齊藤 小児期発症の内分泌疾患とトランジション、移行期医療ということでうかがいます。
内分泌疾患では、どういうものが多いのでしょうか。
長谷川 一番多いのは糖尿病です。しかし、1型の糖尿病は代謝疾患であり、純粋な内分泌疾患といっていいかどうかわからないと考える方もいると思います。仮に1型糖尿病を外しますと、内分泌臓器の広範にわたって、下垂体機能低下症、甲状腺の先天性の疾患、副腎の先天性の疾患、21水酸化酵素欠損症などが一番有名、かつ頻度も多いと思います。それ以外に小児期特有なものとして、成長障害があります。低身長が問題になって病院に来る疾患は多岐にわたります。代表的なものの一つがターナー症候群です。我々が治療して生涯にわたって内分泌的なフォローアップが必要な疾患です。こういったものが代表的なものといえると思います。
齊藤 糖尿病は糖尿病の専門医がたくさんいますが、内分泌疾患の専門医は少ないですから、なかなか難しいそうですね。
長谷川 そうですね。内科医で内分泌疾患を小児期から発症しているケースはあまり見たことがないという方、経験が少ない方も少なくないと思いますので、小児科の我々と一緒に協力しながら行いたいと思っています。
齊藤 下垂体ではどういう疾患が多いのでしょうか。
長谷川 下垂体は圧倒的に鞍上部の腫瘍で下垂体・視床下部障害が前景に出て見つかるような子どもたちで治療が必要です。脳腫瘍の治療前、あるいは治療に伴って複合型の下垂体機能低下症が合併します。その治療の基本は補充治療ですので生涯にわたります。
齊藤 下垂体というと、副腎、成長ホルモン、甲状腺、あるいは性腺など、様々なものがありますか。
長谷川 そうですね。それに、あと一つ加えると臨床的マネジメントが比較的難しい尿崩症も入ります。
齊藤 それからもう一つ、副腎関連ではクライシスもあるのですね。
長谷川 そうですね。急性副腎不全は緊急事態がありえる疾患単位です。今は在宅自己注射で副腎皮質ホルモンを注射で打つようなことも保険適用になっているので、緊急性は極めて高い疾患の一つといえると思います。
齊藤 甲状腺については、赤ちゃんのときにスクリーニングをするのですね。
長谷川 生後数日でスクリーニングをして、見つかる方の半分程度が生涯とおして補充療法を必要とします。そういった方は成人期になっても甲状腺ホルモンを飲んでいただくことになります。
齊藤 甲状腺ホルモン補充は比較的やりやすいですか。
長谷川 そう思います。成人の橋本病を中心に診ている医師、甲状腺に少し経験がある医師がいれば、先天性の発症であっても、その投薬の調整の仕方は全く同じですので決して難しくないはずです。
齊藤 それから副腎はどうですか。
長谷川 一番多いのが21水酸化酵素欠損症です。先ほど先生にお話しいただいた新生児スクリーニングで全例見つける努力をしていて、やはり2万人に1人ぐらいの発生頻度であることから比較的多いといえます。2万人に1人だと、今は年間80万人生まれますので毎年40人出るという勘定です。
齊藤 これも補充療法ですか。
長谷川 原則ホルモン補充療法です。糖質コルチコイドと必要があればミネラルコルチコイドを投与する治療になります。これもlifelongで生涯必要になります。
齊藤 それからの低身長を特徴とするものがありますか。
長谷川 先ほどちょっと申し上げたターナー症候群ですが、ターナー症候群は女性特有の染色体異常、代表例は45,Xという核型です。それ以外にそれに準じる核型の方が低身長あるいは性腺機能低下症で我々の外来に来ます。低身長は小児期に成長ホルモンで治してあげることができるのですが、性腺の補充が必要な方は閉経年齢まで続きます。それに加えて、成人特有の合併症が、ターナー症候群で知られており、そのマネジメントも一生の中では非常に大事なことになります。
齊藤 ターナー症候群の成人の症状には、どういうものがあるのですか。
長谷川 一番頻度の多いものとして、性腺機能低下症のために、ポストメノポーザルオステオポローシスと同じような背景で骨粗鬆症が起きてきます。そのほか、頻度は非常に少ないのですが、緊急性が非常に高いものとして大動脈拡張、大動脈解離を合併しうるといわれています。特にもともと心疾患の合併の多いターナー症候群の方は、定期的なフォローアップが極めて重要になりますので、内科医にお願いするときには一緒にやらせていただく、あるいはお願いしています。
