ドクターサロン

山内

安藤先生、まず、CAR-T細胞療法の概要を教えていただけますか。

安藤

はい。CAR-T細胞は遺伝子治療です。現在、日本で使えるのは、患者さん自身のT細胞を取り出して、CARという人工的に作られた遺伝子が腫瘍抗原を見つけて、強烈に反応したT細胞が殺細胞タンパクを放出する。それによって、腫瘍をやっつけるという仕組みです。この人工的な遺伝子CARをT細胞に組み込むことでCAR-T細胞となって、そのCAR-T細胞を増やして患者さんに戻すという治療です。

山内

T細胞を非常に強力にして戻すのですね。

安藤

はい。

山内

適用は血液系の病気、白血病等から始まったのでしょうか。

安藤

はい、そうです。血液の腫瘍は、たいへん治療が効きやすく、抗がん剤治療も効きやすいし、開発が進みやすいので、血液の腫瘍が最初にCART細胞療法の承認をされたと思います。現在、日本では、血液腫瘍の中でもB細胞性の急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、そして最近は多発性骨髄腫に対するCAR-T細胞療法も、実臨床の場で使えるようになっています。

山内

これは、おのおのに対して、先ほどのCARが作られていると理解してよいでしょうか。

安藤

そうです。患者さんのT細胞を、アフェレーシスといって機械で取り出して、病院の施設内でパッキング、凍結して(凍結しない製剤もあります)海外の工場に送ります。海外の工場で、ウイルスベクターで人工遺伝子CARをT細胞に遺伝子導入して増やし、日本で凍結されたCAR-T細胞を溶かして患者さんに投与します。

山内

1回投与で有効なのですね。

安藤

現時点では1回投与です。投与されたCAR-T細胞はずっと患者さんの体内に残ることもありますので、そういった効果が望めます。

山内

治療の適用の条件がなかなか厳しい感じがしますが、いかがでしょうか。

安藤

実際にはいろいろな患者さんが適用になっていますので、厳しいというほどでもないのですが、再発難治性のリンパ腫、再発難治性の白血病、そして再発難治性の多発性骨髄腫が現在適用になっています。

山内

第一選択で使うよりも、再発難治性に使うほうがいい理由があるのでしょうか。

安藤

はい。臨床試験で、最初に使うのと、あとで使うのを比較しているような試験もありますが、現時点では、やはり最初は標準治療の抗がん剤治療を行って、移植ができる人は移植治療して、それでも再発した方が適用になっています。それはあくまでも、国際的な臨床試験でそういう方を対象に効果と安全性を確認できたからですが、今後、初発の方、診断されたばかりの方にも使われていくという可能性も十分にあると思います。

山内

標準治療を先行するというのは、保険医療も関係するのでしょうか。

安藤

そうですね。やはり日本の場合は、特に保険医療になっているので、高額なCAR-T細胞療法がリンパ腫の患者さん全員に使えるわけではないと思います。そういった意味で、現在は移植ができない方、そして再発難治性の方に適用が通っているという意味合いもあると思います。

山内

ただし、例えば標準治療にしろ移植にしろ、いろいろなステップを踏むとけっこう医療費もかかってしまうわけですから、本当はできれば最初に使えれば良いというところもありますね。

安藤

例えばリンパ腫の方などでは、病型によっては標準治療で治る方が7割ほどいますし、無治療でもいいような病型の方もいるので、そういう方には最初からCAR-T細胞療法を使う必要はないのですが、多発性骨髄腫のようにずっと抗がん剤治療を繰り返すような病気の場合は、CAR-T細胞療法で寛解が続けば治療を中断できるという、すごく大きなメリットもあります。どちらの医療費がトータルで高いのかは、やはりわからないと思いますので、今後の課題になると思います。

山内

ちなみに現時点でどのぐらいの費用がかかるものなのでしょうか。

安藤

現時点では3,000万円を超えるぐらいになっておりますので、非常に高額ですが、幸い日本には保険医療制度と高額療養費制度があるので、患者さんも、ほかに治療法のない再発難治性の場合は多くの方が希望されて受けることができます。

