ドクターサロン

 池脇 思春期の女性の摂食障害の質問をいただきました。若い子も含めて、自分の容姿にすごく敏感なのは、たぶん、以前からだと思いますが、最近の傾向として、そういうものに対する過剰な意識というのがなんとなく高まっている感じがするのですが、どうなのでしょう。
 鈴木 日本の女性は20~50歳代まで、世界の女性の中でも痩せ率が飛び抜けて高いです。経済的に豊かになれば、肥満が増えるにもかかわらずです。親世代が容姿健康志向で痩せ気味という環境の中で、子どもに影響がないわけがないと思います。さらに今、ルッキズム(外見重視主義)が台頭して、痩せると良い評価を得られると考えて、子どものダイエットも増えて、それを契機にした摂食障害も増えています。
 池脇 痩せることを意識するのは、ある程度の年齢からかという先入観があったのですが、最近はそういったことへの意識というのは、もう小学生ぐらいから始まっているのですか。
 鈴木 はい。日本はファッション誌でダイエット特集をすると、発行部数が上がるとか、なるべく小さいサイズの洋服を作ると人気が出てしまうという土壌があります。小学生もおしゃれをしますので、ファッションに興味があります。先生はシンデレラ体重という言葉をご存じでしょうか。
 池脇 わかりません。
 鈴木 正常体重の下限がBMI 18.5です。モデルを目指すような体重をシンデレラ体重と呼んで、BMI 18を言っています。そういう言葉も広まっているぐらいで、小学生を対象にした調査で、男子の4割、女子の7割が痩せたいと考えており、痩せると自信が持てる、痩せると馬鹿にされなくなるという意識があることが明らかになっています。
 池脇 特に小、中、高校生あたりはコロナ禍でだいぶ学生生活が変わってしまって、そういったものが摂食障害や痩せに影響しているような気がするのですけど、どうでしょうか。
 鈴木 はい、おっしゃるとおりで、世界的にも日本でも、特に神経性やせ症が約2倍に増えたという報告があります。しかも小学校の高学年から中学生の低年齢で増えていて、原因はやはりストレスです。ダイエットというのは実はいろいろなことに挫折を感じたとき、うまくいかないときに、手っ取り早く没頭できる方法なのです。ストレス対処の中で、回避というものに入ります。例えば、お酒やたばこは有効な回避方法です。しかし、やりすぎるとアルコール依存症やニコチン中毒になるように、食べないのも食べ過ぎるのも摂食障害になってしまいます。ですから、感染の不安や制限の多い生活によるストレスが多かった新型コロナウイルス感染症感染拡大の間にストレス対処としてダイエットという回避に没頭して、嫌なことを忘れるという方法があったと思います。
 池脇 質問の中にもあるのですが、インフルエンサーに憧れて痩せようとしたそうです。インフルエンサー以外にも、いろいろなきっかけがあるのでしょうか。
 鈴木 そうですね。授業もオンラインやタブレットの時代になりました。インターネットの情報に触れる機会も時間も増えました。インフルエンサーというのは、例えばとても素敵な人だとか、痩せているとか、インフルエンサーという名のごとくとても影響力があるので、子どもたちが憧れて、まねをすることがあると思います。
 池脇 もちろん健康を害さずに痩せられる方もいるかもしれないけれども、やはり極端になってしまって、健康障害を起こしてしまうという方が多いような気がします。
 鈴木 そうですね。SNSの功罪で、良い影響もある半面、健康を害することがあります。大学生を対象にした調査で、半数の人がネットで得たダイエットをまねして弊害があったこともわかっています。そこで最近、InstagramやTikTokなどのSNSのプラットホーム運営会社は、若い人に良くも悪くも影響を与えてしまうと認識し、企業使命として有害なコンテンツを削除するような機能も持っています。
 池脇 質問の女性のことで先生にご意見をいただきたいのですが、思春期に痩せているインフルエンサーに憧れて、極端な食事制限を行って無月経にもなったということです。これをいわゆる神経性やせ症といっていいのかどうなのか。そのあたりから解説をお願いします。
 鈴木 確かにダイエットをして体重を減らして無月経にまでなっているので、心理面にあまり異常がない、例えば病識がない、もっと痩せたいなどの認知の歪みがないならば体重減少性無月経が考えられます。もし痩せ願望や肥満恐怖が強くて、すでに異常に痩せているにもかかわらず、まだ太っているなどと言うならば、神経性やせ症が考えられます。
 池脇 確かにそうですね。そういう痩せ願望がおそらくあると思うのですが、肥満に対する恐怖だとか、いろいろな情報を合わせて、神経性やせ症といえるかどうかという流れなのですね。
 鈴木 はい、そうです。
