山内
河田先生、まず、このステントグラフトについて少しご解説願えますか。
河田
大動脈瘤という名前を聞いたことがあるかもしれませんが、体の中で、一番太い血管が提灯みたいな感じで太くなってしまったり、あるいは片側だけ袋状に膨らんでしまうような大動脈のコブを大動脈瘤といいます。そのコブが破裂しないようにするために、まだ正常である大動脈から正常である大動脈に橋渡しをすることで、コブの中が空になって圧がかからなくなって、それが縮んでくるのを目指した治療をステントグラフト治療といいます。
山内
人工的な筒を間に入れるようなものですね。
河田
そうですね。人工血管にバネが付いているようなかたちです。
山内
質問ですが、大動脈弓部は腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈を分岐していますが、こういった辺りにできた動脈瘤に対しても、この技術は留置が可能でしょうか。もし可能であるとすれば、どのようにして行うのでしょうか。
河田
もともとのステントグラフトの始まりとしては、その枝があるところは置けないということだったのですが、外科医が工夫したり、デバイスも進化しました。枝があるところにもコブができる人がいるので、その枝を例えば右の首の動脈から左の首の動脈にバイパスして、左の動脈の入り口、左の鎖骨下の入り口はステントグラフトの足場で閉じても血流が行くような感じにすると、弓部にできたコブにも対応することができます。あとは一番手前の心臓から近い腕頭動脈のところも、コブを塞ぐためにステントグラフトをおかなくてはいけないときには、そこに穴が開いているようなステントグラフトが今、国産で出てきていますので、そういうものを入れることによって弓部にもステントグラフトの治療は可能になってきています。
山内
なかなか芸術的ですね。
河田
そうですね。穴と合わせたりするのが、苦労するところではあります。
山内
これはなかなかたいへんそうです。まだかなり困難な技術であることは事実ですね。
河田
そうですね。いろいろ工夫したり、位置を合わせたりというのは、難しいところがあります。
山内
ちなみに大動脈瘤は一人の方に多発することもあるのでしょうか。
河田
お腹にコブがあると紹介されてきた人の全身を調べてみたら、胸部にも弓部にもあったという方はいます。
山内
こういう方は、一気にステントグラフトを入れるのでしょうか。
河田
一気に入れてしまうと、例えば、脊髄を養っている血管などの影響で足が動かなくなってしまうなどという麻痺が起こったりしますので、できているコブのそれぞれの大きさと形で、どれが一番破裂しやすいかを見極めて、そこから段階的にやっていくのがよいのではないかと思います。
山内
時間をかけてということですね。
河田
そうですね。ただ、待っている間に、次の動脈瘤が破裂してしまうと困るので、初期治療をやった後に、残っているコブがどうなっているのかは、しっかりフォローしていかなければなりません。
山内
もし2カ所に危ないところがあった場合は手術を行ったほうがいいのでしょうか。
河田
胸部と腹部にあったという場合はだいぶ場所が離れていますので、ステントグラフトではなくて胸を開いたりお腹を開いたりという場合でも、段階的に行うことが体に与えるストレスや合併症をできるだけ減らすという意味ではいいかもしれないですね。
山内
もうひとつ、脳動脈瘤で行われているコイリングは、大動脈の場合に検討されることはあるのでしょうか、という質問です。まず、コイリングとはどういったイメージのものなのでしょうか。
河田
頭の中にできる動脈瘤は血管のところに袋状に飛び出たような、Ωという字みたいな感じにできるのですが、カテーテルでコイルをもっていき、その中を全部、密度を濃く詰めてしまうのが、動脈瘤のコイリングです。そのコブがカチカチに固まって、もうそれ以上膨らむことができないという状況を作って、本管はそこをほぼ無視して流れるような状況を作るというのが、頭の脳動脈瘤のコイリングのイメージになります。
山内
コイルといいますが、もう中に血は入っていかないような状態の中で固まってしまうのですか。
