ドクターサロン

池田

片頭痛治療について苦慮しているという質問なのですが、片頭痛の原因はわかっているのでしょうか。

飯ヶ谷

すべてが明確にわかっているわけではないのですが、研究がだいぶ進んできました。何らかの刺激から三叉神経の異常な活性化が起こって、神経原性炎症が生じ周辺に拡大して大脳皮質まで伝播すると、痛みとして知覚されることがわかっています。誘因として多いのはストレス、そしてストレスからの解放、ほっとした時に片頭痛が起こりやすいです。また、寝過ぎ、あるいは寝不足、天気が悪くなると頭痛が起こるという方もいます。あと、女性では月経の時に頭痛が起こりやすいという方もいます。それから、1つの遺伝子が定まっているわけではないのですが、体質が遺伝するようなかたちで、お母さんもおばあさんも同様だったということは少なくありません。

池田

片頭痛は人口のどのぐらいの方が罹患していると考えられているのでしょうか。

飯ヶ谷

大規模な疫学調査が行われていて、日本には8.4%の方が片頭痛持ちだということがわかっています。現在の人口で考えると約1,000万人とかなりの数の片頭痛の人がいることがわかっています。

池田

すごいですね。実際に自分が悩んでいても、受診されない方も多いのではないでしょうか。

飯ヶ谷

最近の調査では片頭痛の約6割の方は受診をしていないことがわかっています。しかしながら、片頭痛の痛みが非常に重度であると寝込んでしまったり、何回も吐いてしまったりして出勤できない、家事ができないなど生活に大きな影響をもたらします。片頭痛自体が繰り返す病気なので、片頭痛がある人はこれが当たり前だと思いがちですが、生活に支障が出ているようであれば、ぜひ受診して、医師に相談していただきたいと思います。

池田

片頭痛の診断基準はあるのでしょうか。

飯ヶ谷

はい、あります。片頭痛の診断基準は、拍動性で片側性の頭痛ですが、両側が痛いとおっしゃる方もいます。そして中等度から重度の痛みで、日常的な動作で痛みが増悪します。また吐き気や嘔吐あるいは光や音に敏感になるという症状のどちらかを伴います。そして持続は4~72時間でどんなに長くても3日を超える痛みではありません。

池田

でも、3日も続くのはきついですね。

飯ヶ谷

3日もこの状態が続くと本当に心身ともに消耗してしまいます。

池田

年代別ではどの方が罹患しやすいでしょうか。

飯ヶ谷

若い方に多いです。若い方は10歳より前に発症することもあるのですが、女性では月経が始まるぐらいの10代、そして20代、30代、40代と多くなってきます。片頭痛は一生ものの疾患ではありませんので、50歳過ぎ、これも閉経が終わるあたりぐらいから減ってきて、70歳を超えると「昔は頭痛がたいへんだったのよ」くらいの状況で、頭痛に苦しむという方が非常に減ってきます。一生ものではありませんが、学び盛り、働き盛りの時に非常に辛い思いをする疾患ですので、社会としても生産性を下げてしまう疾患です。

池田

鑑別にはどのような頭痛が挙げられるのでしょうか。

飯ヶ谷

頭痛の鑑別の大きなポイントは、まず危険な疾患を除外することです。頭痛は実は300種類以上に分類されますが、大きく分けると片頭痛のように、頭痛そのものが疾患である一次性頭痛と、くも膜下出血のように、何らかの疾患がベースにあってその一症状として頭痛が起こる二次性頭痛の鑑別をします。二次性頭痛の中にはいろいろなものがあり、くも膜下出血、脳出血あるいは脳腫瘍、髄膜炎、あとはお酒を飲んだあとの頭痛というのも二次性頭痛に入ります。危険な頭痛を除外して、そうではないというのがわかったのちに一次性頭痛の鑑別を行います。一次性頭痛の中に片頭痛、緊張型頭痛、まれですが、群発頭痛というものが入ってきます。

池田

診断基準に基づいて鑑別をして、片頭痛ということになると、治療はどのようにするのでしょうか。

飯ヶ谷

片頭痛の治療は大きく2つに分けて考えます。まさに頭痛の痛みのあるときに飲む急性期治療と、頭痛の頻度が多い場合、あるいは生活の支障が大きい場合には、予防療法というものを行います。この急性期治療の中で、最も有効性、安全性、そしてエビデンスが高いといわれているものがトリプタン製剤、そして最近では、ラスミジタンという薬が出ています。この2つを中心に、これらで不十分な場合は一般的な鎮痛薬、NSAIDsやアセトアミノフェンを併用したり、あと片頭痛で吐き気が出ることが多いのですが、胃腸の動きが非常に低下しているので、制吐剤を併用して対応します。

