「気分障害」を英語ではmood disordersと表現します。日本語でも「良いムード」のように「雰囲気」という意味でも使われるmoodですが、英語では「(一定期間持続する)気分」としても使われます。このmoodにtheをつけたthe moodは、“I’m in the mood of pizza tonight.”や“I listen to upbeat music to get in the mood for a workout.”のように「~したい気分」という意味になります。ただしこのmoodにaをつけたa moodは「ある気分」という意味にはなりません。もしも“He’s in a mood today.”と言われたら、それは「彼は今日不機嫌だよ」という意味になりますので注意してください。
このmoodを使えば「上機嫌」はgood moodやbuoyant moodと、そして「不機嫌」はa moodのほかにbad moodやgrumpy moodなどと表現されます。また「気分を上げる」は英語でもそのままlift the moodのように、そして「気分を下げる」もlower the moodのように表現できます。
「集団のやる気」である「士気」を英語ではmoraleと表現します。これを聞くと「morale=モラルって道徳とか規範を意味するんじゃないの?」と思った方もいることでしょう。「道徳=モラル」という日本語にもなっているのはmoral(「モロ」のように発音)という英語です。これに対して「士気」を意味するmoraleは「マラァル」のように発音される全く別の単語です。ですから「病院スタッフの士気を上げる必要がある」は“We need to boost/ raise the morale of the hospital staff members.”のように表現します。
mood disordersの中にはmajor depressive disorder「うつ病」やbipolar disorder/manic-depressive disorder 「双極性障害・躁うつ病」などが含まれます。
こういったmood disordersの場合には「気分の落ち込み」が現れますが、その状態は様々な形容詞を使って“I’m feeling depressed/ blue/ sad / down/ low.”のように表現することができます。
そしてdepressionを持つ患者さんは“I’m feeling stressed.”と感じている方が多いので、ストレスに関する英語表現も知っておく必要があります。
“I’m feeling stressed out.”のようにoutをつけるとよりストレスの度合いが強くなっている印象があります。「仕事でやることが多い」という表現は“I’ve got a lot on my mind at work.”や“I’ve got a lot on my plate at work.”のように表現します。そのような状況が続くと、“I feel overwhelmed.”や“It's all got on top of me.”のように感じてしまいます。
患者さんに「気分の落ち込み」を尋ねる英語表現にも様々なものがあります。moodを使って“Have you noticed any changes in your mood recently?”という開放的質問表現はとても便利な表現ですので、まずはこの質問表現を覚えておきましょう。
より具体的に気分の落ち込みの有無を尋ねる場合には、“Have you been feeling depressed/ blue/ sad/ down/ low recently?”のように質問してみましょう。またそういった気分の落ち込みが「ほぼ一日中」かつ「ほぼ毎日」続くかどうかを尋ねることも重要です。英語ではそれぞれmost of the dayとalmost every dayのように表現します。
major depressive disorderの診断においては、「自分に価値がないと感じる」ことや「自分を責めるように感じる」ことの有無を尋ねる必要があります。もちろんこれらを“Do you feel worthless or guilty at work/home?”のようにworthless「価値が低い」やguilty「罪悪感がある」という形容詞を使って直接的に尋ねても良いのですが、こういった直接的な表現を使うのに抵抗を感じる場合、まずは“Do you feel stressed or unhappy at work/ home?”という形容詞を使ってみて、そこから間接的にworthlessやguiltyの有無を探るというのも良い方法です。
患者さんにmajor depressive disorderがある場合、anhedonia「快感消失」という症状も現れます。これは「アンヒドニィア」のように発音し、その意味は「通常楽しんでいた活動を楽しめなくなること」となります。この症状の有無を英語で尋ねる際にはまず“What activities do you enjoy doing in your spare time?”のように質問することで余暇の過ごし方を知り、その次に“Have you been finding pleasure in these activities recently?”という質問を重ねるといいでしょう。ちなみに日本では「余暇に行う活動全般」を「趣味」と言いますが、英語のhobbyには「凝った趣味」という意味しかなく、読書や映画鑑賞などは通常hobbyとはみなされないので注意してください。
ただこのような2つの質問を覚えるのに抵抗がある方も多いでしょう。そんな場合には“Have you been losing interest in things you usually enjoy?”という1つの質問でanhedoniaの有無を尋ねることができます。
またmajor depressive disorderではdiminished concentration「集中力低下」という症状も生じます。この有無を尋ねる際にはconcentrateやfocusという動詞を使って“Do you find it difficult to concentrate/focus on your work?”や“Do you have trouble focusing on your daily activities?”のように尋ねても良いですし、「気を散らす」という意味のdistractという動詞を使って“Are you easily distracted lately?”のように尋ねても良いでしょう。
そしてmajor depressive disorderではsuicidal thought「自殺企図」の有無を確認することがとても重要になります。
もちろんこれはとても繊細な内容であり、このような質問をするまでに患者さんとrapport「ラポール=短期間で築く信頼関係」を形成していることが前提となります。
通常、このような質問をする前には下記のようなtransition「前振り」をすることが理想的です。
“I appreciate your openness in sharing how you’ve been feeling. It’s important for me to understand all aspects of your health, including your safety.”
「最近どのような気分だったのか、詳しく教えてくださりありがとうございます。医師としては患者さんの安全も含めて患者さんのことを様々な側面から知っておく必要があります」
英語のsuicideという単語は、日本語の「自殺・自死」と同様にかなり強い印象を与える言葉です。もちろんそれを使って“Have you ever had any thoughts of suicide?”のように質問しても良いのですが、この表現に抵抗を感じる場合にはharm oneself「自分自身を傷つける」という表現がお勧めです。この表現を使うと“Have you ever had any thoughts of harming yourself?”「ご自身を傷つけようと思ったことはありませんか?」のように質問することが可能となります。
もちろんこのように直接的に尋ねるのも良いのですが、suicidal thoughtのような繊細な内容を尋ねる際には「2段階で尋ねる」という方法をお勧めします。具体的にはまず“Sometimes when people feel overwhelmed, they might think about harming themselves.”「いろいろなことが起きて手に負えなくなると感じると、自分自身を傷つけようと考える人もいます」と述べます。そしてそれに続いて“Has this happened to you?”「そのように考えたことはありませんか?」と尋ねるのです。
この「2段階で尋ねる」という型はsuicidal thoughtだけでなく、ほかにも様々な繊細な症状の有無を尋ねる際にも応用できます。例えばfibroids「子宮筋腫」の患者さんにdyspareunia「性交時痛」の有無を尋ねたい場合には“Sometimes patients with fibroids experience pain during sexual intercourse. Has this happened to you?”と尋ねられますし、diabetes mellitus 「糖尿病」の患者さんにerectile dysfunction「勃起不全」の有無を尋ねたい場合には“Sometimes, patients with diabetes experience difficulties with sexual function, such as trouble with erections. Has this happened to you?”と尋ねられます。様々な繊細な症状の有無を尋ねる際に応用できる便利な型ですので、皆さんの診療の中でも使ってみてくださいね。