池田 副鼻腔炎はよく聞く病名ですが、そんなに単純なものなのでしょうか。あるいは、いろいろな背景の副鼻腔炎というのがあるのでしょうか。
森 昔、慢性副鼻腔炎は蓄膿症といわれて、鼻たれ小僧が思い浮かぶと思うのですが、感染性の副鼻腔炎が主で、マクロライド少量長期投与が一般的に行われていました。このマクロライド少量長期投与で改善しない場合に手術で治すというのが、一昔前の副鼻腔炎の治療法だったのですが、2000年前後ぐらいから徐々にマクロライド少量長期投与と手術でも改善しない副鼻腔炎が出てきて、それらの副鼻腔の粘膜に好酸球がたくさんいることから、難治性の副鼻腔炎の一つとして好酸球性副鼻腔炎が存在することがわかってきました。この好酸球性副鼻腔炎の背景には、好酸球の親分である、type2と呼ばれる免疫応答が考えられていて、主に最近では好酸球炎症が大きく起こるtype2炎症と、そうではないnon type2炎症に分類されて、それぞれの治療法を行うという流れになっています。
池田 好酸球性副鼻腔炎というのは診断が難しいのでしょうか。
森 好酸球性副鼻腔炎は2015年に難病に指定されました。その診断基準としては、副鼻腔CTで、篩骨洞優位かどうか、それから内視鏡検査で鼻の中にポリープの存在があるかどうか、また血中好酸球のパーセンテージがどのくらいの値か、この3つで評価をし、好酸球性副鼻腔炎を疑います。確定診断には、副鼻腔炎が起きている組織、主に鼻茸の中に好酸球がどのくらい浸潤しているかどうかで決められます。具体的には、鼻茸の中に3カ所、一視野に好酸球が70個以上存在していると、好酸球性副鼻腔炎という確定診断がつきます。
池田 診断として、鼻茸があるというのが入っているので、それをちょっと切り取って、病理でみるということですね。
森 おっしゃるとおりです。
池田 鼻茸がない場合は、それは除外されてしまうのでしょうか。
森 鼻茸がある場合とない場合とでは病態が異なるという可能性が考えられているのですが、鼻茸があったほうが症状が強く出てくるので、鼻茸の存在あるなしをこの診断基準に入れています。ただし実際は鼻茸がなくても、副鼻腔の粘膜に好酸球が浸潤している副鼻腔炎も存在しています。type2炎症の副鼻腔炎の中でも、ポリープができる場合とできない場合と、個々の病態は非常にバラエティに富んでいます。
池田 好酸球性副鼻腔炎の治療はどうされるのでしょうか。
森 好酸球炎症ではない副鼻腔炎はマクロライド少量長期投与が主でしたが、好酸球炎症に関してはステロイドがよく効きます。噴霧式点鼻薬、ネブライザー、鼻うがいなど局所の治療法とステロイドの内服を組み合わせて、症状のコントロールを行うのですが、ステロイドを中止すると再燃してきますので、その場合には手術が適応になります。手術によって、6~7割でコントロールがつく印象があります。これでもコントロールがつかないような患者さん、特にNSAIDsの過敏症、気管支喘息を合併するような方々というのは、やはり手術をしても再燃してきて、ステロイドが必要な状況になってきます。ステロイドの内服が何度か繰り返されるようであれば、分子標的薬であるデュピクセントの使用を検討します。
池田 手術をしたり、ステロイドの反復投与、病理で鼻茸にかなり好酸球浸潤があるということが満たされるとデュピクセントを使えるという理解でしょうか。
森 はい。おっしゃるとおりです。
池田 では、対象症例として、限られてくるということですよね。
森 はい。すべての方がデュピクセントの適応というわけではありませんので、診断をしっかりつけて十分に適応のステップを踏むことが重要です。
池田 では、デュピクセントのター ゲットになると、指定難病ですので、臨床個人調査票を書いて申請する。デュピクセントは高額な薬ですが、全額カバーされるのでしょうか。
森 全額ではなくて、その患者さんによって若干変わってくるのですが、医療費の助成が受けられますので患者さんの負担が軽減されます。
池田 なるほど、微妙なところですね。
森 ただ、この治療を行うことによって、嗅覚障害や咳や鼻漏、鼻づまり、そういったものがよく解決されます。患者さんのQOLを考えますと、デュピクセントの導入のメリットは非常に大きいと考えますので、治療を受けたいという方は多くいらっしゃいます。
池田 一方、non type2炎症の副鼻腔炎の対処はどのようにされるのでしょうか。
森 慢性副鼻腔炎というのは非常に多岐にわたる病態が背景に隠れています。副鼻腔自体に原因がある場合と続発性に起こる場合とに分けられるのですが、副鼻腔自体に問題がある場合は、例えば解剖学的な異常によって、副鼻腔の通気口である自然口が狭窄してしまうことによって副鼻腔炎が起こる場合もありますし、また、その人の免疫状態、例えばステロイドを飲んでいたり、解剖学的な要因だったり、あるいは環境因子であるタバコなどが原因で副鼻腔粘膜自体が何か異常を起こしていたりして、副鼻腔炎を起こしている場合もあります。その場合はその問題を解決しなければ副鼻腔炎は解決しません。あとは続発性となりますと、カビや歯が原因だったり、もしくはそこに腫瘍やがんが隠れていたり、また副鼻腔気管支症候群の一種である、カルタゲナー症候群や線毛機能不全症などが存在したり、副鼻腔炎を起こす病態というのはたいへん多岐にわたります。一人で治療をしていても、なかなかうまくいかないなという場合には、もしかしたら、ほかの病態が隠れているのではないかと疑う必要があると思います。
池田 一人でクリニックでみているよりは、少し大きめの病院に紹介して、可能性を見つけていただく。治療の反応性が得られたら、また逆紹介していただいて、フォローアップしていくことがやはりいいのでしょうか。
森 そうですね。副鼻腔炎の治療は一筋縄ではいかないことも経験しますので、一人で抱えずに、複数の医師と相談しながら、患者さんの病態を十分に見極めて、治療を選択することが重要になってくると思います。
池田 おそらく科学の進歩とともに、また新しい病態が見つかったりすることもあるでしょうし、勉強し続けなければいけないということですよね。
森 おっしゃるとおりだと思います。そこに新しい治療法も、またどんどん出てくると思います。
池田 最後に、国際学会の事務局長をやられるとうかがいました。
森 ありがとうございます。2024年の4月4~6日まで、京王プラザホテルで国際学会を東京慈恵会医科大学が主催をさせていただきます。このISIAN(International Society of Inflam mation and Allergy of the Nose)という学会は、東京慈恵会医科大学が最初に立ち上げた鼻の国際学会で、前回は2011年の東日本大震災の年に行われて、13年ぶりに開催します。今、たくさんのプログラムを考えている最中です。
池田 国際学会ですから、ポストコロナでたくさん参加されると思うのですが、どのくらいの数の参加者を予想されているのですか。
森 1,500人来ていただきたいです。
池田 たいへんな数ですね。ありがとうございました。
重症の副鼻腔炎治療
東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室講師
森 恵莉 先生
(聞き手池田 志斈先生)
副鼻腔炎で通常の治療で改善がみられない。もしくは慢性副鼻腔炎や骨膜の肥厚を伴うような症例に対する治療についてご教示ください。
広島県開業医