ドクターサロン

 多田 2022年に日本動脈硬化学会から動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版が発表されました。杏林シンポジアでは、日本動脈硬化学会の協力を得て、このガイドラインの周知を図っています。治療法の効果を出すライフスタイルチェンジについて全体的な概要をお話しいただき、食事療法、運動療法については、別途機会を設けています。吉田先生はこのガイドライン作成の総括委員の一人でもあり、今回は生活習慣の改善の位置づけと禁煙・禁酒のあり方、肥満対策を中心にお話ししていただきます。
さて、生活習慣は地域性も大きいと思いますが、まず総括的なポイントとどのような生活習慣を選択し、どう評価すればいいかを教えていただけますか。
 吉田 生活習慣が脂質異常症や動脈硬化の病気のリスクに結びついていることは、様々なエビデンスから確認されているのですが、とりわけメタボリックシンドロームのような内臓に脂肪が蓄積している状況は、いろいろな代謝異常や高血圧などに影響を及ぼす基本的な病態であると考えられています。そうした意味では体重を適正に管理していることが、まず基本線として求められているところですが、よく間違えられるのがBMIで25未満に必ず持っていこうとすることです。必ずしもそうではない場合もあるので、その辺を気をつけなければいけないといわれています。とりわけ、短期間に体重を落とそうとすると、様々な有害なことが起きてきますし長続きもできません。3カ月ないし、半年のインターバルでしっかりと適正な体重に管理していくことが大事だと思います。
 多田 実際にはどこに注目して、目安を決めればよいでしょうか。
 吉田 私たちが体重管理する場合は、体重だけでなくウエスト周囲長も目安にします。それらが3~6%ほど減少するのをだいたい半年間で獲得していくような取り組みが必要だと思います。そのためにはやはり基本的な方法として食事療法と運動療法、運動療法とまでいかなくても、身体活動を維持することが大切になってくると思います。
 多田 身体活動の維持は非常に大事ですが、どういうところに気を配ればよいとお考えでしょうか。
 吉田 よく間違えられるのが、何かの栄養素がとてもいいからとそれにあまりにも固執して取り組んでしまうことです。やはり情報過多の時代ですからそうではなくて、基本的なことはまず全体的な摂取エネルギーを適正にすることです。その際にどのくらいの体重であるべきなのかということが重要になってきます。以前は、標準体重を求めるにあたり、BMI 22というのが基本になっていた時代もありますが、現在は日本人の食事摂取基準の中にも示されているように、その範囲は20~24.9ぐらいに考えられています。特に高齢者の場合は、それを厳しくすると、フレイル、サルコペニアにも影響してくるので、BMIのなかで適正体重というのが以前とは違う考え方をする必要があることを留意して、それに基づき、適正な食事エネルギー量というのを決めていく必要がある。これを忘れてはならないと思います。
 多田 おっしゃるように固執しすぎると、とにかく食べる量を減らせばいいということばかり考えてしまうことになりますが、とりわけどういうことに注意すればいいでしょうか。
 吉田 やはり三大栄養素といって炭水化物・糖質系、脂質、たんぱく質と大きく3つがありますが、原則としては炭水化物を50~60%ぐらいのエネルギー割合にしたほうがいいといわれています。昨今少し問題になってきているのが、低糖質に偏った食事があまり行き過ぎると、様々な弊害を受けることです。そうすることで脂質を多く摂ってしまい、かえって代謝を悪くしてしまうこともあります。新しいエビデンス、治験によりますと、糖質の場合50%を切る、あるいは65%を超える場合が、動脈硬化の病気や代謝異常に影響してしまうことが確認されています。それに基づき今回の動脈硬化性疾患予防ガイドラインにおいても、炭水化物は50~60%ぐらいのパーセントエネルギーにしましょうと整理しています。ここは大切なところなので、しっかりと取り組んでいただきたいと思います。
 多田 そのとおりですね。そこで、サプリメントに頼る方もいらっしゃるのですが、そのあたりはどのように考えればよいでしょうか。
 吉田 基本的に普通の食事から栄養素を摂るのが自然の方法ですし、それが求められると思いますが、しっかりとした食事が摂れない場面というのは、いろいろな生活の背景の中で起こりうることだと思います。その際は、必要に応じてサプリメントを活用するという方法もあると思います。例えば、諸外国では、n-3系脂肪酸をサプリメントで摂られていることもけっこうありますが、わが国は、幸いなことに魚食が普通に摂れる民族ですので、しっかりとした食事の中でn-3系脂肪酸を摂っていくことができると思います。ただ、先ほど申しましたように、食生活の中で一定の何かの困難があった場合等も含めて、あるいは少し足しておいたほうがいいということがあれば、サプリメントを活用するという程度のことは取り入れてもいいと思います。それでも基本は普通の食事の中でしっかりと適正なエネルギーと栄養素を摂っていくことが大切になると考えます。
 多田 禁煙についてはどのようにアプローチするといいでしょうか。禁煙が絶対に必要なことは間違いないのですが。
 吉田 禁煙については、本当に1本でも吸ってはならないぐらいの感じで思っておいたほうがいいと思います。ただ一方で、最近はいわゆる紙巻タバコだけではなく、電子タバコなどの新しいタイプの喫煙スタイルが出てきていますが、動脈硬化性疾患予防ガイドラインの中でも、電子タバコなども十分な注意が必要であることを示しています。その辺りをしっかり留意して、いろいろな生活習慣の指導に役立てていただきたいと思っています。
 多田 では、飲酒はどのように捉えていけばいいのでしょうか。
 吉田 これも生活習慣の中で、もう一つ大事な柱である飲酒、アルコールの摂取ですが、これまでのガイドラインも今回も、1日25g以下にしましょうとしています。大瓶だったらビール1本というサイズになるかと思います。それ以下であれば一定程度の脂質異常症や動脈硬化の病気を予防できると考えられているのですが、最近のデータによりますと、全く飲まない人よりも少し飲んだほうが動脈硬化の病気が少ない、という成績とは違って、やはりお酒はできるだけ飲まないほうが動脈硬化のリスクは低いというデータも出始めております。ちょっと飲んだほうがいいかなと思って、飲めない方が慌てて飲むことは全く必要はなく、飲まなければそれだけのリスクは伴ってこないという考え方でいいと思います。最近いろいろとそういった成績が出始めていますので、その辺りに注意しながら取り組んでいただければと思っています。
 多田 それでは、最後に肥満対策の位置づけについて教えてください。
 吉田 やはり肥満の対策では、食事療法、そして運動療法が大事だと思います。運動療法も日々行うことができればいいのですが、なかなか毎日運動するのは難しいので、その場合は普段の生活の中で身体活動を高める工夫が大事かと思います。例えば、目的地の1つ前の駅で降りて歩いて行くとか、座りながらでもできる簡単なエクササイズに取り組んでみるとか、コロナ禍で在宅勤務が多くなった中で、なかなか身体活動が整わない方が多かったと思いますが、そうしたちょっとした工夫が効果的な対策にもなります。食事については、先ほども申し上げていますようにしっかりと適正なエネルギーを考えて摂る。一方で、やはり寝る前ギリギリになって食事を摂るのは、悪影響を及ぼしますので、なるべく食事を摂って数時間ぐらい経ってからお休みになるといった工夫は必要だと思います。
 多田 どうもありがとうございました。