齊藤 それから、性腺はどうなのでしょうか。
長谷川 性腺疾患については、性腺ホルモン補充を必要とするような疾患が全部対象になり、今お話ししたターナー症候群も実はその一部です。そのほか、現在、増えているものはがん治療を小児期に行った方がその治療の合併症で性腺機能低下症になる場合です。そういった方が性腺疾患では一番多いです。今、がん治療がどんどん進んでいまして、白血病でも80、90%以上の5年生存率があるので、その分、合併症がより問題になっているのが現状です。そのがん治療に伴う合併症の中で最も頻度の高いものの一つが内分泌合併症です。その性腺機能低下症は、lifelongな治療が必要になりますので、我々、あるいは内科医がカバーしなければいけないと認識しています。
齊藤 これは性腺ホルモンの補充をするということですか。
長谷川 はい。それに伴ってオステオポローシスがもし出てくれば、すでに内科医がしてくださっていることですが、それにさらに何か治療を追加するということが、比較的よくあることです。
齊藤 このように、たくさんあって、なかなか難しいということが一つ。それから、成長していくお子さんへこういったことを教育して、知ってもらっていくことが重要なのでしょうか。
長谷川 先生のおっしゃるとおりです。発症、診断したときから順番に成人年齢になっていくわけです。その各年齢ごとで理解できる範囲は違いますが、その節目節目で発達のステージに応じて自分の体質であったり、どういう治療をしているのか、どういうときが緊急で病院に行かなくてはいけないのかみたいなことを順番に理解していただきたいです。それを理解したうえで、なるべく健常の方と近い生活を享受していただくことが我々の願いですので、そうした疾患の理解がある程度できたところで内科にいっていただきたいと、我々は考えて診療しています。
齊藤 病気の治療もたいへんですが、人間教育というか、成長を幅広くサポートするところがたいへんですね。
長谷川 そうですね。サポートといえばサポートなのですが、もちろん我々が患者さんと接しているのは本当に短い時間だけです。診療の時間では、本人とその家族との中で、我々がどういったことを大事にしてほしいかというエッセンスを伝え、家族でそういった方向を意識して、いろいろなことをやっていただくことを下支えするというか、サポートすることを気をつけているつもりです。
齊藤 短い臨床の診療時間ではなかなか難しいのですが、今は、リモートができるようになってきましたね。そういうことも取り入れていくのでしょうね。
長谷川 そのとおりです。実際、我々の病院は遠くから来る患者さんもおられ、そういった方は、ちょうどコロナがきっかけで、例えば北海道からリモートで話をするようなことが実際システムとして動き始めています。対面と同じかどうかはわからないのですが、かなり近いことができます。明確に時間およびお金の節約にはなりますので、そういった方向性は今後広がっていくのではないかと思われます。
齊藤 成人になった患者さんを診ている先生へメッセージはありますか。
長谷川 我々はお願いする立場なのですが、ぜひ小児科の医師と協力して、先天的あるいは小児期早くに発症、生涯にわたって治療が必要な方を、一緒に診療させていただきたいというのが一番強いメッセージです。先生方にお願いしたい方が少なからずいるんだ、ということをまず内科医と共有したいです。
齊藤 内科医も非常にチャレンジングではありますが、小児科医とよく協力してみていく、ということでしょうね。
長谷川 たくさんの成功例、あるいはうまくいかない症例から我々は多くのことを学んできました。きちんと準備しておけば、お互いの協力関係を築いていくことは、たぶんそんなに難しくないと思います。
齊藤 ありがとうございました。
日常臨床にひそむ内分泌疾患と最近の話題(Ⅺ)
横断的診療⑨ 小児内分泌疾患とトランジション
東京都立小児総合医療センター内分泌・代謝科
長谷川 行洋 先生
(聞き手齊藤 郁夫先生)