池田
MALT lymphoma、マルトリンフォーマについての質問ですが、このMALT lymphomaのMALTとは何なのでしょうか。
前島
mucosa associated lymphoid tissue lymphomaと、横文字で言うと長いのですが、粘膜に慢性炎症などで存在する粘膜関連リンパ球由来のlymphomaという概念です。小型Bリンパ球からなるB細胞リンパ腫の一つで、リンパ腫の5~10%を占めています。diffuse large B-cell lymphomaやfollicular lymphomaの次に多い亜型です。限局性や腫瘤が数個に留まるものが多いのですが、全身に広がることもあり、その場合には胃、肺、皮膚などのように、いわゆるMALT臓器というところを好んで点々と分布します。いずれにしても経過は緩徐です。
池田
緩徐なB細胞リンパ腫とのことで、このMALT臓器というのは、臓器自体にlymphoid tissueが付いているという考え方なのでしょうか。
前島
付いているという考えですが、あくまで仮説で、先ほど申し上げたように胃や肺、皮膚、結膜、甲状腺、唾液腺など、多岐にわたります。
池田
胃は内部にいろいろ細菌などがあり、皮膚は外に細菌がいますし、唾液腺なども分泌しながらいろいろな細菌が入ってきます。逆にいうと防衛線みたいなイメージなのでしょうか。
前島
そこに分布しているBリンパ球が、初めは炎症だったものが、そのうち腫瘍化したものがMALTリンパ腫というものです。
池田
好発部位はどのような臓器なのでしょうか。
前島
胃が圧倒的に多く3分の1ぐらいで、次に眼付属器といって目の周辺、結膜や眼脂肪織や涙腺といったところにできるのが24%、3番目が肺と唾液腺で各々11%、あとは皮膚、乳腺、直腸、甲状腺、胸腺などにも少し発生します。
池田
やはり、高齢者に多いのでしょうか。
前島
中高年が多いのですが、自己免疫疾患に関連したものや結膜MALTリンパ腫は若年女性にも見られます。
池田
いろいろな臓器で自己免疫疾患がありますが、そういった慢性炎症によって引き起こされるという考えですね。
前島
甲状腺、唾液腺、あと涙腺などは自己免疫疾患関連のものも多いです。
池田
なるほど。分泌腺のようなものですね。それで診断はおそらくフローサイトメトリーとなるのですが、これはどのように診断されるのでしょうか。
前島
私は病理医ですが、組織を5㎜角くらいに大きく取っていただくと診断は楽なのですが、最近は小生検とか針生検が多くて、小さいと難渋します。小型のCD20陽性B細胞が増殖していること、あとは病理の細かいことになりますが、CD5、CD10、cyclin D1といった、ほかのリンパ腫に陽性のマーカーが陰性であることを確認したうえでの除外診断をしている場合が多いです。病理のHE染色とか免疫染色以外にも検体量が多かったら、フローサイトメトリーやサザンブロット、PCR、Gバンドなどを補助的に行って総合的に診断しています。
池田
場合によっては、腫瘍の個数が少ないとか、あるいは取りにくいところがありますね。その場合は何回か繰り返し生検を行って、それで確定診断ということもあるのでしょうか。
前島
内視鏡生検や針生検で検体量が少ない場合は申し訳ないのですけれど、何度か生検をお願いしてやっと診断できるような場合もあります。
池田
それから除外診断ということで、先ほどの自己免疫性疾患やIgG4関連疾患に関連したりするもの、あるいはそれと似たように見えることもあるのでしょうか。
前島
特に甲状腺などでは常に難しいのですが、針生検などで出てくると慢性甲状腺炎なのかMALTリンパ腫なのかが難しい場面もあります。時々、涙腺などはIgG4関連疾患との鑑別を要するのですが、通常、IgG4陽性細胞がたくさんいれば、IgG4関連疾患かなとなるのです。非常にまれに、IgG4が陽性のMALTリンパ腫もあるので、そこは非常に診断が難しいところになります。
池田
その場合はやはり、多少なりとも検体を多めに取って、サザンブロットやPCRやGバンドなどをやっておくのでしょうか。
前島
それぞれの施設で得意としていたり、信用しているものを使っていただければいいのですが、私の施設ではフローサイトメトリーが早くて正確なので、それをだいたい行っています。
池田
各論になりますが、各臓器の話をうかがいます。胃ではどのような背景の方たちがなりやすいのでしょうか。
