池脇 早朝高血圧の患者さんの治療がなかなかうまくいかなくて困っているという、臨床現場からの切実な質問をいただきました。まず、早朝高血圧とはどういう状況なのでしょうか。
森本 はい。早朝高血圧というのは、文字どおり早朝の血圧が高い状態をいいます。定義としては、起床後1~2 時間以内の血圧が高いこと。家で血圧を測定してもらい、135/85㎜Hg以上である場合を早朝高血圧といいます。
池脇 135/85㎜Hgといいますと、けっこう厳しめの数字だと思うのですが、それは定義として上が135㎜Hg、下が85㎜Hg以上であれば、少し高いことになるのですか。
森本 それぐらい以上の血圧ではその後の心血管合併症が多くなるので、きちんとこれぐらいにすべきであると考えられています。
池脇 確かに、脳血管障害や心血管疾患は朝に多いといわれていますので、高血圧があるからそうなったかどうかはわからないにしても、やはり早朝高血圧というのはリスクだと考えて介入するべきだという考えなのですね。
森本 はい、おっしゃるとおりです。
池脇 ただ、起きて1~2時間で高くなるというのは、いつから上昇するのか、早朝高血圧も何種類かあるのですか。
森本 大きく分けると、2種類あるといわれています。まずは、正常なら夜間寝ている間は血圧が下がるはずなのに下がらなくて、睡眠中から血圧が高く、それが朝まで持続しているという場合は高血圧持続型の早朝高血圧と呼ばれています。一方、夜間は血圧が高くないけれども、起床時から急に血圧が高くなる場合を早朝昇圧、モーニングサージ型の早朝高血圧と呼ばれています。
池脇 朝の時点で測ると両方とも高いけれども、直前に上昇したのか、あるいは夜間から続いているのかわかりませんが、どちらもリスクではあるのでしょうか。あるいはこちらのほうがよりリスクが高いなどはあるのでしょうか。
森本 いずれも非常にリスクが高いです。基本的に朝の高血圧ですが、24 時間持続型の高血圧よりもリスクが高いという報告もあるくらいです。この2種類の早朝高血圧も特にどちらのほうがリスクが低いということはなくて、同じぐらい高いといわれています。
池脇 日本人の早朝高血圧は、持続型とモーニングサージ型では基本的にどちらが多いというデータはあるのでしょうか。
森本 はっきりとしたデータはないと思いますが、おそらく、両方ともけっこう多いと思います。
池脇 どちらかを判断するためにどうやって調べたらいいのでしょうか。患者さんに自宅で血圧を測ってもらっても、さすがに寝ている間はなかなか難しい。どこまで厳密にその2つを鑑別するのか。それが最終的に何か治療成績にかかわってくるのでしょうか。
森本 この2つの分類は、研究者らが言い出した言葉で、基本的に24時間の血圧の測定をして、そのデータを基にしています。24時間血圧測定で、夜間の血圧が高いか低いかの評価をして、初めて2種類に分けることができるので、いわゆるABPM(24時間自由行動下血圧測定)をしなければなりません。それがなかなかできない日常診療においては、実際に両者を区別することは、けっこう困難ですし、それほど大きな意義はないと考えています。
池脇 そこまで厳密に区別しなくてもいいということは、一つの安心材料ですが、朝の血圧が高いのはどうもリスクらしいとなると、それをどう是正していくのか。薬を使う、あるいは生活習慣の改善などいろいろな方法があると思いますが、投薬の前に何かアドバイスはありますか。
森本 朝に血圧が高くなる原因としては、体液過剰が重要となります。ですので、減塩指導を行って、患者さんにも、それをきちんと守ってもらうようにしていただくのが重要だと思います。
池脇 基本に立ち返って減塩ですね。前夜の睡眠や飲酒などは関係するのですか。
森本 大いに関係するといわれています。あとは喫煙です。やはりストレスが多いと早朝高血圧になりやすいというデータがあります。
池脇 血圧以外のいろいろな生活習慣に目を向けて、是正したほうがいいところは、きちんと指導するのが大事なのですね。それでもなかなか朝の高血圧が改善しないといったときには、投薬ということになりますが、その辺りの使い方のポイントはどうなのでしょうか。
森本 まずは、作用時間の長い薬剤を使う。そして、できれば、それを夕食後か就寝前に内服してもらうようにすることが一つの手だと思います。
