ドクターサロン

 「医食同源」と言われるように、医師にとって食事に関する知識は重要です。この「食事」という意味で使われる英語表現としてfood, dish, meal, cuisine, and dietなどがありますが、皆さんその違いはおわかりでしょうか?
 まずfoodですが、これは「食べ物全般」を意味します。そしてdishは「皿の上に載っている料理」という意味で使われます。ですから肉や魚の料理はmain dishと呼ばれ、サラダなどはside dishと呼ばれます。そしてこれらのdishを組み合わせた「1回に摂取する食事」をmealと呼びます。ですから量が多い食事はheavy mealと呼ばれ、逆に量が少ない食事はlight mealと呼ばれます。仏語でcuisineはkitchenを意味します。ここから英語のcuisineは「料理方法」という意味で使われています。Italian cuisineのように使われる場合、それは「(伝統的な)イタリアの料理方法」という意味のほか、「(伝統的な)イタリアの料理方法で作られた料理」という意味も持つのです。日本語の「ダイエット」は「体重を減らす行為」という意味で使われる傾向がありますが、英語のdietには「食生活」という意味しかありません。英語で“I am on a diet.”と表現する場合、それは「自分は(減量目的で)ある特定の(制限を強いる)食生活をしています」という意味になり、運動による減量などの意味は含まれません。このようにdietが「食生活」という意味であることを理解できれば、「食生活に関する専門家」である「管理栄養士」の英語名がnutritionistではなく、dieticianであるということも納得できると思います。
 体重を減らすためのdietには数多くの種類があり、その時々で様々なfad diet流行のダイエット」が生まれてきました。
 一昔前、米国ではZone dietというものがはやりましたが、これは「タンパク質」proteinと「炭水化物」carbohydrate/carbそして「脂質」fatをそれぞれ30%-40%-30%の割合で摂取すれば、摂取するカロリーの総量はあまり気にしなくて良いというものだったのでかなりの人気となりました。現在も「低炭水化物ダイエット」や「糖質制限ダイエット」であるlow carb dietが人気ですが、このlow carb dietは一般的にはAtkins dietと呼ばれています。このほかにもてんかんの治療としても有名な「ケトジェニックダイエットketogenic dietは、一般の人にはketoketo dietのように呼ばれています。ただしketogenicとketoの英語での発音はそれぞれ「キートゥジェニック」や「キートゥ」のようになるので注意してください。
 「過敏性腸症候群irritable bowel syndrome(IBS)の患者さんは、low FODMAP dietを摂取する必要があります。このFODMAPとはFermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides And Polyolsの頭文字で表される炭水化物で、小腸において水分を引き寄せて下痢を起こし、また大腸において腸内細菌の栄養源となって発酵してgasを発生することで腸を伸展させます。IBSの患者さんは腸が過敏となっているため、FODMAPを含む食品を摂取すると腸が伸展して症状が悪化します。ですからlow FODMAP dietを摂取するように助言する必要があるのです。
 Atkins dietのような食事制限をしていると、「低血糖hypoglycemiaになってイライラすることもありますが、「お腹が空いてイライラする」という状態をhangryと表現します。これはhungryとangryを組み合わせて作られた新しい形容詞なのです。
 患者さんに食生活について尋ねる場合、英語では“Could you describe your typical diet?”などと表現します。そして「外食」の頻度を尋ねる場合には“How often do you eat out?”のようにeat outという表現を使いましょう。日本語では外食に関して「味付けが濃い」という表現を使いますが、英語でこれをそのままstrongly flavoredやheavily seasonedのように表現してしまうと、「風味が強い」のような印象を与えてしまいます。英語ではより直接的に“If you eat out frequently, you may consume more sugar, salt, and fat.”のように表現することが一般的です。また「塩分の多い食事」としては、high salt foodよりもhigh sodium foodのようにsodiumという表現を使うほうが自然です。そして「摂取」としてはconsumptionのほかにもintakeのような表現もよく使われます。
