ドクターサロン

 大西 日常臨床にひそむ内分泌疾患のシリーズを槙田先生に企画していただきましたが、非常に充実した内容でたくさんのお話を聞くことができました。全体を通して何かご感想はありますか。
 槙田 ありがとうございます。今回を含めて37回のシリーズとさせていただきましたが、その分野のトップランナーの先生方のお話をたくさんうかがい、改めて内分泌疾患の奥の深さを感じることができました。
 大西 広範囲な内容で私もたいへん勉強になりました。
 槙田 ありがとうございます。
 大西 私の若いころは、内分泌の専門医がたくさんいらした記憶があるのですが、その後、時代の流れで内分泌の専門医が減ってきて、糖尿病の専門医がずいぶん増えた印象ですね。その辺りの状況は、どのようにお考えになっていますか。
 槙田 本来は糖尿病も内分泌疾患の一つです。内分泌疾患を一言で申し上げますと、ホルモンの作用や分泌の過剰、あるいは低下によってきたされる疾患で、糖尿病もインスリンの分泌あるいは作用の低下による疾患と考えれば、本当は内分泌疾患の一つなのです。しかし糖尿病は国民の6人に1人が罹患するリスクのある疾患で、その領域に従事する医師が多くなっているのは、ある意味必要で当然のことだと思います。ただ本来、内分泌はこれだけ広い領域であるはずなのに、一部のマニアックな専門家だけが行っているというイメージがあり、残念なことだとこれまで思っていました。
 大西 全体のタイトルにあるように、日常臨床にひそむところがポイントだと思うのですが、たまたまなにかの画像検査で引っかかったり異常が見つかったりすることもしばしば経験すると思います。その辺りはどのような状況なのでしょうか。
 槙田 今回は3つのパートで企画を組ませていただきました。そのうちの最初のパートはまさに先生がおっしゃる、いわゆる古典的な内分泌疾患、私が研修医や学生のころに学んだ疾患の中で、ホルモンの値がちょっと高い、あるいは低いことによって起こってくる病態が実はとても大事だということについて教えていただきました。例えば高血圧の10%を占める原発性アルドステロン症という疾患についてもお話しいただきましたが、昔の典型的なイメージでカリウムが低いというものでも決してなくて、腫瘍が見つからなくてもそれを放置しておくと、高血圧プラスアルファの作用で臓器異常が起こってくるということから、やはりこれを拾い上げていく必要があるということ。また、例えば甲状腺機能低下症についても通常私たちが正常と考える機能が、妊婦さんにとっては相対的に足りないという、そういった考え方の変革が今、問題となっているのかと考えています。
 大西 このシリーズのテーマの隠れた内分泌疾患を見つけるコツは、どのようなところにありますか。
 槙田 まずはやはり内分泌を愛している、大好きっていう気持ちかなと自分では思っています。
 大西 いろいろな疾患を見たときに一度は内分泌疾患が隠れているのではないかと疑わなければいけないこともあると思うのですが、例えばどういった病態でそういうことがありますか。
 槙田 今回の企画のもう一つの柱ですね。例えば高血圧、糖尿病、骨粗鬆症などのよくある疾患ですが、それはもちろん、本態性の高血圧かもしれないし、2型の糖尿病かもしれないですけれど、その背景にホルモンのちょっとした異常があって、そういった疾患を修飾している可能性は十分にあります。最初にそういった疾患を見たときにホルモンの異常も考えるという眼差しが大事だと思っています。
 大西 高脂血症があっても一度くらい甲状腺を測ったほうがいいかなと思いますが、いかがでしょうか。
 槙田 おっしゃるとおりだと思います。
 大西 そういう対応が重要だということですね。あとは、様々な診療科とかかわるような病態もあるので、救急の状態などについて教えていただけますか。
 槙田 糖尿病ももちろん、いろいろな合併症があり、いろいろな診療科とのコミュニケーションが必須だと思うのですが、私は内分泌疾患もまさにそうだと思っています。先生がおっしゃったように内分泌にも緊急症、クリーゼという病態、特に副腎クリーゼという病態があります。これは緊急で対応しないと致死的になってしまうのですが、その背景にはどの診療科でも使う副腎皮質ホルモンであるプレドニゾロンによって起きる医原性の副腎不全が隠れていることも多いです。実は飲み薬だけでなくて、皮膚に塗る副腎皮質ステロイド薬や吸入薬、あるいは関節に注射するものも含みます。
