脈、浅側頭動脈、あと眼動脈に起きて眼動脈が詰まってしまったら失明してしまうのでしょうか。
平野
そうです。この病気で一番見逃してはいけないポイントは、失明です。失明の症状、視力障害が起こった場合は、即、治療に取り掛からないといけない病気です。
池脇
巨細胞性動脈炎というのは、頭頸部の動脈の大・中・小のうちどちらかというと大きめの動脈が主体なのですね。
平野
そうですね。大血管の炎症といわれています。大血管ですから、大動脈のほうにまで炎症が波及し、その病変部に分枝した血管も巻きこまれることで、様々な虚血症状を起こします。炎症の首座が大動脈で画像での区別が時としてつきにくいことがある血管炎に、高安動脈炎というのがあります。病理像は異なりますが、いきなり大動脈を生検するわけにはいきませんので、高安動脈炎は若年者に多く、巨細胞性動脈炎は高齢者に多いといわれていることを大まかな鑑別としています。
池脇
発症年齢は50歳以上だそうですが、好発年齢のピークは60~70歳ぐらいなのでしょうか。
平野
文献によると、日本の統計では72歳前後といわれています。
池脇
どこから炎症が始まるかによるのでしょうが、患者さんの自覚症状はどのようなものが多いのでしょうか。
平野
好発部位は、内頸、外頸、椎骨、鎖骨下動脈ですので、先ほどのお話のように、それぞれ虚血の起きた部位の症状が現れます。一番多いのはかつての名称のごとく、側頭部、こめかみの部分の自発痛や圧痛です。この所見を認めたら真っ先に、内頸動脈の先にある眼動脈病変の有無に注意を払う必要があり、失明、霧視や複視がないかを問診することが大切です。そのほかには、噛んだときの顎の疲れ、いわゆる顎跛行の症状、上肢の痛みや麻痺の症状など様々あります。
また、時々、血管雑音、狭窄音が聞こえることがあるので、そういったものも聴診してみることも必要かと思います。
池脇
患者さんの自覚症状によっては、最初は眼科や脳神経内科などでいろいろと診ていって、ひょっとしてということで先生のところに紹介されるという流れが多いのでしょうか。
平野
はい、多いですね。血管に何かがある、虚血症状がある、プラス炎症がものすごく高い場合は、鑑別として巨細胞性動脈炎を挙げておくべきだと思っています。
池脇
確かにこの巨細胞性動脈炎は発症や再燃をすると、明らかに炎症所見があるのですね。
平野
もちろん必須です。これは炎症の病気なので、炎症がなければほぼ除外してもいいぐらい、炎症所見が大事です。
池脇
血液検査の異常で、必ず何かがあるはずだ、と鑑別を進めるにあたり、先生方の場合は最終的にこの疾患の診断をどのように進めていくのでしょうか。
平野
これらの虚血症状や身体所見、血清学的炎症反応の所見に加えて、画像や組織所見で確かめています。超音波検査では、側頭動脈血管壁の浮腫を認めます。先ほどのように頭蓋内動脈以外にも大血管の炎症を併発していることが多いため、FDG-PET、MRIで炎症血管部位の検索を行います。また、浅側頭動脈の生検は診断に重要です。病変が非連続性に出現することがあるので、超音波検査で炎症の有無を確認し、長めに採取(2㎝以上)して検索するほうがよいようです。
なお、眼症状は非可逆的に失明に至るため、治療を先行し生検をすることもあります。ちなみにステロイド投与後でも、投与開始後1週間以内であれば病理所見を得られることが多いです。
池脇
炎症が起こっている動脈のところが、PETで光る集積があるということで診断をして治療をするのですね。治療としてはプレドニゾロンを使うのかと思っているのですが、このあたりは治療の変化、進歩があるのですね。
平野
従来はまずステロイド単剤を投与し寛解に持っていき、それでも効果が不十分だった場合は、免疫調節薬のアザチオプリンやリウマチでよく用いるメトトレキサートを使うことがあります。ただ、これでもコントロールがつかない場合があり、5年ぐらい前からトシリズマブ、IL-6を阻害する生物学的製剤が適応拡大になりました。それでより一層コントロールしやすくなってきています。血管炎で使用するステロイドは、中等量から高用量、場合によってはパルスまで使うので、ステロイドの影響が出やすくなります。特に高齢の方にとって、骨粗鬆症やステロイドミオパチーはADLへ大きな影響を与えます。私はそういったことにも配慮して、いたずらにステロイドで引っ張らずに生物学的製剤をうまく組み合わせて、なんとか生活を維持するような方向へ持っていくようにしています。
池脇
性差だと女性の方が多く、高齢の女性は骨粗鬆症も進行しているので、そういう方にステロイドを長期使用すると、その弊害やフレイルが考えられます。できるだけ早く、プレドニゾロンを低用量、あるいはやめられるかどうかわかりませんが、ステロイドの中止を目指すときに新しい生物学的製剤は非常に有効なのですね。
平野
ステロイドと比べて生物学的製剤はコストがかかってしまいますが、長い目で患者さんや家族の生活のことを考えると、使えるのであれば生物学的製剤をなるべく早めに使うのも一つの方法ではないかと考えています。
池脇
早めというのは、一般的にステロイドでコントロールできない、あるいはそこにメトトレキサートを乗せてもうまくいかず、いよいよ生物学的製剤という流れではなくて、もっと早い段階ということですか。
平野
どのくらい早い段階で使うのがよいかは、この疾患以外の基礎疾患(糖尿病、高血圧など)、社会的背景の状況で一概に言えないと思います。例えば、重度の糖尿病がある方ではステロイドの使用は少しでも短くしたいので、費用対効果を考える必要性もありますが、生活の中の治療ですので、生物学的製剤を投与するかしないかは別にして、バランスは常に検討する必要があるかと思います。
池脇
それを使うことによって、あまり副作用を考える必要がないぐらいのステロイドの量に軽減できた場合、トシリズマブの場合は、どのくらいの間隔で注射をするのでしょうか。
平野
トシリズマブは理論上、4週で失効すると言われていますが、私がかかわっている患者さんは2、3カ月の間隔をあけて投与できています。
池脇
では、金額は別にしてもそれほど負担にならないですね。
平野
ならない可能性はあります。
池脇
最後にお聞きしたいのですが、この巨細胞性動脈炎にリウマチ性多発筋痛症(PMR)が合併しやすい、逆もありうるとなるとリウマチ性多発筋痛症疑いのときに巨細胞性動脈炎の存在をきちんと見ておかないとたいへんですよね。
平野
おっしゃるとおりで、リウマチ性多発筋痛症と巨細胞性動脈炎ではステロイドを使う量がまるっきり違います。当然、リウマチ性多発筋痛症は少量ですし、巨細胞性動脈炎は大量なので、リウマチ性多発筋痛症だと診断がついて巨細胞性動脈炎を見逃すと巨細胞性動脈炎はそのまま寛解に入らず続いてしまいます。すると、それによる虚血障害が起きるので、必ずリウマチ性多発筋痛症を見たら巨細胞性動脈炎はないかを見ておく必要があります。ちなみに頻度としては、巨細胞性動脈炎にリウマチ性多発筋痛症が合併するのは50%で、リウマチ性多発筋痛症に巨細胞性動脈炎が合併するのが20%といわれています。
池脇
いずれにしても少なくない数ですね。
平野
はい。量を間違えると後遺症として残ってしまいますので、やはり巨細胞性動脈炎は常に考えておくべきだと思います。
池脇
ありがとうございました。