ドクターサロン

池脇

平和先生、具体的な質問をいただきました。高齢の心不全の患者さんに利尿剤を使うとクレアチニンが上がる方が確かにいますが、いかがでしょうか。

平和

心不全における利尿薬の使用は、体液量過剰の是正になると思います。つまり、むくみや浮腫、胸水があると過剰な細胞外液量をいかに減らすかが目的になります。体液量が過剰であれば利尿薬も非常に重要な選択肢になりますが、その前に、日頃の生活で塩分、水分を取りすぎていないかを確認する。それから体液量が本当に多いかどうかを確認することが大事だと思っています。高血圧患者における、食塩摂取量は1日6g未満にするというのが日本のガイドラインで、WHOでは5g/日とより厳しい制限が推奨されていますが、わが国の慢性心不全ガイドラインにおいても、1日6g未満とされています。日本人は塩分摂取量が多いので、厳しい減塩はなかなか難しいのですが、過剰な食塩摂取は心臓にも腎臓にも悪いことを理解いただいて、まずは減塩を勧めています。ただ、減塩をすると食欲がなくなってしまう人がいて、食事量や、筋肉量が減って、サルコペニア・フレイルのリスクがあります。それによく注意することが必要で、主治医がご高齢の患者さんのキャラクターをみたうえで、ご指導いただければと思っています。

池脇

外来通院が可能で今はそんなにひどい状況ではない高齢の心不全の方をできれば利尿剤を使わずに管理できないかという背景から、採尿して塩分摂取量の簡易測定を時々行っています。体液貯留を具体的に評価する方法はありますか。

平和

基本的には、日頃から下腿浮腫がないかどうかを患者さん自身が確認できるように指導いただくと良いと思います。脛骨前面を親指でぐっと押して、へこむかどうかを指導いただけるとわかりやすいと思います。

池脇

なにか検査をして、数値をとるよりも、むしろ、患者さん自身で浮腫の状況を見て、浮腫があると体液貯留があると気づいてもらうのですね。それで体液貯留があって、塩分摂取量も少し多そうだなとなったら、やはり一番大事なのは塩分制限ということですね。

平和

はい、塩分制限は副作用が少ないのでおすすめです。

池脇

それでうまく管理ができない場合、次のステップは何なのでしょうか。

平和

やはり実際に浮腫があると、利尿薬を使うことも非常に重要な選択肢になります。高血圧があれば、選択肢として降圧利尿薬のサイアザイド系利尿薬をよく使います。サイアザイド系利尿薬は、様々なベネフィットがあって、心不全にも良いですし、腎保護や体液を減らすなどの効果もあります。また、しばしば使われているレニン・アンジオテンシン系阻害薬との併用で、その効果が高まることもいわれていますので、うまく使うとかなり有用だと思っています。

池脇

患者さんの状況にもよりますが、本当に逼迫した状況だとループ利尿薬の静注から始めることが多いですね。先生のおっしゃっている患者さんの状況で、基本外来で、でも心不全の状態はあまり良くないので、何とかしようというときには、むしろサイアザイド系のほうが好まれるのですね。

平和

いいえ、腎機能によって異なります。腎機能が良ければ、サイアザイド系でいいのですが、ただ単に水を抜きたいときはループ利尿薬も非常に使いやすいです。サイアザイド系はナトリウム利尿が強くなるので、ナトリウムを含むような外液を減らしたいとき(血圧が高いなど)はサイアザイド系がよく、ただ水を減らしたいときにはループ利尿薬のほうが利尿効果が強いです。また、GFRが30mL/min/1.73㎡を切ってくるような人はサイアザイド系だと効きが悪くなりますので、通常はループ利尿薬を最初に使うことになると思います。

池脇

トルバプタンは外来でいきなりは使えないのですか。

平和

そうですね。高ナトリウム血症になったり過剰な利尿がかかることがあるので、使い始めは入院していただきます。また、私たちの研究でも、GFRが60mL/min/1.73㎡を切るような慢性腎臓病の方で、ループ利尿薬を使っているけれども、体液過剰がコントロールできないというときに、ループ利尿薬を増やしたほうがいいのか、あるいは、バソプレシンV2受容体拮抗薬で水利尿薬といわれているトルバプタンを使ったほうがいいのかを検証するためにRCTをしたことがあります。その結果、ループ利尿薬を増やすよりも、トルバプタンを使ったほうが尿量が増えるし、治療に伴う急性の腎障害を起こしにくいというデータが得られました。また、フロセミド、ループ利尿薬を増やすと、低ナトリウム血症も起こしやすくなったりしますので、トルバプタンをうまく使えばそういうことが予防できる可能性が示されています。困ったときには、専門病院に一度紹介いただいて、入院のうえ、トルバプタンを使用することも選択肢の一つとして考えてもよいと思います。

