ドクターサロン

 大西 動脈硬化性疾患の予防を考えるというシリーズの一つとして、主要な高リスク病態への対応、冠動脈疾患の既往についてうかがいます。二次予防の話が中心になるかと思いますが、冠動脈疾患の既往のある方は、きちんとした管理が求められると思います。まずはその中で特に厳格な管理が必要な方、動脈硬化性疾患の発症リスクが特に高い急性冠症候群(ACS)に関して教えていただけたらと思います。
 野出 冠動脈疾患ということで、動脈硬化性疾患を有する患者さんの二次予防としては、LDLコレステロールを100㎎/dL以下にすることが今回のガイドラインの目標値になっています。一方で心筋梗塞を起こした直後の急性期や亜急性期は、より厳格にLDLコレステロールを下げることになっています。心筋梗塞を起こしたあとや、亜急性期はリスクが高いので、再発を予防する観点からも、ガイドライン上では高用量のストロングスタチンを使ってLDLコレステロールを70㎎/dL未満にする方針になっています。
 大西 ACSの場合はなるべく早く治療を始めたほうがよいのでしょうか。
 野出 心筋梗塞で入院された患者さんに関しては、可及的速やかに入院当日から高用量のストロングスタチンを使っていく方針です。
 大西 2週間以内になるべく早く始めるということですね。
 野出 少なくとも2週間以内、できれば入院した当日か2、3日以内に投与するほうが予後がいいのは大規模臨床研究でも証明されています。
 大西 高用量とは具体的にどのような処方になりますか。
 野出 20㎎のアトルバスタチンを使います。10㎎でも効果がありますので、10~20㎎になります。ロスバスタチンというストロングスタチンは、5~10㎎が高用量といわれています。この2つがストロングスタチンといわれており、できれば10㎎のロスバスタチンを使っています。
 大西 スタチンに加えて、ほかの薬剤を加えるのも効果はあるのでしょうか。
 野出 ストロングスタチンの高用量を使った上で、LDLコレステロールが70㎎/dL未満に達していなければ、エゼチミブを使う大規模臨床試験でIMPROVE-ITという介入研究があります。スタチンはコレステロール合成酵素を抑える薬剤ですが、エゼチミブは腸からコレステロール吸収を抑える薬なので、作用機序が違います。スタチンでLDLコレステロールが70㎎/dL未満に達していなければ、エゼチミブ10㎎を併用する基本的治療になります。
 大西 それ以外にも何か適切な薬はありますか。
 野出 LDLコレステロールが70㎎/dL未満に達していなければ、PCSK9阻害薬があります。これは注射薬で、強力にLDLコレステロールを下げる効果があり、ODYSSEY試験とFOURIER 研究において、LDLコレステロールを30㎎/dLにした結果、脳卒中と心筋梗塞の再発を予防できることが証明されていますので、エゼチミブとスタチンで効果がなければ、PCSK9阻害薬を使います。この薬は高額なので、患者さんのことを考慮しながら検討するという推奨度になります。
 大西 ほかの病態としまして、家族性高コレステロール血症(FH)があるかと思いますが、このあたりの対応はどうしたらよいでしょうか。
 野出 これもハイリスクグループといわれており、冠動脈疾患、FHを合併されている方は、LDLコレステロー ルを70㎎/dL未満にすることになっています。FHは20~30代から発症し、動脈硬化のリスクは暴露された年月╳ LDLコレステロールの積です。50歳になってからコレステロールが上がった方よりも、20歳から高コレステロール血症の方のほうが動脈硬化の率が高いということで、LDLコレステロールを70㎎/dL未満にする急性冠症候群と同じ目標値になっています。
 大西 やはり糖尿病が重要な疾患だと思いますが、そのあたりの対応を教えていただけますか。
 野出 高血圧に比べると糖尿病の心筋梗塞や脳卒中に対するリスクのほうが高いです。前回の動脈硬化学会のガイドラインは、糖尿病を合併していても、糖尿病プラス喫煙や糖尿病プラス高血圧という、もう一つのリスクがないと、LDLコレステロールが70㎎/dL 未満には設定されていませんでした。2022年版のガイドラインでは冠動脈疾患があって糖尿病があると、この2つでLDLコレステロールが70㎎/dL未満になり、糖尿病は前回よりも厳格にLDLコレステロールを下げていくことに変更されています。
 大西 アテローム血栓性脳梗塞はどのように対応したらよいでしょうか。
 野出 これは前回から最も変更になっている点です。前回の動脈硬化学会のガイドラインでは、アテローム血栓性脳梗塞に関しては、LDLコレステロールは120㎎/dLでした。ラクナストロークに比べて日本人でもアテローム血栓性脳梗塞が増えてきた背景があります。PCSK9阻害薬を使ったFOURIER 研究、ODYSSEY研究、エゼチミブを使った介入研究でも心筋梗塞を減らすのですが、アテローム血栓性脳梗塞を抑制するというエビデンスが出てきています。今回のガイドライン改訂では、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞のリスクは同等にしています。特に冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合併した方は、厳格に下げる観点からLDLコレステロールを70㎎/dL未満に設定しています。
 大西 現在、血管内超音波検査で冠動脈プラークを評価することがあると思いますが、この辺りの重要性について教えていただけますか。
 野出 心筋梗塞のほとんどは不安定プラークの破裂です。心筋梗塞でカテーテル検査をして、IVUS(血管内超音波検査)をすると、不安定プラークが破綻して血栓が生ずるような病態が多く、不安定プラークがベースの心筋梗塞は、海外ではLDLコレステロールを55未満にするガイドラインもあります。JAS(日本動脈硬化学会)のガイドラインでは心筋梗塞や狭心症のような症状がある方で、症状がなくてもIVUSでみると不安定プラークがあるケース、ここにLDLコレステロールをどう持っていくかが今後の課題だと思っています。不安定プラークがあれば冠動脈疾患と定義してもいいのですが、そこまでは今回のガイドラインでは提示していません。
 大西 ありがとうございました。