ドクターサロン

池田

熱傷についての質問です。ポットの湯などで熱傷した際の初期治療はどのような治療がされるのでしょうか。

片平

やはり冷却ですね。流水で20分くらい冷却しなさいといわれています。よく冷やせばいいということで、氷や保冷剤でしばらく圧迫される方がいますが、かえって低温での皮膚障害、阻血を起こすことがあるので、基本的には流水で数分から十数分冷却するのがいいと思います。あとは濡れたガーゼでおおって病院へというかたちですね。

池田

なるほど。十分冷やすけれども、冷やし過ぎの問題もあるのですね。

片平

そうですね。

池田

それで、内科クリニックに行った場合、一般の医師が処方する薬は、どのようなものが適切なのでしょうか。

片平

基本的には皮膚を保護する薬で、痛みを取る作用もあるワセリン軟膏です。ワセリン基剤の軟膏には、ゲンタシンや抗生物質軟膏など多々ありますが、どういうものが混ざっていてもいいですが、基剤はワセリン軟膏が皮膚には一番優秀と思われます。皮膚科医はご存じだと思いますが、クリーム基剤は皮膚の浸透性が高く、痛みを伴ったりよけいな化学作用が起きてしまったりすることがあるので、もし悩んだら、白色ワセリンで全然かまいません。

池田

なるほど。保護効果が目的なので、少しベタベタしたようなものを塗るということですね。

片平

そうですね。

池田

それから、どれだけ熱が深部に達したかで、レベルがあると思いますが、どのような重症度があるのでしょうか。

片平

やけどはⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3つのカテゴリーに分けられます。Ⅰ度は、いわゆる日焼け、皮膚が赤くなったような状況。Ⅱ度は日焼けでも、水ぶくれができているような状態。心配はないけれども、Ⅱ度は浅いⅡ度と深いⅡ度とに分けられて、深いⅡ度というのは、だいたい2週間ぐらい経っても治らないような水ぶくれを伴うような真皮に至るやけどです。Ⅲ度をイメージ的にいうと、豚の丸焼けという感じで、だいたいは炎によるやけどです。皮膚はパリパリになったようなやけどでかなり重症なので、小範囲といえども熱傷専門医のいる専門病院に紹介したほうがいいと思います。患者さんにはわかりやすいようにこんな感じで説明します。

池田

なるほど、熱傷の初期ですと、なかなか重症度も判定できないと思います。Ⅲ度ではだいぶ深くまで熱が伝わってしまって、おそらく真皮も変性してしまっていると思うのですが、それが明らかになるにはどのくらいの日数がかかるのでしょうか。

片平

Ⅲ度は、教科書的には羊皮紙様といって、白く変性していて、要するにバイタルサインがない、血流がない皮膚の状態が500円玉以上の範囲だとデブリードマンや皮膚移植が必要になるといいます。ですから、これは何度だろう、深いのではないだろうかという疑問を感じたら専門医に紹介する、でいいと思います。

池田

羊皮紙様とは無機質な感じなのでしょうか。

片平

そういうことですね。

池田

血液がないということになると、赤みもあまりないということですね。

片平

そうですね。受傷機転から炎が介在していたり、例えば熱源に接触して圧迫されていた場合はこれを疑ったほうがいいと思います。

池田

その場合、問診も大切になるのですね。

片平

はい。ただ1つ、気をつけないといけないのは化学熱傷です。化学熱傷の場合は酸やアルカリによるものですが進行性なのです。ですから、浅く小さめに見えても、どんどんⅢ度に移行することがあります。問診で化学薬品が介在している場合は、すぐにでも熱傷専門医に紹介したほうがいいと思います。

池田

進行性というのは恐ろしいですね。

片平

見てもわからないですね。

池田

では、表面にあまり変化がなくても、化学性のもので熱傷だった場合は、すぐに紹介するということですね。

片平

はい。洗浄のレベルもかなり高度に20分とはいわずに、数時間やったほうがいい場合もあります。

池田

やはり、化学熱傷は特別なものということですね。専門医での治療というのは、先ほどの植皮も含めてどのようなことをされるのでしょうか。

片平

手術、植皮、デブリードマンも含めた外科的処置になれば、それは専門医の仕事ですが、結局は正確な深度判定とそれによる治療の振り分けです。治療も初期治療で軟膏治療でしたら、的確な軟膏の選択です。基本的にはワセリンですが、そこにステロイド軟膏を加えたり、例えば、最近の創傷被覆材を利用したり、そういう選択だと思います。あるいは感染しないような注意も必要です。それ以上になると手術、デブリードマン、植皮になります。

池田

やはり一般の医師ですとちょっと難しいですね。

片平

ハイドロコロイド製剤を含めた創傷被覆材の啓発は専門医の仕事ではあるかもしれないので、そんなことないですね。

池田

色素沈着はもとより、ケロイドの発生など熱傷後の変化が起こる可能性がありますが、それらはどのように防いでいくのでしょうか。

片平

そうですね、保存治療を行った場合に、最終的に起こる、色素沈着、ケロイドに対する初期の対策になります。開業医の場合は、ワセリン軟膏を主体とした保湿がメインになると思います。色素沈着だけならば保湿で回復する傾向がありますので、十分治っていく可能性があると思います。ただ、ケロイドになると治していくのはなかなか難しいので、この辺も含めて、その時点で専門医に紹介いただいてもいいです。

池田

ケロイドというのは、どのようになっていくのでしょうか。

片平

熱傷の瘢痕拘縮よりも酷いもので、受傷した部位よりも、増殖性に病態が広がっていくものをケロイドといいます。赤く盛り上がっていて、見た目によくない。痛みやかゆみを伴っていて、つらいですね。

池田

自覚症状もあるのですね。

片平

そうですね。

池田

通常の瘢痕ですと、それほど盛り上がっていない平らな感じでしょうけれど、それが盛り上がるのですか。

片平

盛り上がっていきますね。言葉がケロイド、もともとは“蟹”というのです。そういうふうに広がっていくような感じで、それを抑えるために圧迫治療や局所にステロイドを投与したり、内服薬を投与したり、最終的にはかなり難しいですが、手術治療も考慮されます。

池田

そうなると専門医に紹介するしかないですね。

片平

そうですね。圧迫治療を含めた保存治療はもちろん開業医にもできますが、一度、専門医に治療方針を決めていただいて、それで長く見ていただくのがいいと思います。

池田

なるほど。一度は専門医に紹介して、ある程度、基本が決まったらまた逆紹介で受け入れていただいて、継続していくのがいいのですね。

片平

そうですね。一番早いです。

池田

ケロイドの治療は時間がかかるものの個々の症例で違うと思うのですが、やはり1、2年かかるのでしょうか。

片平

1、2年で、いわゆる平べったい瘢痕になれば、それはかなり良好な状態だと思います。

池田

反応が早いほうということですね。

片平

早いほうですね、数年単位ですね。

池田

だから、最初はたいしたことはないと思ってやけどが治ったとしても、色素沈着とか、あるいはケロイドを形成する可能性があるのですね。

片平

それは、ありますね。

池田

その辺も含めて、よくムンテラしておいたほうがいいということですね。ありがとうございました。