池脇 泣き入りひきつけに関しての質問です。これはけっこう多く見られることなのでしょうか。
本橋 報告によって幅はありますが、お子さんの0.1~4.6%に見られる状態といわれています。
池脇 その幅の大きいほうの約5%を取るとそんなに珍しい病態ではないのでしょうか。
本橋 はい、珍しくないと思います。小児科医なら経験したり、相談を受けたり、お子さんをお持ちの方などは、ご存じかと思います。
池脇 泣き入りひきつけという言葉自体で、どういうものかを想像すると、おそらく大泣きしたあとに何か起こってくる病態のようなのですが、具体的にどういうことなのか教えてください。
本橋 泣き入りひきつけというのは、主に生後6カ月から1、2歳ぐらいまでの乳幼児が激しく泣いたあとに息が止まって顔色不良や意識を喪失したり、痙攣のような動き、全身の脱力などを起こすものといわれています。
池脇 激しく大泣きしたあと、特に呼気で止まるそうですが、なぜ大泣きが呼吸抑制につながるのですか。
本橋 はっきりとした原因はわかってはいないのですが、激しく啼泣したあとに呼気のところで呼吸を止めてしまって、チアノーゼを示して全身の虚脱と痙攣が出現するようなチアノーゼ型というものと、あともう一つ、いろいろな痛みや不満などが原因となって、この場合は吸気層で呼吸を止めて、急に蒼白になって意識を失うような蒼白型というのに大別されます。
池脇 呼吸が止まると一過性の脳虚血が起き、それが脱力や痙攣につながっていくという理解でよいですか。
本橋 はい、それでよいと思います。
池脇 ずっと続いたらたいへんですが、短期間で終わるのでしょうか。
本橋 はい。5、6歳ごろまでには自然になくなるといわれていますし、実際そのように経験しています。
池脇 泣き入りひきつけの発作は、せいぜい1~2分ぐらいと考えてよいのですか。
本橋 はい。短いです。
池脇 急に息が止まってぐったりする、あるいはひきつけを起こすと、保護者はびっくりして、そのまま赤ちゃんと一緒に病院に行くことが多いような気がしますが、どうなのでしょう。
本橋 病院にいらっしゃることは、時々あるかと思います。あとは、お母さん自身が育児書とかで勉強されて、そういうことがあると、様子を見られることもあるかと思います。「これは泣き入りひきつけだと思うのですが」と、後から何かの健診のときに相談を受けたりすることもあります。
池脇 それは素晴らしいですね。きちんとそういう予備知識があって、これは泣き入りひきつけだから心配しなくていいということをご存じの方もいるのですね。原因はどの程度わかっているのでしょうか。あるいは遺伝的素因なのでしょうか。
本橋 同じ家系の中で、何人か泣き入りひきつけを経験された方はあるようです。30%ぐらいが同じ家系の中でいらっしゃるという報告がありますが、具体的にこの遺伝子の変化を持っていると遺伝するということまではわかっていないという状況ですね。ご家族の中で、まったくそういう方がいない患者さんもいます。
池脇 先ほど、泣き入りひきつけは5歳くらいになると起こさなくなるとおっしゃいましたが、例えば1回だけというパターンが多いのか、1回起こすと、ある程度の期間、時々起こすのか、何か傾向があるのでしょうか。
本橋 具体的に何%の方が複数回起こすかという数値は、たぶんわかっていないと思いますが、激しく泣きやすい方などは、一生涯のうち何回か経験するかと思いますし、1回きりという方も経験的にけっこういると思います。
池脇 鉄欠乏が関係しているのでしょうか。
本橋 はい。鉄欠乏性貧血があると泣き入りひきつけを起こすので、鉄剤内服で発作がなくなるといわれています。
池脇 泣き入りひきつけを予防する方法はあるのでしょうか。
本橋 予防は難しいし、そんなに心配する病態ではないので落ち着いて育児をしていただいて、もしなったら、落ち着いて抱っこしてあげたり、様子を見たりすることで、十分ではないかと思います。
池脇 確かに、大泣きする子どもさんに対して、それしないでよと言っても、なかなか聞いてくれませんよね。
本橋 はい、難しいと思います。
池脇 ただ起こしたら起こしたで1~2分のことだから、その間に変なことが起こらないように気をつけながら見守ってあげることが大事で、あまり起こさないようにというところに注意を払う必要はないのですね。
本橋 はい、そう思います。
池脇 わかりました。質問の最後に、ワクチン接種の開始時期とありますが、どう質問の意図を解釈したらいいのでしょうか。
本橋 おそらくワクチン注射をすると大泣きしてしまうので、泣き入りひきつけを起こす方は大泣きを回避するためにワクチン接種の時期をずらしたほうがいいですか、という質問ではないかと想像しました。泣き入りひきつけ自体はそんなに恐れる必要がなく、ワクチン接種はとても大切なものですから、特に時期をずらすことはしなくてもよいと思っています。
池脇 泣き入りひきつけがあるからと心配してずらすよりも、ワクチン接種はその接種時期どおりにきちんとやってくださいということですね。
本橋 はい、そう思います。
池脇 泣き入りひきつけはそんなに心配しなくていいということですが、場合によっては、泣き入りひきつけだと思っていたら、違う背景の病気だったということもないとはいえませんよね。例えば、発作の時間が長いとか、回数が多い。こういう場合には、ほかの背景も考える必要があるのでしょうか。
本橋 泣き入りひきつけの発作の持続が長い、例えば、1~2分以上長く続くとか、回数がとても多く1日に何回も起きる、6歳以上になっても起こってしまう。それ以外に発達がゆっくりだったりすることを伴っていた場合には、泣き入りひきつけ以外の病態を考えてもいいかもしれません。なのでその場合には、ぜひご相談いただけたらと思います。
池脇 これは専門医が鑑別される領域だと思うのですが、そういうときは、やはり脳神経系の何かの疾患を念頭において鑑別するのでしょうか。
本橋 そうですね。私の専門が神経系なので、私は脳神経の病気を鑑別に考えますが、急にぐったりしたりとか、顔色が悪くなってしまうものとしては、ほかに心臓の不整脈など、そういったものもありえますから、一度相談いただいて、多角的に検討をする必要があると思います。
池脇 どうもありがとうございました。
泣き入りひきつけ
国立精神・神経医療研究センター病院脳神経小児科医長
本橋 裕子 先生
(聞き手池脇 克則先生)
泣き入りひきつけの原因、好発年齢、遺伝、注意、予防方法、ワクチン接種の開始時期についてご教示ください。
千葉県開業医