池田
クラインフェルター症候群についてホルモン補充療法も含めた質問です。クラインフェルター症候群はどのような疾患でどのくらいの人が罹患しているのでしょうか。
後藤
クラインフェルター症候群は、教科書等でも有名だと思いますが、実際、拝見された医師は少ないかもしれません。これは核型でいうと47XXY、つまりX染色体が重複していることが初めに報告されました。それによって、性腺自体が早期に機能低下していくというような病態がその本態です。つまり、性腺が原発にあるので原発性性腺機能低下症という病態が医学上の正式な考えになると思いますが、実は頻度が高いことがわかっています。欧米での網羅的なスクリーニングでは、新生男児で10万人当たり150人程度はクラインフェルター症候群であったという報告があります。頻度は非常に高いのに、実際に遭遇しないのはなぜかというと、典型的なものは全細胞自体がすべて47XXYなのですが、例えば核型が亜型であったり、モザイクといって細胞、いわゆる人体の中である一部分だけは核型が47XXYであるけれども、それ以外の大部分に関しては正常な核型である現象では非常に症状が弱い、特に臨床症状がないために、医療機関を受診しない方も多くいることが知られています。実際、クラインフェルター症候群と定義される方の中で、生涯で医療機関を受診したり、治療を受ける方は報告によって少しズレはありますが、10~40%にすぎないという報告もあります。クラインフェルター症候群というのは、非常に頻度の高い疾患ではあるものの、見つけづらいのです。
池田
特にモザイクの方は、症状自体も典型的ではないのですね。
後藤
はい。
池田
では、典型例というのはどのような症状なのでしょうか。
後藤
原発性性腺機能低下症がクラインフェルター症候群の本態なので、精巣の機能、特に精巣から出ている代表的なホルモンである男性ホルモンが低下していくのが、この病気の本態です。ですから、臨床症状は男性ホルモンの低下症状がメインになります。そして、クラインフェルター症候群の病態がいつから出現しているかというところも、この各症例によって病態が異なっている原因といわれています。例えば、幼少期や思春期以前に男性ホルモン低下が出てきてしまう場合には、適切な第二次性徴が出てこないことから、例えば性器の成熟が遅延してしまうというような不具合が出て、病院で診断を受けることになります。一方で、成人期以降にテストステロン低下の現象が顕在化してきた場合は、いったん第二次性徴自体は正常に起こって、男性機能の確立もできていますが、ある一定の時期から、男性機能が低下していく。具体的な症状でいえば、男性化の大きな表現系の一つである恥毛や腋毛が脱落してしまうという不具合が出てくることによって、医療機関を受診して診断に至ることがあります。さらに、クラインフェルター症候群は非常に症状が弱いような方、テストステロンでいうとマイルドな低下にとどまる場合は、先ほどのような臨床症状はあまり顕在化しないけれども、厳然として精巣の機能自体が弱いので、乏精子や、無精子症が出てきます。そうすると、ほかに何も症状はなく、普通にご結婚されて夫婦としても仲良くやっているにもかかわらず、お子さんができなくて困って不妊クリニックに行き、初めて乏精子症が見つかり、そこからクラインフェルター症候群が確定するという、大きく分けて3つのパターンがあるのではないかと考えています。
池田
クラインフェルター症候群といっても、すごくスペクトラムが広いのですね。いわゆる健常な男性に見える方もいれば、毛も生えないし、筋力も上がってこないといった方までバリエーションがあるのですね。不妊外来に行ってわかるという場合は、精巣の生検がきっかけになるのでしょうか。
後藤
精巣の生検は、必ずしもルーチンではないのですが、末梢血の核型をみることで簡便にクラインフェルター症候群がわかることもあるといわれています。不妊治療に関しては女性の要因があれば、もちろん男性側の要因もある中で、精子の検査を行ったら乏精子症だったり、かなり無精子症に近いような状態の方がいるので、不妊のクリニックではまず、末梢血の核型をみることが多いといわれています。そこで診断がつかない場合や難しいケース、特異的ではないケースでは例えば精巣の生検や、細胞を取っていく中で、改めてモザイクを持ったクラインフェルター症候群が診断される場合もあるといわれています。
池田
可能性が高いか低いかわからないけれども、一番簡便なのが、末梢血を採って核型をみるということですね。
後藤
はい。そのとおりです。
池田
モザイクの場合は、頻度が低くて、核型をみても診断がつかないことも多いのでしょうか。
後藤
そうですね。そういう意味も含めて、きちんと診断しきれているかというと、やはりまだ十分に診断しきれていないようなケースが我々の医療の中でもまだあるのではないかといわれています。
池田
疑わないと診断がつかない感じですね。
後藤
そうですね。典型例ではないものは本当に、テストステロンのある部分の低下の症状など、一見すると通常のエイジングと見間違えてしまう、区別がつかないことがあります。そういう中で、一つ疑ってみる鑑別の中に、こういう男性機能の低下の低テストステロンというようなものがあって、その中にクラインフェルター症候群があるといわれています。
池田
質問のテストステロン補充療法を行っている患者さんは今後フレイルなどが問題になってくると思いますが、ホルモン補充療法はいつまで継続すればよいのでしょうか。
後藤
これはなかなか難しい質問だと思います。実際、クラインフェルター症候群自体の集団というのが、なかなか医療現場で上がってこないという問題もあります。ですから、適切な補充の量、そして、期間はどこであるべきかという堅いエビデンスレベルがなかなかないというのが、今の問題だと思います。エキスパートオピニオンの意見などをいろいろ聞きますと、低テストステロンが起こしている問題、特に高齢者に関しては、筋骨骨格の維持、筋力の維持というところで、テストステロンの効果は、かなり大事なものだといわれていますから、低テストステロンが、サルコペニア・フレイル、そして骨粗鬆症のリスクであることが観察研究等からかなりデータが出てきていますので、例えば高齢になっても量を減らしながら継続していく、テストステロン補充療法を永続していくべきではないかという意見があります。
池田
例えば量を減らすなど目安はあるのでしょうか。
後藤
はい。あまり固まったものはないのですが、後期高齢者になってきたら、通常の例えば7~5割程度に落とした補充をしていく臨床医が多いと考えています。
池田
ずっと続けて何か不都合なことがあるのでしょうか。
後藤
はい。例えば、乳がんや前立腺がんなどがあった場合です。乳がんは男性にはめったに起こらないことですが、両方ともホルモン感受性の腫瘍ですので、もし、これが併存した場合には、すぐにこの補充を停止するべきだということがいわれています。前立腺のトラブル、例えば前立腺肥大症などを起こしていないか、そのあたりは補充の中で気をつけていくべきです。
池田
そういった状態になってきた、あるいはなりそうだと、各科の医師と相談するのですね。特に前立腺の問題は男性ホルモンが少ない方には起こりにくいのかと思っていたのですが、やはり補充していけば、同じように起こりうるのでしょうか。
後藤
リスクとして高いわけではありませんが、やはりベースの疾患として、ある程度late-onsetで出てきている場合には、前立腺が肥大しているようなケースもありうるので、その場合には注意が必要です。
池田
それも含めて非常に広いスペクトラムの病気なので、そういったホルモン補充療法の負の面もみながらフォローアップしていくということが大切ですね。どうもありがとうございました。