池脇
循環器内科には健診の心電図異常で精査依頼がけっこう来ると思いますが、どういう心電図異常が多いのでしょうか。
淀川
私は、日本医科大学の附属病院で外来をやっていまして、普段はどちらかというと開業医からの紹介が多いです。例えば、期外収縮などは開業医のほうで処置されることが多いのですが、今、心電図異常に関して一番多いのがブルガダ症候群の紹介で、特に若年男性の無症状のブルガダ心電図がかなり多いです。これはガイドラインではD判定で要精査になるので、開業医を受診されて、そちらから精査が目的で紹介されることが多いです。
池脇
先生の解説を聞いて、2つの驚きがありました。まず、期外収縮は開業医で、例えばホルター心電図まで行ったうえで、何か気になるところがあったときに初めて専門医のところに紹介されるのですね。原則、開業医でそこまでやっているのですね。もう一つ、ブルガダ心電図は突然死があるので、簡単に大丈夫といえないこともあって、D判定であれば循環器内科に紹介という流れなのだと思いますが、そのようなケースはけっこう多いですか。
淀川
最近、開業医からの紹介が多い気がします。
池脇
それは若い方で失神の既往もなければ、家系内に突然死の方がいなくても、やはり一度専門医に診てもらおうと、精査で来られるのでしょうか。
淀川
おっしゃるとおりで、今のガイドラインでは失神歴と家族歴がなければ経過観察という方針になるのですが、ご自身で判断することがなかなか難しいところもあるようなので専門医に紹介いただくことが多いですね。
池脇
最前線で診ておられる開業医にとっては、きちんとチェックしたうえでないと大丈夫といえない気持ちは十分わかりますね。
淀川
そうですね。
池脇
期外収縮、ブルガダ心電図以外に、例えば質問のT波のケースなどの異常で来られる方というのはどうなのでしょうか。
淀川
例えば、異常Q波やT波陰転が虚血性心疾患を示唆する所見で紹介される方もけっこういます。そういった場合は心エコーや冠危険因子を評価したり、場合によっては運動負荷や冠動脈CTで精査を進めています。
池脇
私も健診のチェックは時々やっていますが、たしかに、異常Q波というのは時々ありますね。比較的若い方でほかのコロナリーリスクもないけれども、一応念のためにということで、循環器専門医にコンサルトする、ブルガダ心電図ほどではないにしても、やはり念のためという感じで来られることが多いのでしょうか。
淀川
そうですね。異常Q波は要精査になるので、開業医から虚血性心疾患の精査依頼でご紹介いただくことが多いです。
池脇
最初に健診の心電図異常を見た医師がどういう状況で判定されるのか。例えば、今の異常Q波でしたら、虚血による陳旧性の心筋梗塞となると、それなりのコロナリーリスクを持っているかどうかも併せて判定してもいいような気がしますが、今はどのようになっているのでしょうか。
淀川
おっしゃるとおり、あとは自覚症状ですね。胸部症状と冠危険因子と心電図を複合的に評価してというところだと思います。例えば、循環器のクリニックと一般内科クリニックで、少しその辺が違ってくるかなというところがありまして、循環器の開業医だと、ある程度、自分のところで心エコーなど必要性の高い疾患の検査を選択して紹介していただくかたちになります。
池脇
確かに、心エコーがあれば異常Q波は、本当に陳旧性のところがあるかどうか、そこできちんと動いていれば、これは大丈夫だという判定になるのですね。
質問のまず1つは、Ⅱ、Ⅲ、aVFのT波の平低化です。部位にはちょっと下壁あたりにそれまで特になかった異常が、今回の健診で出てきました。自覚症状がない状況でも要精査なのでしょうか。
淀川
非常に難しいところですね。日本人間ドック学会のガイドラインでは平坦のT波だけだと症状がなければB判定で、経過観察でも問題ないということです。ただ、その前からの変化については記載がなくて、確かに、今までしっかりしたものが突然平低化していると、無症状でも何かイベントが起きた可能性があります。冠危険因子、例えば脂質異常、喫煙などのリスクファクターの兼ね合いで、場合によっては精査に踏み切ってもいいかと考えています。
池脇
確かに日本人間ドック学会の判定基準の基本はそのワンポイントで、経時的なものがたぶん想定されていないのです。それまで問題なかったのに突然出てきたとなると、これは大丈夫でしょうとは、なかなか言い切れないですね。これが何か心臓の異常に起因しているとすると、どういうことが考えられるのでしょうか。
淀川
まず、第一は虚血性心疾患だと思います。あと、低カリウム血症が教科書的な代表だと思います。
池脇
電解質、カリウムはその部位がこういうところに限局ということもあるのですか。
淀川
比較的、平坦化なカリウムの出やすい部位だと思います。
池脇
そうすると、これは採血してカリウムのチェックが必要になりますね。
淀川
そうですね。
池脇
虚血の場合、本当に心筋梗塞までいってしまえば、エコーでもわかるでしょうが、虚血の場合はなかなかそれがわからないとなると、ほかの検査が必要になりますね。
淀川
そうですね。心エコーあるいは運動負荷試験も状況によっては必要になってくると思います。そこで、冠危険因子の評価というのもやはり必要かと思います。
池脇
自覚症状がなくてもこれはきちんと見ておいたほうがいいのですね。詳しく問診すると、意外と動いたときにどうも調子が悪い、ということが出てくるかもしれませんね。
淀川
おっしゃるとおり、問診も重要だと思います。
池脇
質問はT波の平低化ですが、陰性T波というのも心電図異常で出てくるものの1つだと思います。この扱いはどうなのでしょうか。
淀川
実は陰性T波の中の平坦T波は、日本人間ドック学会のガイドラインではワンポイント上がります。C判定あるいはD判定で、STの変化も含めると要精査になり、こちらのほうが症状がなくてもより積極的に精査が必要という判断だと思います。
池脇
STが低下するのも、心電図の所見として時々出てきますよね。これも、すべてが虚血ではないのだろうと思いますが、判定した医師はその後どのように処置したらいいのでしょうか。
淀川
難しいところだと思いますが、ストレイン型のST低下だと左室肥大、高血圧で左室肥大でSTが下がって、T波もそれに伴って陰転化することが多いと思うのですが、それプラス虚血性心疾患だと思います。まずは、心エコーと高血圧歴を評価していくことになると思います。
池脇
心電図だけの情報ではなくて、ほかに高血圧があるかどうか。健診ですからそういう情報を総合的に判断して精査にいくか様子を見るか決める感じなのでしょうか。
淀川
おっしゃるとおりだと思います。
池脇
最後に、あまりないかもしれませんが、徐脈や頻脈で精査ということはどうでしょうか。
淀川
脈だけですと、安静時に100を超えてくるなどがない限り、精査で紹介されることはあまりないですね。
池脇
本人の自覚症状と併せてということなのでしょうか。
淀川
はい。あと極端な徐脈などがなければ、それで紹介されていくことはあまりないですね。
池脇
どうもありがとうございました。