河田
そのコイルは細い針金なのですが、少しケバケバが生えていたりして、血栓ができやすくなるような仕組みになっています。
山内
このコイリングは大動脈の場合ではどうなのでしょうか。
河田
大動脈の場合は本管が太くなってしまって、その末梢側にも血が流れるものですから、コブを全部コイルで詰めてしまうと、そこで血流が行き止まりということになってしまいます。大動脈の治療としては、正常なところから正常なところに血が流れてもらわなくてはいけないものですから、人工血管にバネが付いたようなものを、正常のところから正常のところに入れて、このコブのところは圧がかからないようにするという、新しい道というかトンネルができるみたいなイメージになります。なので、そこをコイルで全部詰めてしまうのは、脳動脈瘤とはちょっと違う方法になります。
山内
サイズもだいたい大きいのですね。
河田
そうですね。サイズがだいぶ違いますね。
山内
大動脈瘤ステントグラフトの対象者についてうかがいたいのですが、偶然発見されるのが最近の傾向でしょうか。
河田
そうですね。検診などがしっかり行われるようになっていますので、胸部のレントゲンで、少し突出しているようなところが見つかったとか、お腹の超音波をやったらお腹の大動脈が大きくなっているのが見つかったことがきっかけで紹介されてくることはあります。
山内
高齢化で、発見は多くなっているとみてよいですか。
河田
そうですね。血管も動脈硬化といわれるものから、耐久性として、血管も長く使ったので、弱くなっている部分が膨らんで拡張してくるものまであると思います。
山内
成績はいかがでしょうか。
河田
その昔、ステントグラフトが出たときには、外科医がお腹や胸を開いて、人工血管を手で縫うほうがよほどいいという考えもありました。ただ、どんどんステントグラフトの技術も進化してきましたし、ステントグラフト自体もいいデバイスが出てきているので、枝がないような下行大動脈においては、かなりの部分がステントグラフトで治療するように変化してきています。成績もだいぶ良くなっています。
山内
適応をもう一度確認したいのですが、症状がある場合は、まず手術を行うのですか。
河田
切迫破裂など破裂しかかっている場合には、すぐに手術になります。
山内
適応となるサイズは5㎝以上という話を聞きました。これはいかがですか。
河田
発見されたときに4㎝とか3㎝でもコブがあるとなると、患者さんとしては心配になってしまうかもしれないのですが、日本に限らず、世界的にも5.5㎝を超えないと破裂はしないというエビデンスがあるので、それよりも前に治療をするのは、少し早すぎると学会全体として考えています。
山内
例えば、職業ドライバーの方などは少し社会的リスクがあるので、予防的に早く取ってしまったほうがいいのでは、といったイメージがありますが、そうでもないのですか。
河田
早く手術をするとそれによって起こる副作用というか、合併症の率と破裂する率と比較すると、1年間何もしなくても破裂しないのに、手術したら数%危険性がありますというときに、その危険を被ってしまった場合、やはり手術をしないほうがよかったかなということになります。1年を通しても、破裂する率が合併症を発生する率よりも高くなっているところが、だいたい5~5.5㎝に設定されていると理解しています。
山内
ちなみに、副作用ないし後遺症はどういったものなのですか。
河田
ステントグラフトは中に針金が入っているような状態ですので、大動脈の中に入れると、その血管が硬くなってくるようなイメージです。そうすると、それ以外の血管が正常のところにも少しストレスがかかったり、ステントグラフトがあるところは、しっかりとした針金で守られていますけれど、それ以外のところがなんとか干渉したりします。柔らかくなっているところはコブになってしまったりステントグラフトの端と端のところは、境目のところに少し負担がかかると、そこに今度はコブができてしまうなどの弊害があります。
山内
確かに、ものすごく硬い動脈硬化があるという感じですね。
河田
そうですね。そういう感じになります。
山内
ありがとうございました。