山内 まず低用量ピルを使う目的、頻度からうかがいたいのですが、今、かなりの方が使われていると考えてよいのでしょうか。
片桐 はい。目的としては大きく2つあります。1つは、経口避妊薬として避妊を目的とした使用。そしてもう一つは、月経困難症に対する治療薬です。経口避妊薬としての使用は自由診療で、月経困難症の治療薬として処方される場合は、多くが保険診療になります。そうした背景の違いから、総数を十分把握しきれているかどうかは難しいところですが、以前に比べるとピル製剤に対する抵抗感のハードルはだいぶ低くなっていて、相当数の方が服用されていることが推察されます。
山内 特に自由診療で避妊薬としてかなりの方が使っている可能性があるものの、ついつい内科医が見過ごしてしまう。あるいは患者さん本人も薬としてあまり認識していないということがあるかと思います。婦人科医は、この薬を使うときの注意事項を、あらかじめ、かなりよく話されていると考えてよいのでしょうか。
片桐 はい、必ず予想される副作用、合併症についてお話をしています。そのうちの頻度の高いものと、緊急対応を必要とする場面について、必ずお話をします。
山内 ただ、使っているうちにだんだん患者さん本人も忘れてしまうこともありがちかもしれませんので、そのあたりは内科医でもよく注意しながら、ということでしょうね。
副作用に関して、不定愁訴的なものにはどういったものが挙げられますか。
片桐 発症頻度が高いものとしては、悪心・嘔気と頭痛が挙げられます。ピルと呼ばれる製剤は、保険診療適用のもの、自由診療適用のもの、合わせると非常にたくさんの種類が出ていて、それぞれの電子添文により副作用等の報告頻度に幅がありますが、悪心・嘔気等に関しては10~30%程度の報告があります。頭痛に関しても、やはり10%程度から多いものでは40%程度、報告されているものもあります。
山内 かなり高いですね。
片桐 はい。特に服用開始ごろに様々な症状が出やすくて、数カ月継続しているうちに、発生頻度が低くなると捉えられています。
山内 使用開始直後ないし初期ですと、婦人科医から患者さんがお話を聞いていればピンとくるでしょうが、避妊薬として自由診療以外にもどこかで手に入れて飲んでいる場合には、こちらから聞き出さないといけないこともあるのですね。
片桐 やはりそういった症状が出ますので、最初はまず1カ月分を処方して、服用後の様々な症状を聞きながら継続できるかどうかを確認しながら、処方期間を延ばしていくことになります。保険適用では3カ月分程度までという上限がありますが、自由診療ではその限りではありません。
山内 次にもう少し深刻なものとして有名な血栓の話になりますけど、これに関してお話しいただけますか。
片桐 発生頻度の高い悪心や頭痛という症状も、そういった血栓塞栓症の兆候として含まれていますので、患者さんの訴えがどちらなのかを見極めるのは非常に難しく、むしろ処方している私たち産婦人科医よりもその診断は内科医に頼りたいと思うところでもあります。下肢の血栓塞栓症の場合ですと、ふくらはぎ辺りの痛みであるとか、左右差のあるむくみ、そういったもので比較的わかりやすいのですが、悪心や頭痛という症状ですと、なかなかどちらの症状として起こっているものなのかの見極めが難しい場面もあります。
山内 若い女性で血栓は珍しいでしょうから、こういった場合には必ずよく話を聞かなければならないですね。
片桐 そうですね、「突然の」とか、「激しい」というのが、患者さんの訴えのキーワードの一つになるのかなと思って注意しています。
山内 血栓は医師でも見抜けないことがありますし、ましてや一般の方ではなおさらで、ここのところは大事なポイントでしょうね。
片桐 はい、薬処方のときに名刺サイズのカードを渡して、患者さんに「こういう症状があれば、医療機関を受診してください」という案内をしています。患者さんがそれを持っているかもしれないということで、そういったインフォメーションがあったかを聞いていただくと、もしかしたら「そういえばそういう説明を一番初めに聞いていたな」と思い出していただけるかと思うところです。
山内 頭痛ですが、片頭痛がくるという話も聞きますが、これはいかがなのでしょう。
