英語で2㎎を読む時、皆さんはどのように読みますか?
日本では多くの方がtwo milligramと読みますが、正しくはtwo milligramsとなります。意外と知られていませんが、数字が1以外の場合、その単位は複数形となるのです。ですから1㎎の読み方はone milligramですが、2㎎や0㎎はtwo milligramsやzero milligramsのように、単位が複数形になるので注意してください。
では0.5㎎はどうでしょう? これも数字が1以外ですのでzero point five milligramsのように単位が複数形になります。しかし0.5にはzero point five以外にも読み方があります。数字の0は、アルファベットのOに似ているため、oh point fiveのようにも読まれます。ただ小数の場合、この0自体が省略されたpoint fiveのような読み方がよく使われます。したがって学術集会のような場面でも0.5㎎はpoint five milligramsのように読まれるのが一般的なのです。
では数字に関する読み方をもう少し見ていきましょう。
「分数」fractionのうち、1/2はa halfとなります。そして1/3や1/4のように分子が1の場合、分母は単数形となり、one thirdやone quarterのように読まれます。しかし2/3や3/4のように分子が複数の場合、two thirdsやthree quartersのように分母も複数形となります。また3½のような「帯分数」mixed fractureの場合、three and a halfのようにandも必要となります。
多くの日本人が√5をroot fiveと読みますが、これは英語のsquare root of fiveから生まれた和製英語です。日本ではfiveの直前のrootだけを残していますが、英語では逆にrootのほうが省略され、square of fiveと読みます。ですから3√27もcube root of twenty sevenを省略したcube of twenty sevenと読みます。
では102や109のような乗数はどのように読むのでしょう?
102と103はそれぞれten squaredとten cubedとなりますが、104からはten to the fourth powerやten to the power of fourのような読み方になります。ですから109もten to the ninth powerやten to the power of nineのような読み方になります。
日本でも当たり前に使われている記号にも、英語での正しい読み方が知られていないものが数多くあります。
日本では>を「大なり」と、そして<を「小なり」と読みますが、英語では>をgreater thanと、そして<をless thanと読みます。ですから「以上」「以下」を表す≧と≦という記号は、それぞれgreater than or equal toとless than or equal toと読むのです。そして多くの日本人に誤って認識されている記号として±というものがあります。日本語ではこれを「プラスマイナス」と読みますが、英語での読み方ではplus or minusのようにorが必要になりますので、知らなかった方はぜひ覚えておいてくださいね。
数字と記号の読み方と言えば、血圧の読み方もあまり知られていない印象があります。たとえば128/86㎜Hgは、英語ではどのように読むのでしょう?
一般的に数字の128はone hundred twenty eightやa hundred twenty eightのように読みます。ただし口語では10の位の前にandを入れることが多いため、128はone hundred and twenty eightやa hundred and twenty eightのように読むことが一般的です。しかし血圧の場合、128は簡略化してone twenty eightのように読みます。そして収縮期血圧と拡張期血圧を区別する/という記号はoverと読みます。したがって128/86はone twenty eight over eighty sixのように読むのです。そして血圧の単位である㎜HgのHgは「水銀」でmercuryと読みますので、㎜Hgはmillimeters of mercuryのように読みます。ただしこのofは省略される場合が多く、実際にはmillimeters mercuryのように読まれることが一般的です。したがって128/86 ㎜Hgの英語での読み方は、one twenty eight over eighty six millimeters of mercuryやone twenty eight over eighty six millimeters mercuryとなるのです。
また英語での「略語」に関しても、読み方に注意が必要なものがあります。
それを正しく理解するためにも、まずは「略語」という表現自体を英語で何と言うか、確認しておきましょう。
実に多くの人が「略語=abbreviation」と考えていますが、これは正しいのでしょうか? 英語のabbreviationとはdoctorをDr.のように短く表記する方法を意味します。日本だけでなく、英語圏の医療者もchronic obstructive pulmonary diseaseをCOPDのように省略して表現することをabbreviationであると誤解していますが、このように各単語の頭文字をそのまま読み上げるCOPDやSLEのような表現は、正確にはinitialismと呼ばれます。ただ英語圏でもこのinitialismという概念を正しく理解している医療者は非常に少なく、本来はinitialismであるものをabbreviationと理解している医療者の方が多数派になっているのが現状です。
ただ略語の中には新たな読み方が与えられるものもあり、それらはacronymと呼ばれます。「逆流性食道炎」gastroesophageal reflux diseaseの略語はGERDですが、これは「ガード」のように新たな読み方が与えられているので、このGERDはinitialismではなく、acronymということになるのです。
GERDのように日本語の会話の中でも使われているようなacronymなら問題はないのですが、日本と英語圏で使われ方が異なるものがあるので注意が必要です。「経皮的冠動脈インターベンション」であるpercutaneous coronary interventionの略語はPCIであり、その読み方は英語圏でも「ピー・シー・アイ」のようになるので、このPCIはinitialismとなります。これに対して「冠動脈バイパス手術」であるcoronary artery bypass graftingの略語はCABGであり、その読み方は日本では「シー・エー・ビー・ジー」のようになりますが、英語圏では野菜の「キャベツ」であるcabbageのように発音するので、このCABGはacronymとなるのです。
このように略語自体がほかの英単語として使われる場合、その略語はacronymとなる傾向があります。「院内肺炎」と「市中肺炎」を意味するhospital acquired pneumoniaとcommunity acquired pneumoniaの略語はそれぞれHAPとCAPになりますが、そのどちらにもhapとcapという英単語が存在するため、これらはacronymとしてそれぞれ「ハップ」や「キャップ」のように読まれます。
また日本の医療現場には、英語圏では通用しない略語も存在するので注意が必要です。
日本の医療現場では「上部消化管内視鏡」upper GI endoscopyにGIFという略語を使いますが、これは完全な和製英語です。upper GI endoscopyの略語としてはesophagogastroduodenoscopyの略語であるEGDがよく使われます。これは「イー・ジー・ディー」と読まれるinitialismであり、spell outしたesophagogastroduodenoscopyが使われることはほとんどありません。
そして日本の医療現場では「高血圧」hypertensionの略語としてHTを使っていますが、これも同じく和製英語です。英語圏でのhypertensionの略語はHTNですので注意してください。ただこれを「エイチ・ティー・エヌ」と読むことはなく、そのままhypertensionと読みます。これと同じように、読む際に略さないものとして、カルテで記載されるHeart: RRR, no m/r/gのような表現があります。これはHeart examination revealed regular rate and rhythm, no murmurs, rubs, or gallopsを意味し、読む際もそのまますべて読み上げるのが一般的です。
このように英語を読む際には「こう読むはずだ」と思い込むのではなく、「実際に英語圏ではどう読まれているのだろう?」という疑問を持って、その表現が英語圏でどのように読まれているのかを確認するようにしてくださいね。
知って楽しい「
第22回 読み方に注意が必要な英語表現
国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター教授
国際医療福祉大学国際交流センター成田キャンパスセンター長
国際医療福祉大学大学院「医療通訳・国際医療マネジメント分野」分野責任者日本医学英語教育学会理事
押味 貴之 先生