ドクターサロン

 齊藤 動脈硬化の形態学的検査法についてお話しいただきます。 入り口はどういった検査になりますか。
 濵口 形態学的検査、特に実地医家や健診・ドックで用いられる検査方法のひとつとして超音波検査、特に頸動脈超音波検査(頸動脈エコー)が有用であると考えられます。こちらは、早期の動脈硬化から中等度、伸展して狭窄までの評価が一つでできるというメリットがあります。頸動脈において、医師の中で知られている用語としてIMT(内中膜厚)というものがあるのですが、この厚みをみることで、通常の年齢に比して動脈硬化が進んでいるかどうかを評価することができます。このIMTにおいては、1.1㎜を超えると厚くなってきますが、年齢によって数値が変わりますので、一応50代で1.0㎜までが正常と思っていただいて、年齢とともに増加すると考えていただければと思います。
 齊藤 内中膜肥厚に加えて、プラークもあるようですね。
 濵口 そうですね。プラークも比較的評価のしやすい項目になります。プラークとはIMTが肥厚してきて、限局した1.1㎜以上の肥厚を認めた場合を指します。こちらも、年齢とともに出やすくなるのですが、特にエコーの領域では厚みが1.5㎜を超えてきますと、よりリスクが高まってくることが知られていますので、プラークの性状を評価する必要が出てきます。
 齊藤 プラークをより詳細にみることは、今、可能になっているのですか。
 濵口 普段から使われている汎用の超音波装置で、十分評価が可能になってきたので、実地医家や健診・ドックで用いられている超音波装置であれば、プラークの性状の評価が可能です。
 齊藤 どういったことが見えるのですか。
 濵口 プラークの性状の中で特に私たちが気にしているのは、内部が低輝度といわれるような少し周囲と比べて黒く暗く描出されている状況になっている場合です。これは脂肪に富んだ状況あるいは出血している可能性があると考えられるので、リスクが高いと考えます。一方で、高輝度と呼ばれる白い部分を認めますと石灰化が進んでいることになり、同じ動脈硬化でも両極端になります。プラーク輝度の変化でリスクの高さの評価が可能になってきます。
 齊藤 そういった質も評価して健診などの受診者にお知らせしているのですね。
 濵口 はい。
 齊藤 そういったものがあると頸動脈が狭窄するのですが、これは何か調べ方があるのですか。
 濵口 頸動脈超音波検査(頸動脈エコー)で血流速度を測ることで、狭窄度の評価につながります。特に収縮期最大血流速度が200~230㎝/s以上で、いわゆる血管造影検査において70%狭窄に相当するといわれています。今までなら血管造影検査を行って狭窄の評価をしていたのですが、普段の超音波検査でできるところにつながってきました。
 齊藤 狭い部分の流れが速いということですね。
 濵口 そうですね。血管の中が細く、狭く、速くなっているところを見られるようになってきたということですね。
 齊藤 エコーの検査で、その辺まで詳細がわかるのはかなりの進歩ですね。それから、CTあるいはMRIがあると思うのですが、これらの使い方はどうするのでしょうか。
 濵口 そうですね。超音波検査は侵襲性がほぼなく、外来やベッドサイドでできるという利点がありましたが、客観性という意味においては、CTやMRIのほうが有用性が高くなります。特にCTであれば持っている施設は多いと思います。石灰化病変の評価にはCTが有用で、特に冠動脈や頸動脈、大動脈、または末梢動脈といったすべての全身血管において石灰化病変の評価が可能となります。
 齊藤 今はCTの造影もしなくていいのでしょうか。
 濵口 正確な評価のためにはまだ造影されている施設が多いと思うのですが、今の新しい装置だと非造影で評価することもできるようになってきたので、非造影での評価も進んできている状況です。
 齊藤 石灰化しているところは危ないものなのですか。
 濵口 石灰化病変のみであれば、そこまで危ないかどうか、リスクの評価にはつながらないのですが、その石灰化病変が狭窄病変になりますと、それがリスクとして考えられることになります。その場合はやはりCT以外の検査を合わせて評価していただいたほうがよいです。例えば頸動脈エコーのお話をしましたが、あれは石灰化があるとどうしても見にくい状況になるので、CTでの評価、あるいはMRI、MRAの評価というようにつなげていっていただきたいと思います。
 齊藤 MRもよく使われているのですね。
 濵口 CTほど保有されている施設は多くないと思うのですが、特に頭頸部領域においては、MRI、MRA検査はすごく優れていると思われます。特によいのは、頭蓋内、頸動脈、最近では大動脈から下肢の動脈においても非造影でMRA検査ができるようになったことです。また、プラークの評価においてもMRIが活用されていて、プラークイメージングという手法を用いると、プラークの内部が出血しているか、脂肪に富んでいる状態であるかどうかというところまでの評価ができるようになりました。外科的治療の治療方針決定につなげられています。
 齊藤 血管造影も昔ながらのものを使うのですか。
 濵口 血管造影検査は、今まで、狭窄病変や閉塞病変の診断においてのゴールドスタンダードだったと思うのですが、これだけ無侵襲、あるいは低侵襲でできる検査が増えてきたので、血管造影の役割としては治療を見越した、あるいは治療方針決定のための検査となります。どちらかというと、スクリーニング検査の役割から精密検査の役割に変わってきたと思います。
 齊藤 その他の血管内エコー、あるいは内視鏡もあるとうかがっていますがいかがですか。
 濵口 そうですね。例えば、冠動脈造影検査では、ほぼ必須で血管内超音波検査を加えることで、プラーク性状診断を行っていますし、最近では大動脈内視鏡検査を用いることで、大動脈壁のプラーク性状評価、あるいはそこからの塞栓子として飛びそうな構造物があるかどうかの評価も可能になってきました。ただし、どうしてもできる施設が限られている部分もあるので、より専門的な施設での精査になってくるかと思います。
 齊藤 こういった形態学的検査法は非常に進歩しているということですけれど、機能的な検査と併せて考えていくことになりますか。
 濵口 機能的な検査として、ぜひとも知っておいていただきたいのは、やはり実地医家や健診・ドックで用いられているABI(足関節上腕血圧比)の評価になります。それに加えて、どちらの装置が良いか悪いかというわけではないのですが、baPWV(脈波伝播速度)あるいはCAVI(心臓足首血管指数)といった機能を計測できる装置を用いてのABI検査が主流になっていると思います。あと、さらに早期の動脈硬化の評価として血管内皮機能検査であるFMDという検査法も今は主流となっています。
 齊藤 そういったものを組み合わせて、より詳細に評価していくということですね。こういった検査を、経過観察に使うことも可能ですか。
 濵口 そうですね。先ほどの血管造影検査などでは、フォローアップとしてはなかなかハードルが高いと思うのですが、超音波検査とABIであれば、定期的にフォローとして使うには優れている検査です。特に頸動脈IMTが厚くなってくるかどうか、ABIの数値が下がってくるかどうか、baPWV、CAVIの数値が上がってくるかどうかなどは、経時的変化として使用しやすい項目になるかと思います。
 齊藤 治療あるいは予防の経過観察に使っていけるということですね。
 濵口 はい。脂質に関してのスタチン内服、あるいは高血圧に関しての降圧薬、あるいは一部の抗血小板薬などでもIMTの伸展抑制・退縮効果、あるいはbaPWVやCAVIの減少を期待できます。
 齊藤 ありがとうございました。