山内

現時点で判明している治療効果、臨床試験成績はいかがですか。

安藤

白血病の方にとっては、小さいお子さんで難治性の染色体異常があるような方、標準治療で再発してしまった場合に今までは治療の手立てがなかったのですが、このような白血病の方も一度は9割が寛解に入るということが、3つぐらいの大きなグループの国際的な臨床試験で成績が出ています。もしも再発したとしても、いったん寛解に入ることで、その間にまた移植ができるようになって助かったというお子さんもいますし、その1回のCAR-T細胞療法で寛解を維持できるというお子さんもいますので、これは非常に大きなことではないかと思っています。

山内

素晴らしいですね。

安藤

本当に素晴らしいと思います。

山内

先ほど出ました多発性骨髄腫の場合は、延々と治療を続けていくことになるので、患者さんのQOLも損なわれますね。

安藤

そうですね。多発性骨髄腫も悪性リンパ腫もずっと治療していた患者さんがCAR-T細胞療法を経て退院して、自宅で過ごされたり仕事に復帰したりするのは、やはり患者さんもすごく喜びますので、QOLの向上につながっていると感じています。

山内

ちなみに、90%有効という成績ですが、これはファーストチョイスで使った場合でしょうか、それも先ほどの難治再発例でということでしょうか。

安藤

再発難治性の白血病の場合は、9割以上の寛解を得ることができます。その後の再発もありますが、いったん9割以上が寛解に入るので、その間にまた治療を立て直すことが可能です。再発難治性のリンパ腫の場合は、製剤にもよりますが4~6割ぐらいで寛解が得られて、そういった患者さんの多くが持続寛解を得られるので、これもとても有望な治療だと思っています。

山内

非常に期待できる治療法だということですが、一部やはり副作用の問題もあるのでしょうね。

安藤

そうですね。副作用はほぼ必発と考えていて、患者さんにも必ず副作用のことはお話ししてから同意を得るようにしています。サイトカイン放出症候群という特徴的な副作用があり、例えば治療が月曜日だとすると、水曜日夜ぐらいから39~40度ぐらいの高熱が出る方が8~9割ほどいます。中には血圧低下が起きたり、酸素濃度が下がったり、喉頭浮腫で非常に気道が狭くなって緊急の処置を要したりするようなこともあり、集中治療室に行くような方もいらっしゃいます。サイトカイン放出症候群がすごく激しい場合に神経症状も起こることがあり、ちょっと手が震えて字が書けなくなるとか、ひどいケースだと痙攣を起こすといった特徴的な副作用が出ることがあります。

山内

ただ多くの方は、そこまでいかないと考えてよいのですか。

安藤

そうですね。神経症状が起こる方は2割ぐらいだと思いますが、サイトカイン放出症候群の重症度は軽症から重症まであり、8割ぐらいの方には起きていると思います。

山内

重症の方がその一部に出てくるのですね。

安藤

はい。ただ、2週間がピークで、製剤にもよりますが、2週間を超えるとほとんどの方がリハビリして退院できるようなかたちになります。

山内

最後に今後の展望ですが、これは固形がんに対しては効かないのでしょうか。

安藤

私たちを含め世界中の研究者がCAR-T細胞療法をなんとか固形がんに応用できるようにという目標を持ち、実際に米国では臨床試験も行われています。固形がんにおいては、腫瘍微小環境により腫瘍にCAR-T細胞を届けることがより難しくなります。リンパ腫や多発性骨髄腫にももちろんありますが、さらに固形がんにおいては、腫瘍微小環境にがんが守られて、増殖して生存していく力が強いのです。その腫瘍微小環境を克服するために開発されたのがCAR-T細胞療法ですが、それを克服するのは、やはりなかなか難しいものがあり、改良に改良を重ねているのが、現在の開発状況です。

山内

道筋があるようで、非常に期待できますね。ありがとうございました。