池脇

そしてもう一つ、カリウム保持性利尿薬もあります。いわゆるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は慢性心不全に関してエビデンスもあります。すでにそれを飲まれている患者さんも多いかもしれませんが、先生は心不全の患者さんへのMRAの使い方は、どのようにされていますか。

平和

心不全の患者さんにスピロノラクトンや抗アルドステロン薬、MRAを使うことは非常に重要なことだと思います。心不全のFantastic-4といわれる4つの薬のうちの1つです。ただこれは、尿を出すという利尿薬として使うというよりも、MRAとしての特別な作用も期待されているので、これを使っていても体液過剰状態が適切に管理できていない場合が問題になるのではないでしょうか。そのときに、MRAの増量は高カリウム血症を起こしやすくなるので、サイアザイド系にしても、ループ系にしても利尿薬はカリウムを下げる方向に働きますから、併用しやすいです。ただし、脱水にはよく注意することになると思います。

池脇

利尿薬を使うと腎機能が悪化しがち、あるいは、電解質も少し変化しやすくなるのはどういう機序なのでしょうか。その薬ごとにその機序は多少違うのでしょうか。

平和

先ほどからお話しさせていただいているように、サイアザイド系にしてもループ利尿薬にしても、使用に伴って体液量が低下するとともに血圧が下がることがあります。高血圧の場合は血圧を下げるために使っているのですが、心不全の場合、実は血圧が低い人が多くて、利尿薬の使用によって低血圧を起こしたり過剰に体液量が減少する場合があります。その結果として、腎血流が減って、かつ腎髄質の酸素供給が減ってしまうので、酸化ストレスが増えたりして、腎臓を悪化させてしまいます。そういう意味で血圧を下げすぎないこと、それから体液量を減らしすぎないことが大事です。それから血圧が下がれば、レニン・アンジオテンシン系が不活化されます。交感神経系も不活化させる。それらは心不全によくないので、そういうことを起こしうることを知ったうえで使うことが大事です。また、今話があったように、これらの利尿薬は低カリウム血症、低ナトリウム血症などの電解質異常を起こしやすいので、それには注意していかないといけません。低カリウム血症を起こすと、耐糖能障害を起こすので、低カリウム血症を起こさないように注意することはとても大事です。ただし低カリウム血症リスクのある場合は、基本的には野菜や果物を摂ってもよいとなるので、患者さんにとってはそんなに悪いことではないです。

池脇

利尿薬を使って体液貯留が是正され、逆にちょっと体液が不足気味になってくると、腎血流量が減って腎機能悪化になるということは、やや、その治療が行きすぎた状況で起こりやすいという理解でよいでしょうか。

平和

食事量が不足したり、風邪をひいたり体調不良だったときに適切に水分摂取ができないと脱水になり、急性腎障害を生ずるリスクとなります。心不全では、心・腎の予備力も少ないことは知られていますので、そういう意味で過剰な治療は要注意ということを理解いただきたいと思っています。特に風邪をひいたり下痢をしたりしたときに、この副作用が出やすくなりますので、そういう際には、利尿薬はやめましょうということを前もって話してから処方されるとよいのではないでしょうか。

池脇

最後に、循環器の医師はSGLT2阻害薬を心不全の薬だ、CKDの薬でもあるとおっしゃっていますね。

平和

そうですね。

池脇

こういう状況の中でこのSGLT2阻害薬は汎用されうる薬なのでしょうか。

平和

心不全では、非常に重要な薬ですので、基本的に使うことになると思います。ただ、SGLT2阻害薬は糖の吸収を抑えるのですが、一緒にナトリウムの排泄も起こします。そうしますと利尿薬と併用すると、過剰にナトリウム利尿を起こすことがありますので、注意することが必要です。シックデイには、その薬剤を中止するというように、先ほどお話ししたことに注意していただければと思っています。

池脇

どうもありがとうございました。