片桐 ピルで片頭痛が誘発されるのか、あるいはもともと片頭痛のある患者さんが、そういった様々な症状や合併症を併発するリスクが高いのか、というところです。電子添文上はむしろ後者の方で、特に前兆のある片頭痛のある患者さんはリスクが高いと報告されています。
山内 ほかに、肥満になるという話も時々耳にしますが、これはいかがですか。
片桐 薬そのものが肥満をきたすというよりも、ピルはエストロゲン・プロゲスチンの配合剤ですので、その組織・臓器が水分を蓄えやすくなります。それにより体重が増えたように感じられたり、患者さんの中には食に嗜好の変化が起きて、炭水化物などを気づかないうちに好んで摂取していることもあるかもしれず、そういったことから体重が増えている可能性が考えられます。体重増加を心配する患者さんからそういう質問をされたときには、私はそのようなお話をしています。
山内 むくみとしては、あまり現れないのでしょうか。
片桐 非常に個人差が大きいと思いますが、むくみが生じる場合があります。ピルの中に含まれているプロゲステロン製剤の種類は複数あり、その種類を変えることによって、むくみの症状が変わる場合があります。ですので、そういう訴えのある患者さんには、低用量ピルの種類の変更を提案すると解決できる場合も少なくありません。
山内 内科医の注意点として、ピルが禁忌となる病気というのをもう一度整理したいのですが、どういったものが挙げられますか。
片桐 血栓性素因、血栓塞栓症に既往歴がある患者さん、あとはコントロール不良の糖尿病のある方、すなわち血管病変があることが予想される患者さんになります。
山内 血栓が起きやすい状態ですね。
片桐 そうですね。あとは、年齢が35歳以上で1日の喫煙本数が15本以上の方も、禁忌リストに入ってきます。さらに重篤な肝機能障害、脂質代謝異常症を背景とした血管病変があると考えられるような方たちが禁忌リストの中に入ります。
山内 脂質代謝異常症は非常にポピュラーな病気ですので、この場合はすでに、心血管障害などが出てきている方と考えてよいでしょうか。
片桐 はい、そう思われますが、最近多くの方が受けている人間ドックや会社健診などで、その正常値をわずかに超えているような方々すべてが禁忌の対象になるとは考えていません。しかし私たちは処方にあたって、あくまでも問診による患者さんの自己申告で処方をしているので、もし内科医での検査データで、これは引っかかる、あるいはそういう診断に至る可能性が高いということがあれば、服用の中止のアドバイスをしていただくのも、婦人科医にとってはありがたいです。
山内 肝機能障害というのは脂肪肝もありますから、なかなか判断が難しいですが、よく注意しながらということでしょうね。
片桐 はい。
山内 あと、膠原病関係にも注意が必要ですか。
片桐 膠原病のある患者さんが禁忌の中に入っているものもあります。ただ、ピルの処方の段階で、すでに膠原病の診断がついているかどうかということもあるので、健康であることが多いはずの20代の方が内科を受診する背景にどのような病気の可能性があるのか、私たち婦人科医はぜひ他診療科の医師にご教示いただきたい部分でもあります。
山内 最後に、飲み合わせがだめな薬は何かありますか。
片桐 改めて電子添文を確認しましたが、これとは決して飲んではいけないというものが書かれてはいません。むしろそういった薬がもし存在するのであれば、それが処方の注意というかたちで、今、お話ししたような疾患として挙げられていると思います。
山内 ピルにも何種類かあるということですので、何かあったら、そのピルを変えることも含めて、婦人科医に依頼してもいいということでしょうね。
片桐 はい。ぜひ内科医の視点から、お問い合わせ、ご助言いただければありがたいと思います。
山内 ありがとうございました。
低用量ピル
東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンター教授
片桐 由起子 先生
(聞き手山内 俊一先生)
低用量ピルを服用している20代女性患者さんに対し、内科治療において注意すべき点についてご教示ください。
東京都勤務医