ドクターサロン

池田

マールブルグ病とは聞き慣れない病気ですが、これはどのような疾患なのでしょうか。

髙田

これはエボラ出血熱を起こすウイルスと同じ仲間のウイルスによる感染症なので、マールブルグウイルスは出血熱ウイルスに分類されています。感染症法でも、このウイルスによる疾病は1類感染症、ウイルスは1種病原体ということで、病原性が非常に高い、出血熱を起こす病原体です。症状として、ひどいときには出血熱で致死率が30~90%ぐらいで、ウイルスの種類、治療の状態にも左右されますが、ウイルス性出血の中では、エボラウイルスとマールブルグウイルスによる出血熱が一番高いです。

池田

では、エボラ出血熱と同じように非常に高い発熱が起こって、消化管などいろいろなところから出血するのでしょうか。

髙田

はい。要するに、血液の溶けると固まるのバランスが崩れて、いわゆるDICが起こってしまい、出血傾向に陥り、粘膜からの出血、注射痕からの出血が止まらない等が起こります。粘膜から出血しますから嘔吐物や糞便の中に血液が混ざり、その中の大量のウイルスが感染源になるのです。

池田

宿主はわかっているのでしょうか。

髙田

マールブルグウイルスの宿主を、私たちは自然宿主と呼んでいるのですが、一応、コウモリだと考えられています。果物を食べるコウモリで、いわゆるフルーツバットの一種でエジプトルーセットオオコウモリという洞窟の中に住んでいる珍しいフルーツバットです。洞窟の中に住んでいるコウモリはほとんどが虫を食べるコウモリなのですが、エジプトルーセットオオコウモリは洞窟の中に住んでいる珍しいフルーツバットです。そのコウモリがこのウイルスを持っていて、それがたまに直接または野生動物を介して人に感染して流行を起こすことがわかっています。

池田

間接的ですと、そのウイルスが何らかのかたちでコウモリから動物にうつって、そして動物から人間に行くのですね。

髙田

そうですね。間接的な例でわかりやすいのはサルです。野生のサルもこのウイルスに対して非常に感受性が高いので、サルを介して人にうつります。もともと、マールブルグウイルスは1967年に見つかったウイルスですが、アフリカで感染者が発生したのではありません。当時、アフリカからドイツと旧ユーゴスラビアに実験用としてウガンダから輸入していたサルがウイルスを持っていて、それが人に感染したというのが、1967年に最初に起きた例です。

池田

コウモリから直接感染するという場合は、例えば、コウモリに噛まれるなどなのでしょうか。

髙田

そうですね。コウモリに噛まれることもあるでしょう。初めのころからアフリカで散発的に出ていて、例えばコウモリが住んでいる洞窟、金鉱山、その鉱山の坑道に入った人、その坑道で働いている人に発生していました。つまりまだ、コウモリがウイルスを持っているというのはわからなかったころです。なので、洞窟の中に住んでいる何らかの動物がウイルスを持っているといわれていました。その人たちが直接噛まれた可能性もありますが、観光で洞窟の中に入った人も感染しているので、たぶん、噛まれていなくても糞や尿、何らかの分泌、唾液などを触った、吸い込んだことで感染したのだと思います。

池田

では、コウモリが排出する何かも感染源になるのですね。

髙田

そうだと思います。でも、実際は本当にそんなに大量のウイルスを排出しているかというと、今のところそういう証拠はなくて謎なところではあります。

池田

それで人に感染して、今度は人から人にうつるというのは、どういうシーンになるのでしょうか。例えば手当てをするだけ、あるいは、どこかに付いた体液を吸い込む、手に付いたものが口に入るなど、どのようなかたちの伝播を考えているのでしょうか。

髙田

人から人への伝播は、エボラウイルスもマールブルグウイルスも同じで、いわゆる直接的な接触です。何と接触するかというと、患者さんの血液や粘液などから出たウイルスを直接触った手に小さな傷があったりしたら、そこから入ってきますし、触った手で粘膜、つまり目や口などを触ったときに、そこから入ってきます。あと汚染されたシーツ、防護服やグローブ、嘔吐物等が感染源となっています。ただ、コロナウイルスみたいに咳など呼吸器感染を主徴とする病気ではないので、空気やエアロゾルを介して、どんどん感染することはできないです。基本的に直接汚染された物に接触したときに感染のリスクが出るのです。

池田

1967年にサルからうつったという事例もあるのでしょうけれど、どの国でどのくらい流行ったという情報はあるのでしょうか。

髙田

わかっている限り、つまり報告されている限りということですが、さっきのドイツの例は最初にマールブルグ病が見つかった例です。ドイツで発症したのでドイツ人の研究者に感染して、そこでマールブルグウイルスが見つかりました。それが1967年です。そのあと散発的にアフリカのいろいろな国、例えばケニア、コンゴ民主共和国、アンゴラ、ウガンダ、ガーナ、それからギニアで発生しました。一番最近の例は赤道ギニアとタンザニアです。2023年に終息宣言が出ましたが、そういった国々で散発的に流行しています。