池田

具体的にトリプタン製剤とラスミジタンは、どのように使い分けるのでしょうか。

飯ヶ谷

ラスミジタンは、2022年6月に出たばかりで、まだ使われたことのない方も多いと思います。これまでは片頭痛の特効薬といえばトリプタン一択で、よく効くのですが服薬のタイミングが難しくて飲み遅れると効果が不十分であったり、脳血管障害や虚血性心疾患があると禁忌で飲めない人がいました。また、トリプタンの副作用で胸が苦しくなってしまうとか、効果はあるけど不快感があってなるべく使いたくないという方は、ぜひラスミジタンを使ってみるといいと思います。 ラスミジタンは、飲むタイミングによらず効果があるとされ、実際、トリプタンより好まれて継続している方もいます。ただ、ラスミジタンは眠気や眩暈が出ることがあるので、運転をする前には使わないようにしましょう。眩暈などの副作用は何回か使用していく中で体が慣れて起こりにくくなるともいわれており、1回の副作用で合わないと決めつけないことも大切です。

池田

なるほど。月経に関連するということも、今お話があったのですが、その月経を止めてしまうとか、そういったことも場合によってはあるのでしょうか。

飯ヶ谷

低用量ピルを使われる方は少なくないですが、エストロゲンを含んだ女性ホルモン薬は、片頭痛には要注意です。片頭痛は前兆があるタイプと前兆がないタイプの2つに大別されるのですが、前兆のある人にとって、女性ホルモン薬は原則禁忌になります。前兆のない人にとっても慎重投与ということで、安易に使うことができない薬剤になります。これはなぜかというと、やはり脳梗塞など血栓症のリスクが高まってしまうからで、必ず婦人科の医師に片頭痛があることを伝えておくことが大切です。月経の時の片頭痛は何を飲んでも効かない、治療抵抗性であることが多いのですが、そういう場合は、婦人科医ともよく相談して女性ホルモンを使用するか、リスクとベネフィットを十分に検討する必要があります。

池田

それから最後に、抗体製剤は期待できますか、という質問ですがいかがでしょうか。

飯ヶ谷

月経中の片頭痛がひどい方も良い適応になりますし、片頭痛で月3日以上、生活に支障をきたしたり、片頭痛が月2日以上ある人は予防療法の適用になります。この予防療法というのは、これまでは内服薬のみでした。しかも片頭痛のために開発された薬ではなくて、てんかん薬や抗うつ薬だったものを片頭痛にも効くから、ということで認可されて使っているという背景がありました。しかしこのたび、抗CGRP関連抗体薬が日本でも使えるようになりました。これは片頭痛のメカニズムに即した薬で、有効性と安全性が確認されているので、月4日以上片頭痛があってこれまでの予防治療が効果不十分だった方は試されてみるとよいと思います。月1回皮下注射で投与する薬です。

池田

一度始めて、いつまで続けるか、あるいはこのまま続けていいのかという判断はどのようにするのでしょうか。

飯ヶ谷

まず3回は続けていきましょうと始めます。それで効果あるいは副作用の状況を判定して、良ければ継続するということで、半年あるいは1年、中には1年半続けている方もいます。半数以上の方が頭痛の頻度や程度が半減します。1~2割の全く片頭痛が起こらなくなっている方は「やっぱり続けたい。あの生活に戻りたくない」とおっしゃって続けることを選択されたりします。一方では、こんなに良くなったから1回やめてみようと、やめられる方もいます。やめてみて、しばらく全然頭痛が来ないで数カ月経過される方、中には1年落ち着いているという方もいます。ただし、3、4カ月でまたぶり返してしまう方もいて、そういう場合は、抗CGRP関連抗体薬の投与を再開しています。 この抗CGRP関連抗体薬ですが、現在、日本で3種類あります。いずれも同程度の効果がありますが、人によって相性に違いがあります。費用はいずれも1本1万3,000円前後で毎月1回投与します。中には早い効果の立ち上がりを期待して初回のみ2本投与するものもあります。効果と副作用を確認後、継続する場合は在宅自己注射も可能となりますし、1度に3本投与して3カ月ごとの投与が可能なものもあるので、その方のライフスタイルに合わせて選択をしています。3カ月投与して効果がいま一つであれば、スイッチをして、別の抗体製剤にしてみる。そうすると前より良かったという場合もあるので、いろいろ試すことも可能ではないかと思います。

池田

新しく出た抗体製剤をいかに使って、患者さんの痛みを取っていくか、これからの課題がまだあるようですね。ありがとうございました