前島
胃のMALTリンパ腫はだいたいピロリ菌感染による慢性炎症を背景にして、そのうち腫瘍化して、MALTリンパ腫が発生するものが多いです。ごく一部、1~2割はAPI2-MALT1という遺伝子の転座によって起こるものもあるとされています。ピロリ菌感染によるものは、ピロリ菌の除菌をするとMALTリンパ腫自体も縮むことがありますが、API2-MALT1によるものは除菌してもなかなか小さくならない傾向にあります。除菌で8割程度の腫瘍が縮小するといわれているのですが、実際、我々の施設では除菌で腫瘍が消失するのは半分ぐらいです。残存がある場合には放射線治療やリツキシマブ単剤療法や経過観察で様子を見ることになります。
池田
非常にマイルドな治療なのですね。
前島
20年ぐらい前は胃全摘をしていたかもしれないですけれど、今はリツキシマブがあるので、だいぶマイルドな治療になったと思います。
池田
次に眼です。眼周囲にできるという、ちょっと恐ろしい話ですが、これはどのような症状になるのでしょうか。
前島
結膜や目の周囲の脂肪織にできると、腫瘤感があって、ゴロゴロして、小さいうちは邪魔だという程度ですけれど、大きくなると眼球が突出してきたりという症状になります。
池田
分泌腺ですので、IgG4関連疾患との鑑別がいるということですが、これはやはり生検とフローサイトメトリー、あるいはサザンブロットで鑑別していくのでしょうか。
前島
IgG4関連疾患は病理では線維化がはっきりあって、形質細胞が非常に多いということが重要で、IgG4陽性細胞が免疫染色で40%以上あるということで診断します。もちろん病理だけで診断できないこともあるので血中のIgG4の値と総合判断になりますが、生検をしていただければ、なんとか病理で頑張ると思います。
池田
眼の中のリンパ腫はMALT lymphomaであっても、また扱いが異なるのでしょうか。
前島
眼の周辺はMALTリンパ腫が多いのですが、眼内リンパ腫といって、眼球の中のリンパ腫は、中枢神経リンパ腫の一種という扱いで、組織型はdiffuse large B-cell lymphomaが多く、中枢神経リンパ腫としての治療になるので、全く別枠になります。
池田
そういうことなのですね。胃ならば、ピロリ菌ですが、眼は何か感染症によって起こるのでしょうか。
前島
眼は欧米ではクラミジア感染が関連しているといわれているのですが、日本人はいくら調べてもクラミジア感染が確認できず原因がわかっていません。
池田
この場合も、あまり強い治療はされないのでしょうか。
前島
腫瘤感が強くて邪魔だとか、眼球突出があるという人は放射線治療やリツキシマブ単剤療法を行います。放射線治療をすると白内障が必発になってしまうので、それが嫌だという方は経過観察も可能です。
池田
マイルドなのですね。そのほか、肺が11%ですが、どのような状態になるのでしょうか。
前島
肺は画像的には、すりガラス陰影で分化型腺癌に近いような画像になったり、充実性なのにairbronchogramがあるという特徴的な画像になるようです。中年女性に多いのですが、これも成因は明らかではありません。やはり経過観察やリツキシマブ単剤やRCHOP療法などが候補ですが、病変が1個とか2個の場合は外科的切除も候補になります。
池田
やはりいろいろな臓器にできるのですけれども、分泌腺ですね。甲状腺あるいは胸腺などにできた場合、なかなか鑑別が難しいのではないかと思うのですが、やはり病理学的に、例えば慢性甲状腺炎や胸腺の炎症などを鑑別していくのでしょうか。
前島
先ほども申しましたが、甲状腺や胸腺は、最近は針生検の検体が多くて、検体が小さいというのも、なかなか病理医泣かせなのですが、甲状腺は慢性甲状腺炎なのか、慢性甲状腺を背景にMALTリンパ腫が出ているのかという難しい鑑別になるので、診断が難しい場合もあります。胸腺は中年女性がほとんどで、半数はシェーグレン症候群の人に発生しています。なぜか、IgA産生性が多くて、IgAが高くなります。
池田
なるほど。やはり、これもアグレッシブなことはしないで、リツキシマブ単剤療法でしょうか。
前島
アグレッシブなことはしないで済むといいですね。胸腺は診断がつけば、マイルドな治療や経過観察にできるのですが、慌てて手術すると大掛かりな手術になってしまうので、やはり術前に診断がつくといいと思います。
池田
ありがとうございました。