池田

エボラ出血熱と似たような感じのところですね。

髙田

そうですね。ほとんど一緒です。発生地域はかなりオーバーラップをしていますが、少しずれている感じはあります。ただ、エボラウイルスの自然宿主は、たぶんさっき話したエジプトルーセットオオコウモリではありません。自然宿主動物の分布と、人での発生の分布は一致するはずなのですが、エボラウイルスとマールブルグウイルスでは少し違うかもしれません。

池田

治療法はあるのでしょうか。

髙田

マールブルグ病に対して承認された治療法は、今のところ存在していません。コロナで聞いたことがあると思うレムデシビル、それからファビピラビルというものが動物実験ではある程度効いているので、そういう薬も感染初期に投与すれば、ある程度の効果が見込めるのではないかと思います。ただ、承認されていません。それから実験的な話でいうと、今、エボラウイルスに対する薬として、抗体医薬が使われているのですけれど、その抗体医薬もマールブルグウイルスに対する抗体を開発すれば、おそらく効くと思います。ワクチンも、エボラ出血熱に対するワクチンではアメリカのFDAで承認されているものがあるのですが、それと同じ方法でマールブルグウイルスに対しても作ることが可能で、それも実験的には作られていて、サルの実験ではしっかり効果があると確認されています。マールブルグ病が発生したときに、何らかのかたちで臨床試験を行えば、承認されるようなものができると思います。ただ、今のところはまだありません。

池田

特にメッセンジャーRNAのワクチンの技術ですね。新型コロナウイルスに対するものですごく有名になりましたが、そのエボラウイルスワクチンというのは、どのように作られているのでしょうか。

髙田

エボラウイルスのワクチンは組み換えウイルスを使ったワクチンですが、人に病原性をほとんど示さないようなウイルスの遺伝子の中にエボラウイルスなり、マールブルグウイルスの遺伝子の一部を組み込んで、それに対する免疫応答を誘導するというワクチンです。メッセンジャーRNAワクチンもそうですが、細胞性免疫と抗体と両方誘導できるワクチンとなっていて、これがけっこう重要みたいです。それから、いわゆる自然免疫応答の誘導も非常に強いワクチンとなっています。ちなみに、今、エボラウイルスで承認されているワクチンには、VSV、日本語では水疱性口内炎ウイルスという動物のウイルスを使っています。動物のウイルスの遺伝子の一部をエボラウイルスのものに取り替えるというワクチンです。それが非常によく効くワクチンとして、今、エボラウイルスでは承認されています。

池田

エボラウイルスで承認されたようなワクチン開発の臨床試験はどのようなイメージでしょうか。例えば、どこで流行が始まるかわからない。その場合、そのワクチンの有効性を証明するためには、どのような方々が対象になるのでしょうか。

髙田

これはエボラ出血熱のときもそうだったのですが、発生したときではないと試験ができないのです。いつどこで発生するかというのも全然わからない。ずっと流行しているわけではなくて、アウトブレイクが起きたらそのときに、大きいときで100人、200人で、最も大きかったのは、西アフリカで起きたときの30,000人ぐらい感染していたときですね。その次に多かったのが、コンゴ民主共和国で3,000人ぐらい発生したときなのですが、そういう大流行したときにしか臨床試験が行われないのです。発生したときに、まずはその医療従事者と感染した患者さんの周りの人たちから打っていくリングワクチネーションという方法で臨床試験が行われて、ワクチンを打った人と打っていない人で感染率に差があるかどうか、そういう詳細な統計的な解析をして効果を判定していくことになります。

池田

なるほど。では、いつもどこで流行が発生したかとアンテナをよく張っておいて、そこに一気に持っていってワクチンの効果を検証するという、すごく機動的な感じですね。

髙田

そうですね。だから、臨床試験の方法を少しフレキシブルに考えないといつまでたっても承認されるものはできないですね。この手の感染症はエボラ出血熱もマールブルグ病、ほかにも致死率の高い出血熱がありますが、ずっと流行しているわけではないので今までのやり方、承認プロセスのままだと治療薬は永久にできないという感じになります。

池田

なるほど。では、その新しいウイルスの開発と、それからレムデシビル等の薬が本当に有効かどうか、もう少し実験レベルで検討したうえで、患者さんに実際に投与していくかたちになるのでしょうか。

髙田

そうですね。実験レベルではその辺の薬はもう効果が示されているし、ほかの感染症に対して承認されているので、そういうものは日本では適用外のものになるのでしょうけれども、いざ発生したときには積極的に使っていったほうがいいと思います。

池田

ありがとうございました。