池田
胃粘膜下腫瘍で最も高頻度のものとはどのようなものでしょうか。
鍋島
GISTといわれる腫瘍です。GISTはGastrointestinal stromal tumorの略で、日本語では胃の間葉系腫瘍といいます。そのほかの良性の胃粘膜下腫瘍といわれるものには脂肪腫、異所性膵、腫瘍性のものであれば平滑筋腫、リンパ腫等があります。ごくまれで、広義の意味では、胃がんも時々、胃粘膜下腫瘍の形態を示すことがあるので注意が必要という症例報告もあります。
池田
胃がんの粘膜下腫瘍みたいに見えるのは少ないのですね。
鍋島
少ないです。最も多いのはGISTです。
池田
GISTというのはどのような由来の細胞なのでしょうか。
鍋島
もともとの由来はカハールの介在細胞といわれます。胃のペースメーカー細胞といわれるものの前駆細胞から発現するといわれています。
池田
胃のペースメーカー細胞とは何をしているのでしょうか。
鍋島
一般的には、胃の蠕動運動をつかさどるものといわれていて、胃の粘膜下層以深の消化管の筋層間の筋肉や神経の間にある細胞をカハール先生が見つけたといわれています。
池田
ペースメーカー細胞ということは、それが何か電気的なシグナルを起こして、周囲の神経や筋肉に蠕動を始めるための司令塔のようなものですか。
鍋島
そういう理解でよいと思います。
池田
GISTができる胃の部位は決まっているのでしょうか。
鍋島
頻度的には上部、特に穹窿部(fornix)や体上部に多くできるといわれていて、まさにペースメーカー細胞の分布の多い部分に高頻度で起こるといわれています。
池田
ペースメーカー細胞がおかしくなって腫瘍化するということですが、診断はどのようにされるのでしょうか。
鍋島
一般的には健診で見つかることが多くて、無症状の方が多いです。診断は、健診で胃粘膜下腫瘍などが見つかった場合、一般的には総合病院などの消化器内科医に超音波内視鏡検査を行っていただくと同時に、EUS-FNAといわれる超音波内視鏡的に穿刺をして細胞を取ったり、もしくは切開生検をしてもらいます。内視鏡治療用の針状メス等を使って粘膜の一部を切って、その切ったところからみかんの皮をむくように粘膜をめくり、腫瘍を直に生検してもらうことで、組織を取って診断をつけるというのが一般的な流れになります。
池田
一般的な消化器クリニックでは難しいということですが、健診で見つかるということは、バリウムなどでもわかるのでしょうか。
鍋島
はい。バリウムもしくは内視鏡で、ブリッジングホールドと表現される、粘膜が腫瘍をちょうどブリッジするような形態が見られると、胃粘膜下腫瘍と診断されます。
池田
ほかの良性も含めて胃粘膜下にできる腫瘍に何か病理的に特徴的な細胞が見えるのですか。
鍋島
一般的には、紡錘形細胞といわれるような細長いタイプの細胞が見られることが多くて、さらに、免疫染色でc-kitといわれているものが染まるとGISTという確定診断がつきます。
池田
では、KITが活性化されているということでしょうか。
鍋島
GIST自体はKIT遺伝子の変異によって起こります。特にエクソン11の遺伝子変異が有名で、その頻度は6~7割ぐらいといわれています。
池田
では、KIT変異によって起こることは、もうすでにわかっているということですね。
鍋島
そうなります。
池田
針生検みたいなものでやってもなかなかうまくいかないですよね。そのときにKITが染まれば、だいたい実相になりますか。
鍋島
そういうことになります。いかに組織をしっかり取ってもらえるかがポイントなのではないかと思います。
池田
難しそうですね。
鍋島
胃粘膜下腫瘍の中にはデレといわれる潰瘍形成を腫瘍のトップに伴っているものがあり、そういったものは腫瘍が一部露出しているので、一般的な内視鏡検査でも組織が取れて診断がつく場合もありますが、きれいに粘膜をかぶっていると通常の生検では難しいといわれています。
池田
この腫瘍は転移や浸潤、あるいはリンパ節転移などは起こらないのでしょうか。
鍋島
一般的な胃の腫瘍と違い、胃のGISTはリンパ節転移が少ないです。ですので、周りへの浸潤も起こりにくいといわれていて、比較的、我々外科医が手術で見ると、被膜を被るような形で、きれいに包まれているといいますか、いわゆるがんのように、周りの臓器に浸潤しているような所見は少ないのです。転移形式は、一般的には肝転移や腹膜転移、肺転移が多くあります。
池田
リンパ節転移が少ないということは、切除してしまえば、もうおしまいなのでしょうか。
鍋島
はい。先ほど申しましたように、リンパ節転移が少ないので、胃がんの術式と違って、GISTの術式は胃の局所切除でいいといわれています。
池田
