ドクターサロン

 池田 大森先生、脊柱管狭窄症というのはどのような疾患なのでしょうか。
 大森 一般的に腰椎部の椎間板や、黄色靭帯の肥厚、それによって末梢神経である馬尾神経が圧迫されて、足に痺れや痛みが出る、あと歩行距離が短くなるような症状が出る疾患を腰部脊柱管狭窄症といいます。
 池田 最初に患者さんが感じる症状はどのようなものなのでしょうか。
 大森 それは人によって異なるのですが、両下肢の痛み、しびれ、違和感、腰の軽い痛みあたりから始まってくることが多いと思います。
 池田 歩行距離というのは、個人によって感覚が違うと思いますが、どのくらい歩くと痛みで歩けなくなるのでしょうか。
 大森 普通に散歩していたのにそれができなくなった。今までは30分歩けたのが10分ぐらいで足がしびれて歩けなくなるとか、軽い方はそれぐらいからちょっと変だなという感じを自覚される方が多いと思います。
 池田 今までとちょっと違うなという感じですね。そこで、たぶんうずくまったりして休むと思うのですが、そうするとまた歩けるようになるのでしょうか。
 大森 そうです。それが座って休むと腰が前屈になるので脊柱管が広がり、脊髄の血行が良くなって歩ける。それを間欠性跛行といいます。典型的な脊柱管狭窄症の症状といわれています。
 池田 少し痛みが取れて、また歩くというパターンですね。
 大森 そうですね。
 池田 自転車などはどうなのでしょうか。
 大森 自転車は乗っている姿勢が基本前屈位ですので、自転車は乗れるけれど歩けないというのが、脊柱管狭窄症の患者さんの典型的なサインになります。
 池田 なるほど、そういうことなのですね。黄色靭帯と骨の問題ということですが、原因はわかっているのでしょうか。
 大森 基本的には老化・変性で、特有の遺伝子が関与しているものではありません。
 池田 老化すると、誰でもなりうるということなのですね。
 大森 そうです。
 池田 患者さんがもし保存的な治療を望まれたら、どのようなことをするのでしょうか。
 大森 基本的には、まず保存療法から開始して、痛みがある場合は消炎鎮痛薬の投与、あとは神経障害疼痛に対する薬を出したり、血行を改善する薬剤を投与したりすることが多いです。
 池田 腰椎の罹患部位で症状が違ってくるということですが、その辺はどのような症状になっていくのでしょうか。
 大森 腰椎部では上位つまり頭側に近い方であるほど、狭窄症の症状がひどく出ます。標準的なのは4番、5番ですが、4番、5番であれば、だいたい大腿の外側や下腿の外側、足の後面あたりに症状が出てくることが多く、基本的には筋力低下までには至らないことが多いと思います。ところが上位腰椎部の1番と2番、2番と3番がひどい狭窄症になってくると、筋力の低下いわゆる太ももが上がりづらいとか、そのような症状が出てくることがあるので、上位のほうが危険な病態であるといえます。
 池田 上位で狭窄がひどくなると、例えば排尿障害、排便障害なども出てくるのでしょうか。
 大森 そうですね。最近なんだか排尿しづらいと泌尿器科に行ってみたら、泌尿器科では前立腺肥大ではなかったと診断され我々の所に来られてMRIを撮った結果、実は狭窄が強く、「そこが原因だったのだね」という症例もあります。
 池田 泌尿器科と整形外科と両方行くということになるのですね。
 大森 そうなります。
 池田 質問にもある内視鏡手術が適用となるケースとは、どのような症例なのでしょうか。
 大森 基本的には一カ所の狭窄が望ましいと思います。なおかつ、背骨の不安定性がない。背骨は安定している状態と不安定な状態があり、不安定な状態というのは、例えば分離すべり症や変性すべり症でいわゆる背骨がぐらぐらしているときには削りたす手術は望ましいものではないと思われます。
 池田 そうですか。逆に言いますと、そういう状態の場合、どうしても手術を望まれる場合は、いわゆる観血的手術になるのでしょうか。
 大森 観血的手術である、脊椎固定術という手術が適用になってくるときもあります。
 池田 骨と靭帯を削るだけでなく、プラス固定をしていくということですね。
 大森 そうです。
 池田 それでは、やはり内視鏡では無理ですね。
 大森 すべて無理というわけではないのですが、やはり内視鏡をやったとしても、しばらくしてすべり症がまた悪くなってきて、再手術になるという事例もありますので、その辺は術前の判断をしっかりしながら適用を決めていかなければいけないと考えています。
 池田 それで、幸いに内視鏡手術が適用となった場合、手術はどのように行われるのでしょうか。