 「間食」の頻度を尋ねる場合は“How often do you snack?”と表現します。日本語の「スナック」にはパサパサとした「スナック菓子」というイメージがありますが、英語のsnackは「間食」や「間食する」という意味で使われます。ですからバナナやたこ焼きなども英語のsnackに含まれるのです。
 日本語とイメージが異なる英単語としてはjuicesushiなども有名です。日本語の「ジュース」には「甘い飲み物」という意味があり、コーラやそのほかの炭酸飲料も「ジュース」に含まれますが、英語のjuiceには「(主として)果物を搾った飲み物」という意味しかありません。コーラは英語ではcokeとなり、炭酸飲料は米国ではsoda/ popと、英国ではfizzy drinkのようにjuiceとは区別して表現されます。そしてこのjuiceとは逆に英語のほうが広い意味を持つ単語としてsushiがあります。もちろんこれは日本語の「寿司」から生まれた表現なのですが、英語のsushiには「生寿司」だけでなく「刺身」も含む「生魚を使った健康的な料理」という意味もあるのです。ですから英語圏の方が“I eat sushi almost every day!”と言う場合、必ずしもそれは日本人の考えるような「生寿司」ではなく、「生魚を使った和食っぽい健康的な料理」である可能性もあるということを覚えておいてください。
 日本人にあまりなじみがないものとしてはhalal foodやkosher foodなどにも注意が必要です。Islamイスラム教」の教義に沿った食べ物であるhalal foodは「ハラルフード」として日本でも少しずつ認知が高まってきていますが、Judaismユダヤ教」の教義に沿った食べ物であるkosher foodは日本ではあまり認知されていない印象があります。このkosher foodはpork, rabbit, catfish, and shellfishなどが許されていないほか、「乳製品」dairy productsとmeatを同時に摂取してはいけないなど、幾つかの決まりがあります。また血液の摂取も禁じられているほか、食肉の精製にも決まり事があるため、英語圏ではその食品加工過程への信頼から健康志向の高いnon-Jewishの人にも人気があります。
 日本では「お餅を喉に詰まらせる」ことによる窒息が問題となりますが、お餅やうどんのような「もちもち」した食感のことを英語ではchewyと表現します。ただ、喉に詰まるのは「グミ」のような弾力を持った食べ物もあります。このような食感を英語ではgummyと表現しますが、英語のgummyは「ミィ」のような発音になりますのでご注意を。「ぷるぷる」する食感は英語でjigglyと言いますが、その代表的な食べ物の「ゼリー」は英語ではjellyとなります。超音波検査の際にprobeにつける物質を「ゼリー」と表現する方が時々いらっしゃいますが、これはgelジェル」であってjellyではないのでご注意を。ちなみに「トムとジェリー」の「ジェリー」もjellyではなくJerryですのでお間違えないように。
 こういった「食感textureにはほかにも様々な表現があります。同じ「もちもち」でもご飯の場合にはstickyという表現が使われます。ですから海外産の「パサパサしたお米」であるflaky riceと比較して、日本産のお米はsticky riceのように表現されます。ケーキなどの「しっとり」とした食感はmoistのように表現されます。そしてケーキの場合の「パサパサ」は単純にdryのように表現されます。肉が「硬い」場合にはhardを使わずにtoughという形容詞を使い、逆に「やわらかい」場合にもsoftを使わずにtenderという形容詞を使います。そして肉や魚は「生臭い」場合がありますが、これは英語ではどう表現するのでしょう? 英語のgameには皆さんご存じの「ゲーム」や「試合」といったイメージのほかにも「狩猟での獲物」というイメージもあります。ですからgameの形容詞であるgamey/gamyには肉の持つ「生臭い」というイメージがあります。これに対して魚の「生臭い」にはそのままfishyという形容詞が使われます。
 最後に「離乳食」はどのように表現するかご存じですか? weaning foodbaby foodなどの表現もありますが、一般的によく使われているのがsolid foodsolidsという表現です。もちろんこれらはsolidとはいえ、実際にはやわらかい食べ物であり、その形状はpuréeと表現されます。これは日本語では「ピューレ」となっていますが、米国では「ピュレィ」のように発音されますのでお間違えないように。