ドクターサロン

 齊藤 薬物療法の実際面についてうかがいます。動脈硬化性疾患の予防のためにガイドラインが作られました。患者さんに対しては、リスクスコアが示されていますが、その他の検査などどういった点から先生は入っていらっしゃいますか。
 寺本 私は脂質のデータでは、まずLDLコレステロールの値を見ます。LDLコレステロールの値が高い、160 ㎎/dL以上の方には、かなりのリスクをきちんと説明することが必要で、その方が男性か女性か、女性であれば閉経しているかどうか、タバコを吸われるのかなど、その方のバックグラウンドを調べた上で、だいたいあなただとLDLコレステロールをここまで下げなければいけないよね、という話をしながら進めていくことが多いです。コレステロールの問題というのは、まるっきり患者さんには症状がないので、急に病気にされたような感じがして不信感などがあり、なかなか納得しにくいところがあります。その辺を最初から2回目か3回目の診察まではしっかりと患者さんとどういう問題があるのかお話しした上で、次のステップに進むというやり方をしています。
 齊藤 その基本が重要ですね。患者さんはいろいろ聞いても、1回だけだとなかなか理解しきれないので、それを繰り返しお話しするということですね。
 寺本 私は薬物療法とかそういったものは、だいたい診察して3回目ぐらいから話をすることにしています。1 回目は検査をして、その方のバックグラウンドを見て、2回目ぐらいのときに、食事や運動など、こういうことにだけ注意してくださいというお話をした1カ月後ぐらいにもう1回次の診察をします。そのときにLDLコレステロールが下がっていれば問題ないのですが、下がっていない場合には、ではこれであなたの動脈硬化の程度がどのくらいかを知りましょう、と頸動脈エコー検査をやって、頸動脈に動脈硬化があれば薬を使いましょう、というかたちで患者さんと話をしています。多くの患者さんは頸動脈エコーでプラークというコブのようなものがあれば納得されて薬物治療に進まれる方が多いです。それでも薬に対するちょっとした拒否感がないわけではないのですが、そこはやはり薬の説明をきちんとします。
 私はコレステロールや中性脂肪など、脂質異常症の治療は最初の数回の診察が一番重要だと思います。その後は比較的今は簡単になってきているので、そこが医師としての腕の見せどころかなと思っています。
 齊藤 なるほど。確かに思い当たるところがたくさんありますね。最初にしっかり聞いてモチベーションがある方と、最初を飛ばしてしまうとあとになって患者さんに聞くと、何のために薬を飲んでいるのかわかっていない患者さんはけっこう多いですね。
 寺本 最初に納得していただく。先生のご専門の高血圧にしても、高脂血症にしても、糖尿病にしてもそうですが、やはり治療の継続性というのはすごく重要なことです。結局、今までのいろいろな治療エビデンスを見ていても、だいたい5年ぐらいで有効性がようやく示せるという状態ですし、それから今はだいぶ長いスパンで見られているエビデンスもあるので、それを見ていても十何年とかそれぐらいでかなりの差が出てくることがわかっている。やはりきちんと長くそういうことをしていくことにこそ意味があるので、そうでないとやったことが水の泡になるといった話もします。薬に対して少し抵抗感のある方たちにも、そういう話をします。
 齊藤 そういうことでしっかり患者さんとコミュニケーションの時間をとって話しているのですね。先生の診療では、次はいつ来てというような時間の管理を予約で行っているのですね。
 寺本 私のところはだいたい予約で行っています。先ほども言いましたが、例えば最初に話をして、食事の注意など、そういったことをしたうえで、だいたいひと月ぐらいで効果が出ますので、ひと月後にもう1回脂質を見るというかたちをとるのです。そのときに重要なことは、例えばコレステロールに関していうと動物性の脂肪が非常に問題なわけです。ですから、この1カ月は実験だと思って動物性の脂肪は摂らないで来てくださいと伝えます。そうすると、だいたい食事の効果というのは10~20%、効く方は20%ぐらい下がる方がいるので、効くことがわかるとその食事の意味もわかるわけです。かといって、それではお肉を一切やめなさいといっても一生やめるわけにはいかないですね。ですから、そういうことがわかった上で、その後の生活をしていくことが重要なので、この1カ月は勝負なのです。その1カ月経ったところで来ていただいて、その次にまた予約をしていただく。今度は頸動脈のエコー検査を行った上で、治療に踏み込むかどうかを患者さんと話す。ですから、おそらく3カ月ぐらいかけて患者さんの治療を決めて、薬なら薬の治療に入っていくというのが私の行っている方法です。
 齊藤 私が産業医をしている会社員を見ていると、医師に「食事、生活に気をつけてください」という説明をされて、「また何かあったら来てください」で終了のことがわりと多く見受けられるようです。もう少し先生のおっしゃったようなかたちで、患者さんとしっかりつながっていただくとありがたいなと思うことがあります。
 寺本 食事療法もポイントを決めてお話ししないと、患者さんになかなか納得してもらえません。何が悪いか、申し上げたようにお肉が問題なわけです。お肉など動物性の脂肪、例えばバターや挽肉を使う料理が問題なのだとポイントを絞るのです。あれもいけない、これもいけないではなく、最初のひと月ぐらいはきちんとポイントを絞り頑張ってくださいと言って、ひと月後ぐらいに見る、というのが一番効果的だと思います。数値が下がってきたのを見ると、患者さんは納得し、その次もある程度気をつけるようになるので、そこが重要かなと思います。
 齊藤 服薬の開始についてのひと押しはなんでしょうか。
 寺本 薬の効果というのが、まず例えばスタチン系の薬だと、20~30%LDLコレステロールを下げるということがわかっています。あなたのLDLコレステロールの目標値はこれぐらいなので、このスタチンを使うとこれぐらいの効果です、ということをきちんと説明した上で薬を使わないとなかなか難しいです。スタチンなどを使うときは、やはり治療エビデンスがすごく重要だと思います。私はその治療のエビデンスで、例えばこれぐらいで20~30%下がると心筋梗塞や脳梗塞、そういったものを全部合わせたイベントが20~30%下がるということをきちんと説明した上で、薬を使っていくようにしています。大きな研究のエビデンスをきちんと説明しないと、患者さんは何のために治療しているのかわからなくなるので、やはりその辺をしっかり説明するようにしています。
 齊藤 最近も、しばしば週刊誌等に薬を飲んではいけないとかやめたほうがいいとか、そういう話が出ますよね。患者さんの中にはそれを見て心配になる人がいると思いますが、先生はどうされますか。
 寺本 それに対していつも申し上げるのは、個々の事例ではいろいろなことがあり、薬はそれぞれに副作用などがあります。個々の事例で議論するのは問題で、大規模な試験で得られたデータ、そういったエビデンスが大切です。それをきちんと説明しないといけないと思います。
 齊藤 ほとんどの方はそれで理解されるわけですよね。
 寺本 そうですね。
 齊藤 ただ一部どうしても理解してもらえない方の場合、先生はどうされていますか。
 寺本 私はあまりそこを深追いすることはしません。やはりその方たちもだいたい3カ月なり、6カ月後にもう1回来て、きちんと見た上で次のことを考えるようにしています。ゴールを決めて、ここまでにどれくらいにしましょうと話しています。
 齊藤 そうですね。そういう人たちは心配しているのですよね。
 寺本 そうです。
 齊藤 ですから、やはり医療者としては患者さんとつながって一緒に診ていくということなのでしょうね。
 寺本 継続性がすごく重要だと思います。
 齊藤 ありがとうございました。