齊藤
これまで約半年以上にわたって内分泌疾患のシリーズを行ってまいりましたが、その中で幾つかはっきりとは決められない領域というのがありました。そういったところをピックアップして、小川先生にEBMとshared decision makingということで、まとめてお話しいただくことになっています。
今回はその中でも手術を選ぶかどうかという点で少しお話ししていただきたいのですが、まずは原発性アルドステロン症からお願いします。
小川
原発性アルドステロン症は頻度が高いですし、内分泌性の二次性高血圧の中で最もよく遭遇するもので、病型として片側性か両側性かを見極めることが重要です。両側性の場合は手術ができませんので通常は薬物治療、現在はミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が使われます。それで十分に抑えることはできると思うのですが、片側性の場合、片側性であることを確定診断するために、副腎静脈サンプリングをして、その上で実際、画像の情報と照らし合わせて片側性にアルドステロンが過剰分泌されていることを確認できれば手術をします。アルドステロン症は通常の高血圧と比べるとアルドステロンの作用で様々な合併症が多いので、厳格な血圧のコントロールが必要であり、手術によって根治できる高血圧であるという意味でも重要です。そういう意味では片側性の場合、手術をしたほうがいいと思います。ただ、患者さんの年齢や希望、高血圧の程度などのファクターを考慮して内服薬という選択肢もあります。その辺は患者さんにとって何が一番ベネフィットがあるのかという意味でshared decision makingが必要だろうと思います。最近では手術だけではなくて、ラジオ波で焼灼するという新しい方法も出てきています。時代とともに治療法も変わっていくので、患者さんの選択肢がいろいろあるという中で我々がどのように説明して、どの治療法を選択するのかが重要かと思いますね。
齊藤
年齢や性別、あるいは今の仕事を含めて総合的に考えるということでしょうか。
小川
そうですね。若い方で血圧のコントロールがなかなか内科的に難しいという場合は、長期的なフォローアップも必要ですし、手術をされたほうがいいと思いますね。
齊藤
いわゆるrandomized controlled studyで手術と薬を比べるような疾患ではないのですね。
小川
そうですね。発想としては皆さん思いつくことなのですが、なかなかそのような研究をするのは難しいことだと思います。やはり片側性にアルドステロンが過剰分泌している場合は、可能な範囲で手術をしたほうがよいと思います。
齊藤
副腎の非機能性腺腫はどうでしょうか。
小川
そうですね。CTやMRIなどで検査をすると、偶発腫として見つかることがあります。例えばクッシング症候群あるいはサブクリニカルクッシング症候群のようなホルモンを産生するようなものであれば、悪性のものでない限り、原則的に手術するべきです。髄質の褐色細胞腫などの可能性も念頭に置いて、非機能性の場合であれば、悪性かどうか、増大傾向があるかどうかなどを考慮して手術をするかどうか決定することになります。画像上悪性のものは、腹部CT検査では不均一であったり、石灰化がある場合などは、慎重にフォローする必要があり、可能であれば手術をしたほうがいいと思います。現在のところ腫瘍のサイズとしては4㎝が一つの基準ではないかと思います。4㎝を超える腫瘍は、諸々の検査の上で可能な限り手術をしたほうがいいと思います。腫瘍ではないものは、どれぐらいの頻度で、どのようにフォローするのかきちんとしたコンセンサスはないのですが、数年間ぐらいはCT検査を含めた画像検査、内分泌機能も年に1回ぐらいはホルモンの基礎値をチェックすることになると思いますね。
齊藤
甲状腺腫瘍、その中でも小さい甲状腺がんの場合はどうでしょうか。
小川
これもエコー検査で見つかることが多いですが、良性か悪性かの判別は重要です。通常はエコー下のFNA(穿刺吸引細胞診)によって、組織型を診断すると悪性腫瘍でも9割ぐらいは乳頭癌だと思うのですが、それは比較的進行が遅いことが知られています。癌の中でも比較的良性であり、明らかに画像上リンパ節が腫れているとか転移があるものは別として、組織学的に初めてリンパ節転移が検出できる場合は、手術をしてもしなくても再発率に差がないというデータがあると思います。
齊藤
日本からのデータなのですね。
小川
はい。兵庫県の隈病院、それからがん研有明病院からの大規模スタディで30年ぐらい前だったと思います。現在は、アクティブサーベイランスとして積極的に経過観察をすることが推奨されています。例えばサイズが3~4㎜程度大きくなっている場合、手術を含めて少し次のステップを考えるということがあると思います。日本で提唱されたものが国際的にも使用されており、甲状腺の全摘手術が必要ではない場合、特に高齢者は積極的な経過観察をしたほうがいいと思います。
齊藤
それから副甲状腺ですね。健診などでカルシウムが少し高い方がいらっしゃいますね。その辺はどうですか。
小川
カルシウムが高いときは、一応、副甲状腺ホルモンPTHを測定して、副甲状腺機能亢進症と判定できる場合、骨病変や尿路結石などがあれば、手術が必要でしょう。副甲状腺腺腫が8~9割ぐらいかと思いますが、問題は明確な症状がない場合ですよね。比較的高カルシウム血症で、PTHも少し高めで、副甲状腺から過剰にPTHが分泌されていても、症状がない場合は、しばらくは経過観察をしていくほうがよいと思っています。
高カルシウム血症がどんどん進まないかどうか。それから先ほどお話しした古典的な病変として骨病変や尿路結石、あるいは消化器症状といった症状が出てこないかどうかのフォローアップが必要です。生活習慣としてカルシウムを摂り過ぎないようにし、しっかり運動することが必要だと思います。
齊藤
なかなか難しい領域が出てきましたが、小川先生にまとめていただきました。今後の実地医家の臨床に、お役立ていただければと思います。