 大森 手術は、基本的には全身麻酔で、手術時間は1時間~1時間半程度です。背中のほうから、罹患部位の後ろから内視鏡を挿入します。我々は脊柱管狭窄症に対しては直径10㎜の内視鏡を用いて、傷は10㎜です。後ろからまず骨を削り、神経を覆っている黄色靭帯が脊柱管狭窄症では厚くなっているので、それを切除し、神経の絞扼を解除するという手術です。
 池田 それと同時に椎体も削っていくのでしょうか。
 大森 椎体は削らないことが多いですね。それは前方になります。主に後ろの椎弓と黄色靭帯を削るという作業になります。
 池田 なるほど。やはりそちらの椎弓と黄色靭帯を削っていくのですね。それで起こりうる合併症には、どのようなものがありますか。
 大森 いろいろなものがありますが、内視鏡手術の一番多い合併症で一般的なものは術後の血腫です。基本的に内視鏡手術は死腔はとても小さいので、ドレーンを術後4日目に抜くのですが、それまでに十分に術後出血を出し切る、その後、抜いた後にやはり人間の体ですから、出血を起こします。その後に、狭い死腔に出血がたまると、退院されたときは非常に具合が良かったのに、術後10日程度で診たときに「両臀部と足の痛みが強いです」というようなことが起こりえます。
 池田 そういう場合、どのように対処されるのでしょうか。
 大森 まず、MRIで検査します。ある程度の血腫はどんな方にでも、もちろんあると思うのです。術後10日ぐらいでまずは消炎鎮痛薬を処方します。その経過を見ていくと大部分の場合は、一度退院され、血腫で再手術になる方はほとんどいません。長い方で術後血腫症状が2カ月ぐらいかかる場合もありますが、保存加療で痛みはだいたい消失していきます。
 池田 ほとんどの症例は保存的にやれば、術後に発生した痛みも取れてくるのですね。
 大森 そうです。
 池田 入院から手術、そして退院まで、どういうスケジュールになっているのでしょうか。
 大森 手術前日に入院していただき、2日目が手術です。全身麻酔で1時間~1時間半程度の手術を行って、手術中のみ、尿道にバルーンを挿入し、麻酔が覚醒する前にバルーンを抜去します。手術が終わった状態で背中にはドレーンしか入ってない状態で、それで部屋に戻って麻酔が覚めて、基本的には術後3時間で、離床していただきます。術後4日目にドレーンを抜去して、その日に帰る方もおられますし、その翌日に帰られる方もおられます。4泊5日もしくは5泊6日程度の手術入院になります。
 池田 それは短期間ですね。ドレーンを抜去したところは縫合してあるのでしょうか。
 大森 基本的には直径が非常に小さなドレーンですので、縫合はしません。
 池田 では、縫合してある横から抜去して終わりということですか。
 大森 そうですね。傷のほうも縫合していませんので、埋没の縫合はしていますが、その上にステリテープを貼ってあるだけです。
 池田 それでは、また抜糸のために来院する必要もないということですね。
 大森 基本的にはちょっと傷を見たいので一度来院していただいて、そのステリテープを剝がすのは我々の仕事になります。傷が大丈夫であることを確認してから、入浴してくださいと言っています。
 池田 なるほど。ステリテープを取ったあとの、例えば入浴や軽い運動ということになると、どのようなスケジュールなのでしょうか。
 大森 ステリテープを外した翌日から入浴が可能です。運動は基本的には術後1カ月待ってもらっています。
 池田 これは出血のリスクなどからでしょうか。
 大森 そうですね。やはり外は治っていても内部は血腫が溜まっていますし、激しい運動をされ、少しでも出血が起きたりして、血腫症状が出ると嫌なので、やはり1カ月は安静にしよう、必要なら散歩ぐらいにしてというかたちにしています。
 池田 なるほど。それは患者さんにとってすごくADL、QOLが保たれていいですね。これはほかの部位に再発して狭窄症が起こったりすることはあるのでしょうか。
 大森 背骨は何椎間もありますから、その部位が治癒しても、上・下にもともとあった狭窄が年齢を経て悪化して、その病態が出てくることはもちろんあります。
 池田 そういう場合は、やはりまた同じような、あるいは少し違った症状が出てくるのでしょうか。
 大森 それは罹患の場所によって症状は異なるので、「前とは症状の部位が違う」といった感じの訴えをされる患者さんもいます。
 池田 その後のフォローアップのスケジュールというのはどうなのでしょうか。
 大森 術後10日目、1カ月目、あとは調子が良ければ、術後1年。そこで終了にしています。
 池田 そこで終了なのですね。
 大森 はい。でも、調子が良かったら、術後1年来られない方もいますね。
 池田 それは患者さんの判断ということですね。
 大森 そうです。その辺はお任せしているのですが、一応予約は取らせていただいています。
 池田 ありがとうございました。