池脇 一般的には、ロングアクティングの降圧薬はだいたい朝の服用が多いですが、朝の血圧が高いときには、むしろ寝る前に飲むのですね。
森本 いくらロングアクティングといいましても、24時間は作用が持続しないので、朝、内服した薬剤が翌日の朝まで持続しないことがよくありますので、そういう場合には夜に内服していただくことが有効になると思います。
池脇 夜でしたら、高血圧持続型の方には、就寝中もある程度抑えられるというメリットが出てくるのですね。この質問の医師も、それはやっているということですが、それ以外はどうでしょうか。例えば昔は、朝内服していて、朝の血圧が少し高いときに、就寝前のα受容体遮断薬などをよく使っていましたが、今はどうなのでしょうか。
森本 今も、いわゆるα遮断薬は早朝高血圧でよく用いられると思います。早朝高血圧の原因としては、内分泌系の日内リズムの変動に加えて、交感神経活動の亢進が関与しているといわれているので、交感神経活動を抑制するような薬剤を使用します。もちろん、α、βの2種類の受容体がありますが血圧を下げるとなると、β遮断薬よりもα遮断薬のほうが有効となることが多いと思います。あとは、いわゆる中枢性のα2アゴニスト、カルシウム拮抗薬でも、L型のみならずN型のカルシウムチャネルをブロックするような薬がありますので、そういった薬剤が有効であると考えられます。
池脇 早朝の血圧を下げようとして服薬の時間をずらしたりすると、今度は逆に、ほかの時間帯が上がったり下がったりするときには、一つの方法として1日1回を朝と夕方2回に分けるような方法も考えてよいでしょうか。
森本 先ほど話題に出ました、ロングアクティングの薬でも、1日2回に分けて投与することが多いです。
池脇 1日2回服用というのは、なかなかなじめない患者さんもいるかもしれませんが、そういうメリットもあるので、それができる患者さんであれば試してみるということですね。
森本 そうですね。あとは、早朝高血圧の原因には、やはり体液過剰が関与しているといわれていますので、上手に利尿薬、従来のサイアザイド系利尿薬やループ利尿薬を使うことが有効でしょうし、最近では、ミネラルコルチコイド受容体、MRに対する選択性の高い、いわゆるMR拮抗薬(MRA) が使えるようになっています。副作用はあまり気にせず、体液量を減らすことが可能となっていますので、これを上手に使うのがいいと思います。これらは朝の投与でいいと思います。また、ARBの効果とネプリライシン阻害薬の効果を併せ持つ、いわゆるARNIという薬がナトリウム利尿ペプチド効果によって体液過剰を是正してくれますので、こういったものも利用する意義があると思います。
池脇 少量の利尿薬、MRA、それからARNIとして幾つかオプションもあるという話をうかがいました。質問の最後に診察室よりも自宅で高い、いわゆる仮面高血圧で気をつけるポイントがあったら教えてくださいということですが、どうでしょうか。
森本 仮面高血圧は幾つか種類があります。一つは今話題にありました早朝高血圧、あとは昼間の高血圧と夜間の高血圧になると思います。昼間の高血圧は、自宅でのストレス、精神的なストレス、あるいは身体的なストレスが過度となっていることがあると考えられるので、それをできるだけ減らすようにすること。そして、最近は在宅勤務をすることが多くなりましたので、家での仕事をあまり根を詰めてやらないようにすることも重要だと思います。夜間の高血圧では、循環血液の増加が重要となりますので、かなり減塩が重要となるし、先ほど言いましたような利尿薬関係の薬を上手に使うことがコツになろうかと思います。あとは測定時に、例えば喫煙していないか、室温が低くなりすぎていないか、きちんと精神的ストレスがない状態で血圧が測定できるかどうかに気をつけるのがよいと思います。
池脇 仮面高血圧の場合は、まずはきちんと測れているかどうかを確認して、その時間帯によって原因を考えていくということですね。ありがとうございました。
早朝高血圧
東京女子医科大学高血圧内科准教授
森本 聡 先生
(聞き手池脇 克則先生)
早朝高血圧患者の指導、薬剤選択についてご教示ください。減塩指導、夕方の内服薬追加なども行っていますが、コントロール不良症例にたびたび遭遇し、難渋することがあります。
いつも自宅での血圧が診察室での血圧より高値な場合に考えられる状況および測定時に気をつけるポイントについてご教示ください。
和歌山県開業医・兵庫県開業医