 また、今回は副腎腫瘍や副甲状腺腫瘍の話もいただいたのですが、その背景に遺伝学的な疾患が隠れているかもしれないという眼差しも大事かと思っています。また、更年期というと、どうしても女性のイメージがあるのですが、実は男性にもあるというLate-Onset Hypogonadismの話もうかがいました。女性のアスリートの方たちに摂食障害や、無月経や月経困難症などの問題が起きるのですが、一般の女性にも起こりうるというお話をうかがって、私もとても勉強になりました。 私たちの分野では、がんと内分泌疾患が今まで交絡することはなかなかなかったのですが、免疫チェックポイント阻害薬が登場して、内分泌障害が隣り合わせになり、そこも注目すべきところだと思います。
 それから、診療科縦断的という言葉を使わせていただくと、小児科からの内分泌疾患を持った患者さんのトランジションの問題だったり、あるいは今のがんの治療が奏効して、がんは良くなるのだけれども、子どもたちが大きくなっていくにしたがって、いろいろな内分泌障害を抱えていくといった問題が今とても重要であることを認識しました。
 大西 今後の専門医制度のあり方についてご意見をうかがいます。糖尿病代謝科には、なかなか内分泌疾患を頼みづらいことがあったりします。できれば内分泌代謝糖尿病専門医がうまく育ってくれればいいなと、常々思っているのですが、今後のあり方について、先生の考えをお聞かせください。
 槙田 ありがとうございます。そのように思っていただける医師がおられるだけで、私たちは心強く思います。今、私たちの分野に限らずどの分野においても大きな動きの一つとして、専門医のあり方の問題があると思います。これまで専門医というと学会主導でいろいろな学会がいろいろな専門医を乱立させていたという状況が国民にとって非常にわかりにくいということで、2014年に日本専門医機構が発足し、専門医制度が試行錯誤で変わってきたところです。私たちの分野では内分泌学会が内分泌代謝専門医、糖尿病学会が糖尿病専門医の2本立てで、2つの専門医を持っている方もたくさんおられるのですが、どちらかに重点を置かれる医師が多かったように思います。紆余曲折はあったのですが、昨年、内分泌代謝糖尿病内科専門医というのが、専門医機構に正式に承認されました。私も試験監督に立ち会ったのですが、この春、新専門医第一号が誕生しました。
 大西 それは今後心強いですね。
 槙田 そうなのです。この内分泌代謝・糖尿病内科専門医というのは、国民にとっても内分泌と糖尿病、実は同じ分野、領域の疾患であるということが、呼称を見ただけでわかるということ、私たち医師にとっても内分泌疾患も代謝疾患も糖尿病も、みな一緒に見ることができるという意味で非常に誇りを持つことができます。
 大西 総合的な視野を持って、それぞれの専門を深めたような医師になってほしいという趣旨の制度ではないかと理解しています。
 槙田 ありがとうございます。これから若い医師に領域の魅力を感じてもらって、たくさんの人たちに入門してもらう。そうすることでこの領域が発展し、今回のテーマであった隠れた内分泌疾患を拾い上げ、幅広い診療科横断的な内分泌疾患をカバーし、いろいろな領域の医師とコミュニケーションをとることで未来の医療に貢献していけるのではないかと思います。
 大西 糖尿病と内分泌、両方をきちんとみられるような医師が育っていただけると非常に心強く、先生方もやりがいがあってカバーする領域が増えるのではないかと思うのですが、その辺の未来像はどのような感じですか。
 槙田 今までは糖尿病と内分泌がある意味、学会レベルで分かれていたところがあったので、それを1つに融合していって、どちらも同じように診られる医師が望まれているのかなと思います。
 大西 患者さんにとっても非常にありがたいことですね。どうもありがとうございました