では多少、遅く見つかっても切除してしまって、後は様子を見るということになるのでしょうか。
鍋島
以前は腹腔鏡下の胃局所切除が5㎝までであれば、行われることが多くありました。ただ、2022年に改訂されたGISTガイドラインでは、手慣れた医師であれば、5㎝を超えても丁寧に切除すれば、腹腔鏡手術が許容される記載に変わってきています。腹腔鏡手術の普及によって、今は5㎝を超えても安全に取れるような技術が発達してきていると理解してもらえばいいと思います。
池田
切り取ったGISTを、今度は病理で細かく見ていくのですが、あまり悪性でないものがほとんどなのでしょうか。
鍋島
GISTにはリスク分類というのがあり、腫瘍の大きさと病理検査で見た核分裂像によって高リスク、中リスク、低リスク、超低リスクの4段階に分けられます。特に注意しなければいけないのは再発の可能性の高い高リスク群で、術後にアジュバント治療としてイマチニブを3年間飲むことが推奨されています。
池田
これは、先ほどのc-kitの活性化、イマチニブでチロシンキナーゼ型の受容体を止めてしまうということですが、薬を使わないと再発してくるのですか。
鍋島
やはり再発率が高くなっています。3年間イマチニブを飲んだ患者さんと、1年間の患者さんを比べたところ、1年間よりも3年間飲んだ人のほうが予後も良く、再発も少なかったという有名なデータがあります(SSGXVIIIスタディ)。
池田
では、イマチニブを3年間飲めば、だいたい抑えられるということなのでしょうか。
鍋島
そういう理解でよいと思います。ただやはり、このデータの難しいところは3年間飲んだ後やめてしまうと、再発率が上がってしまうというデータもあることです。この辺りは非常に難しいところで、海外ではやはり3年間でやめる医師が多かったり、そこでやめなければいけないという国もあるのですが、日本は主治医の判断でそのまま飲ませているような事例もあると聞いています。
池田
今の話は慢性骨髄性白血病の内服と似たようなところがありますよね。
鍋島
イマチニブ自体がもともとの開発が白血病薬だったので、似たところがあるのかと思います。
池田
最近はPCR等やフィラデルフィア染色体の再活性を見ながら、けっこう積極的にやめていることが多いですね。将来的には、GISTに対するイマチニブもそうなるのかもしれませんが、再発が局所なのでなかなか難しいですね。
鍋島
バイオマーカーなどの判断材料があるといいのですが、GISTの場合はなかなか難しいと思います。
池田
高リスク型はイマチニブの内服ですが、中低あるいは超低リスクの場合はどのようにフォローアップするのですか。
鍋島
6カ月から1年ごとの画像検査、CT検査のフォローアップでいいといわれています。
池田
CT検査でいいのですね。内視鏡は行わないのですか。
鍋島
GISTが胃の中に再発することは、ほとんどありませんので、内視鏡のフォローアップは特にガイドラインでは推奨されていません。
池田
やはり、胃粘膜下に再発するというイメージなのでしょうか。
鍋島
再発の場所は、一般的には肝臓もしくは腹膜です。他臓器転移、他臓器再発になります。
池田
その場合は転移という考え方なのでしょうか。
鍋島
そうなります。
池田
では、もともと切り取ったところにGISTの細胞はもうなくて、経過中、あるいは、ほかにすでに転移していたものが明らかになってくるというイメージなのでしょうか。
鍋島
はい。異時性に再発してくる、転移してくるというイメージです。
池田
もともとのGISTはそんなに悪性が高く見えなくても、すでに悪性のものは、ほかにいってしまっている可能性があるのですね。
鍋島
そういうことになりますね。
池田
やはりイマチニブの内服を途中でやめるのは、なかなか難しい判断ですね。
鍋島
はい、ここはまだ答えられないところです。
池田
では、ほかの臓器でまた大きくなってきたのが見えたときに、イマチニブを飲むのは大丈夫なのですか。
鍋島
はい。転移再発に対するGISTの治療の第一選択はイマチニブになるので、まずはイマチニブを飲んでいただければ、腫瘍の縮小効果もしくは転移再発に対する治療はかなり効果が高いと思います。
池田
ほかにも、チロシンキナーゼの阻害薬が出てきていますね。それも今、適応になっているのでしょうか。
鍋島
はい。現在イマチニブを含めて4種類の薬があり、4次治療までは可能になっています。2次治療は、スニチニブ、3次治療はレゴラフェニブ、4次治療はHSP90阻害剤というところまで開発が進んでいて、一般診療で使えるようになっています。
池田
白血病に準じて、どんどん適応が広がってきているイメージですね。
鍋島
はい、そういうイメージでよいと思います。
池田
ありがとうございました。