ドクターサロン

齊藤

「食事療法」は、まず、食事の総エネルギー摂取量を決めるということになりますか。

藤岡

そうですね。いろいろな情報が氾濫していますが、基本的にはその人の生活環境に合った総エネルギー摂取量をある程度守っていただくことが大前提になります。

齊藤

日本人と外国の人とでは違うのですか。

藤岡

体格の差がありますが、それよりは年齢による日常の運動量が関係しますので、適切な体重の幅を考えて生活に合わせた摂取量を個々で考えていかざるをえません。

齊藤

脂肪、炭水化物と分けていくのですね。具体的にはどうなるのでしょうか。

藤岡

伝統的な日本人の食事の習慣から考えると、例えば地中海食のように脂肪エネルギー比率を40%以上摂るというのはなかなか難しく、「日本人の食事摂取基準(2020版)」では20~30%の脂肪エネルギー比率になっています。ただし、動脈硬化性疾患予防を考えると、例えば高脂血症の方ならば20~25%を守っていただくのが一番妥当ではないかと考えています。ブドウ糖、果糖を含めた炭水化物についても、中性脂肪を上げやすいので、やはり肥満、中性脂肪が高い方、あるいは糖尿病の方などは、やや炭水化物を減らして50~60%の間にしていただくのがコツと考えています。

齊藤

まず脂肪関係では、飽和脂肪酸がターゲットになりますか。

藤岡

そうですね。LDLコレステロールを上げる脂肪酸については昔からよく研究されています。エネルギー源ですので、大事な要素なのは間違いないのですが、20世紀末までは日本も含めてだいたい10%未満のエネルギー比率でした。最近は、統計的な有意差を重視して7%未満が各国の一致した意見です。ただ、これが大きく減るとエネルギー源として困りますので、だいたい7%を下回る程度で守っていただくのが一番良いと考えています。

齊藤

具体的には、脂身の少ない肉などを摂っていく、ということになりますか。

藤岡

はい。飽和脂肪酸は肉の中でも特に脂身に含まれています。それからココナッツオイルのような植物性脂肪あるいは乳製品にも多く含まれています。また低脂肪にするには、ナッツは過剰に摂らないようにする、肉でもできるだけ脂身の少ないものを摂ることがポイントになります。

齊藤

それに加えて、不飽和脂肪酸もありますね。

藤岡

体の中で飽和脂肪酸は一価不飽和脂肪酸、いわゆるオレイン酸になっていくのですが、肉、魚、乳製品などいろいろな食品に一価不飽和脂肪酸、特にオレイン酸が入っていますので、そればかりを過剰に摂る必要はありません。全体でいけば飽和脂肪酸をやや上回る程度、数値にするとエネルギー比率12%までにしていただくのが理想だと考えています。残念ながらたくさん摂っても病気を減らすというエビデンスはありませんので、あくまでも飽和脂肪酸に偏らず一価不飽和脂肪酸も、あとでお話しする多価不飽和脂肪酸も、バランスよく摂っていただきたいと考えています。

齊藤

具体的には、どういった摂り方になりますか。

藤岡

肉、魚をバランスよく日本食パターンで摂っていただくと、余分に使えるオリーブオイルとしてだいたい小さじ一杯5㏄ぐらいの量で十分足ります。多くてもせいぜい大匙一杯ぐらい、カロリーに直すと約108kcalになりますが、それぐらいの量を使ったり、つけて食べたりする料理が、特にオリーブオイルとかオレイン酸には適切ではないかと考えています。

齊藤

多価不飽和脂肪酸はエヌサンと読むのでしょうか。

藤岡

はい、n-3系ですね。オメガ3といわれる方もいますが、正確にはn-3系の方が多いです。魚の油、あるいはα-リノレン酸、エゴマなどの油にも含まれています。中性脂肪を下げる効果があるのですが、残念ながらかなり高濃度に摂る必要があり、疾患を抑えるためには2g/日以上というデータがあります。また、それより少ない量では各国のいろいろなデータでもコンセンサスを得られていません。サプリメントや薬品も使っていただくことになりますが、あくまでも肉などの飽和脂肪酸が過剰にならないようにできるだけ魚料理を摂っていただくのが現実的だと考えています。