 池脇 いずれにしても、どうやってそういう方の改善、障害を軽くしたらいいのでしょうか。いわゆる介入の仕方ですが、一般的に本当にもう動けないぐらい弱ってしまったら、栄養療法でしょうけれども、まずは心理的なアプローチなのでしょうか。
 鈴木 はい、そうです。とても頑固な体重減少性無月経の方もいますし、神経性やせ症になられた方もいますが、心理教育という面では、ほぼ同じです。
 ご質問された先生のご尽力とご苦労に頭が下がります。強硬に痩せたいと言っている若い女性に付き合って、一生懸命努力して心理教育をされているのだと思います。たぶん、先生はデータを示して、女性ホルモンがこんなに低いと骨粗鬆症になるとか、脂肪組織が減るとレプチンというホルモンが減るので、月経もなくなるとか、親身にお話しされてこられたのだと思います。さらに、女性ホルモンの効果としては、肌や髪の毛の質や、ウエストがくびれた素敵な体形や女性らしい情緒にも関係があること、過激なダイエットをすると、リバウンドという脳の正常反応としてむちゃ食いが起こって、元の体重以上に増えてしまうことを、お話しされたと思います。
 このように口を酸っぱくして説明しても、まだ痩せたいと言って頑固に極端なダイエットをやめないという場合にどうするかということですね。一般的に体重減少性無月経の場合は、こういう話をして、治療関係ができてくると、「まずいな、無月経なのはやはり心配」というふうに変化していきますが、なかなか好転しない場合は、神経性やせ症として対応するのがよいと思います。
 神経性やせ症の痩せは決してファッションのためではありません。痩せはストレスからの回避方法です。痩せに伴う健康被害よりも心の安定を選んでいます。人生でうまくいかないこと、挫折感、低い自己肯定感などを受け入れるのが辛いので、ダイエットに没頭して忘れようとしたり、低栄養で嫌なことに対する感受性を鈍くしています。ですから、「ところで、学校はどうなの。運動会や修学旅行はどうでしたか」とか、「家庭ではどうなの」とか、「コロナだったから面白くないこともあったんじゃないの」というふうに、少し体重や栄養の問題から離れて生活のことを聞いてみたらいいかと思います。
 先ほどの小学生の調査でも実際にダイエットしている子は学校でも家でもストレスを多く感じているという調査結果が出ています。病気にならずとも、頑固に痩せやダイエットに没頭するという子はストレスを抱えているということがわかっています。
 池脇 おそらく、この医師がいろいろと話をして、本人を説得というか考え方、認識を変えるような努力をされていると思います。家庭でのストレスもあるとなると、家族の協力、特にこういう場合にはお母さんなのでしょうか。これもやはり大事なような気がするのですけれど、どうでしょうか。
 鈴木 はい。思春期であれば、家族と同居していますし、食事は親御さんがお作りになるでしょうから、ご家族からの客観的なお話を聞かないといけないですね。
 急に料理好きになり、家族に無理に食べさせる、部屋に食品を隠し持っている、過剰な運動や長風呂、時間や決まりに厳しくなった、笑わなくなったなど、神経性やせ症の特徴的な異常行動が明らかになるかもしれません。また、「どういうものを食べていますか」と写真を撮ってきてもらって、「お母様がお作りになるのですね」など保護者を労いながら、「それでどうして食べないの」と聞くと、「脂っこいから」とか、「甘いから」とか言ったら、「じゃあ、もう少しこういう工夫をしたら食べやすいですね」というような、カウンセリングマインドの栄養指導というのも必要になります。
 もう一つは、学校の協力も必要です。担任の教員には給食や弁当を食べているかとか、体育の教員には運動能力を、さらに勉強、進路、友人関係で何か悩みはないのか皆さんで連携して観察することをお願いしています。
 池脇 そうすると、具体的には本人にカウンセリングといった心理療法をすると同時に、家族の方にもどこかで来ていただいて、一緒にという感じなのでしょうか。
 鈴木 はい、そうです。ご家族と学校とで力を合わせて、チームとして本人を助けてあげないといけません。情報共有と支援ですね。手をつなぐということです。
 池脇 先生を含めた専門の方のところでカウンセリングできれば、なんとなく抜け出せそうな気がするのですけど、そこまでいかない女の子もけっこういるとしたら、そういう方たちはどのようにケアしたらいいのでしょうか。
 鈴木 学校では年に1回か2回は健康診断をしています。養護教員は成長曲線をつけていて、体重の一覧表で変化を見て、例えば半年で5キロ減ったりすると呼び出しますし、身長の伸びが悪い場合は受診を勧めます。さらに、摂食障害全国支援センターができ、そこから学校と医療のより良い連携のためにというマニュアルが出ています。これはホームページでダウンロードすることができます。学校がそれに従って対策して家族と連絡をとって、受診させる目安も示されています。
 池脇 ありがとうございました。