大西 動脈硬化性疾患の予防を考えるというシリーズの一つとして、薬物療法についてうかがいたいと思います。日本人で冠動脈疾患やアテローム性動脈硬化症の予防のために、薬物を使ってLDLを下げるということが実際にエビデンスとして有効であるかどうかを教えていただけますか。
吉田 以前は海外のデータが主でしたが、最近は国内の大規模臨床試験の結果から脂質を低下することの有効性が証明されています。したがって心血管疾患のリスクが高い人には、積極的に脂質低下治療を進めていただきたいと思います。
大西 極めて有効であると考えてよいのですね。
吉田 はい、極めて有効だと思います。
大西 中性脂肪を下げる薬がいろいろあるかと思いますが、それが実際に先ほどお話があったアテローム性動脈硬化性疾患の予防に有効なのかどうかですね。
吉田 中性脂肪についてもリスクであるので、心血管疾患のそれを下げることでイベントを抑制できると考えられており、過去にはそれを示す臨床試験のデータもありました。また最近、新しいタイプの中性脂肪低下薬剤を用いた臨床試験が行われました。この結果としては、中性脂肪値は下がったのですが、心血管イベントの抑制効果がはっきりしなかったという結果になっています。しかし、この試験の中にはいろいろな患者さんが含まれていて、日本ではあまりみられない著明な肥満を有する2型糖尿病の進展像なども多く含まれています。今後わが国の臨床にどのような知見が得られるのか、その研究結果を詳細に見る必要があります。
大西 冠動脈疾患の二次予防にスタチンを大量に使うといわれていますが、それに関してストロングスタチンが第一選択だということは、エビデンスとして確立しているのでしょうか。
吉田 冠動脈疾患の二次予防については、その治療開始の前のLDLの値にかかわらず、できるだけ早くから積極的に低下させるべきだといわれています。そのためには、ストロングスタチンといわれている強力なスタチンを第一選択としたほうがいいと思います。
大西 次に、高リスクの疾患として例えば家族性高コレステロール血症や糖尿病、急性冠症候群、アテローム血栓性脳梗塞などが知られていると思いますが、その二次予防に対してLDLをどれだけ下げるかということについてはいかがですか。
吉田 新しい動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022では、very high riskの患者さんにはLDLの目標値を70㎎/dL未満にするとされています。
大西 次にアテローム性動脈硬化性疾患の予防でスタチン以外のいろいろな薬もあると思いますが、それらの有効性に関してはいかがですか。
吉田 スタチンについては、スタチン不耐症といって、筋肉症状などによって飲み続けることが難しいという患者さんもいます。そういう場合には、ほかの薬剤、例えば小腸コレステロー ルトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)や陰イオン交換樹脂を利用することがあります。また、プロブコールという薬もありますので、スタチンと作用機序の異なるものを使うことになります。
大西 幾つかの代表的な薬の話が出ましたが、脂質異常症の主な治療薬の適応有効性、安全性について教えていただけますか。
吉田 まず、スタチンについてですが、LDLの低下効果および心血管疾患の予防という点で、エビデンスがしっかり確立しています。ただし、高用量を使っても目標値に達しない場合や筋肉の痛みなどの症状が出てしまう場合には、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬や陰イオン交換樹脂を併用することになります。この小腸コレステロールトランスポーター阻害薬はスタチンとは作用機序が異なり、小腸からのコレステロール吸収を抑えます。さらに中性脂肪の低下効果も見られます。また、陰イオン交換樹脂は、腸管で胆汁を吸収し、便中に排出します。胆汁はコレステロールを原料としているため、間接的に血中のコレステロー ルが低下します。薬剤自体は糞便中に排泄されるため、安全性が高いと考えられ、妊娠中の脂質異常症の管理に用いられています。またPCSK9阻害薬という注射製剤はLDL受容体を分解する働きのあるPCSK9を阻害することで、結果的にLDL受容体を増加させるので、血中LDLが著明に低下します。LDL低下効果が顕著のため、心血管疾患の二次予防や家族性高コレステロー ル血症の場合に用います。ガイドラインの目標値をスタチンで達成できない場合には、ここで述べた薬剤を併用することも必要になります。
大西 併用療法も場合によっては考えるということですね。そうしますと、その薬剤を開始した後の定期検査はどういった点に注意したらよいでしょうか。
吉田 まず、その患者さんが薬をしっかり服用できているかどうか、何か副反応はないかを確認していただくため、4週間から遅くとも6週間以内ぐらいには検査を実施していただくとよいでしょう。以降も定期的に血液検査でLDLの値、あるいは中性脂肪の値を確認していただくことが大事です。その後は1、2カ月に一度の採血で経過を観察いただきます。
大西 特に横紋筋融解症が有名ですが、これを起こしやすいような状況というのはあるのでしょうか。
吉田 横紋筋融解症は、実際にはそれほど頻度が高いわけではなく、1,000 人に1~3人ぐらいです。原因として考えられる水分が足りない状態や腎臓の機能が悪い場合には慎重に考えますが、治療とのトレードオフで検問が必要でしょう。
大西 CKが上がってくるとちょっと気になるのですが、どうしたらよいでしょうか。
吉田 CKの上昇につきましても、基本的には3~4倍ぐらいの上昇の場合には、経過を見ながら、投与継続は可能だと思いますが、CKが上がったからすぐやめるというのではなく、やはり全身の状態を見ることが必要です。甲状腺機能低下症も鑑別診断に上がります。一方、例えばCKが正常値の10倍を超えるような場合には、いったんスタチンを中止することが重要だと思います。
大西 服薬アドヒアランスも重要なテーマだと思いますが、いかがですか。
吉田 服薬アドヒアランスのためには、自身のLDLの低下状況を患者さんにも確認していただくことが重要で、患者さんに治療の効果を何らか目に見えるかたちで見せて、それをインセンティブとして治療の継続につなげていくことが大事だと思います。
大西 治療が長年にわたる場合も多いですよね。
吉田 はい。ですから、長期的に見ていただくことが大事だと思います。
大西 ありがとうございました。
動脈硬化性疾患の予防を考える(Ⅲ)
薬物療法
東京医科歯科大学生命倫理研究センター・遺伝子診療科教授
吉田 雅幸 先生
(聞き手大西 真先生)