齊藤

それから、n-3の次にn-6もあるのですか。

藤岡

はい、植物油に多い、いわゆるリノール酸です。同じようにリノール酸n-6系をたくさん摂って病気が減るということはないのですが、先ほど申し上げました飽和脂肪酸との置き換え、特にリノール酸を中心とした食物油をうまく使っていただくことでメリットがあると考えています。

齊藤

それからトランス脂肪酸はどうなのでしょう。

藤岡

植物油でも、いろいろな熱加工、あるいは精製油、あるいは乳製品や反芻動物の肉に多く含まれており、これがお菓子などいろいろな調理に使われています。日本の今のデータではそんなにたくさんのエネルギー比率ではないのですが、欧米ではだいぶ基準を強くしています。今のところ日本での基準はないのですが、我々としては、できるだけ控えていただく、やはり加工品のお菓子や揚げ物を過剰に摂ることは避けていただきたいです。乳製品がどれだけ悪いのかは、なかなか難しいところですが、ローファット、ノンファットの乳製品のほうが少なくなるのは当然ですので、その辺を考慮していろいろな食事を楽しんでいただきたいと思います。

齊藤

少し話が飛びますが、ニワトリの卵のことでいろいろ話題になりますね。

藤岡

はい。各国と比べて日本の卵は生卵でも食べられるぐらい安全で安価です。卵の黄身はコレステロールが220㎎ぐらいあり、皆さんが召し上がるお肉のだいたい5~10倍あります。少なくともLDLコレステロールが高い方は、1週間に1~3個が、アメリカの平均的な量です。日本人でも2~3日に1個ぐらいが適切ではないかと考えています。体でもコレステロールは作っていますが、食べるコレステロールが血液に影響するというのは、はっきりしています。体内での合成量よりは少ないとはいえ、やはり食事の影響はあります。なお、血中コレステロールの調節は主に肝臓でしているのですが、コレステロールは胆汁酸の原料でもあります。それから脂溶性ビタミンは人間にとって必須です。これを吸収するために胆汁酸は動いています。肝臓においてその原料としてコレステロールがたくさん使われますので、多元的に動いていると理解いただき、食べるコレステロールも非常に影響を及ぼすと知っていただきたいです。

齊藤

食物繊維を摂ると良いという話もありますがこれはいかがでしょうか。

藤岡

最近、各国でも食物繊維のメリットを示すデータがたくさん出ています。発がん抑制や虚血性心疾患、糖尿病の発症などを抑えるのは25~29g/日という考え方があり、「日本人の食事摂取基準(2020版)」でもその論文を採用しています。日本人の現状では多くて18g/日ぐらいですので、さらに増やすのはなかなか難しいですが、未精製の穀類、海藻類、野菜、きのこ、果物はカロリー過剰にならないように気をつけながら摂っていただきたいです。それから日本食中心の献立は非常に良いですね。これらをもう少しうまく使っていただければ、目標に近づけられるのではないかと考えています。

齊藤

最後に2つ、食塩とお酒ですが、この辺はいかがでしょうか。

藤岡

食塩は日本人にとって非常に大事な食品で、その制限はなかなか難しいです。一応6g/日未満という目標を掲げていますが、あくまでも先ほどの飽和脂肪酸と同じように統計的に有意なものというかたちで採用しています。まずは第一ステップとして7~8g/日ぐらいを目指していただきたいのですが、あまり減らしますと低ナトリウム血症、意欲低下、食欲低下にもなります。特に高齢の方では食塩の設定は難しいですが、やはり過剰摂取にならないよう注意していただきたいと思います。それからお酒は難しいところがあるのですが、血圧、あるいは脳出血、がんは右肩上がりで増えるので、かつてはやはり少ないほうがいいとされていました。1合ぐらいのアルコール摂取が心筋梗塞や脳梗塞を減らすのではないかというデータも昔からあるのですが、最近のメンデルランダム化解析といった、できるだけ交絡因子を減らすという統計手法が導入されますと、1合のメリットがなくなってきておりまして、むしろできるだけ控えましょう、とされています。とりあえずこれまでの25g/日以下で大きな問題はないと思うのですが、たくさん摂取することはやめていただきたい。それから追加ですけれど、ビンジ飲酒というのが最近出てきていて、普段はあまり飲まないけれども、時々過剰に飲むという方が心筋梗塞の増加につながっていますので、やはり過剰摂取は控えていただきたいと考えています。

齊藤

ありがとうございました。