ドクターサロン

池田

ちょっと耳慣れない腫瘍なのですが、「線維形成性線維芽細胞腫」についての質問です。いつ頃からこういう概念が提唱されているのでしょうか。

松延

これは1995年にMDアンダーソンのエバンス先生が7例をまとめて報告されたのが最初です。病理学的な特徴と臨床的な特徴から独立した疾患としてまとめて報告されています。

池田

腫瘍ですからいろいろなでき方があると思うのですが、どういう機序でできると考えられているのでしょうか。

松延

日光に当たるなど、特別なリスクファクターは、はっきりとはないのですが、病因としては染色体の2番と11番が転座をすることによって、ある遺伝子の発現が強調されて、それが関わっているのではないかといわれています。

池田

なるほど。私は、皮膚科医ですが、持続性隆起性皮膚線維肉腫も転座で起こるのですが、やはり線維芽細胞系の腫瘍というのは、そういった転座で起こるのですね。

松延

そうですね。軟部肉腫は比較的、遺伝子転座によって起きているとされているものが報告されています。

池田

ちなみに、例えば切り取ったもので、その転座で発現される遺伝子を調べることはできるのでしょうか。

松延

はい、可能です。遺伝子発現で強くなっているのがFOSL1という遺伝子で、その転座によって強発現されることが報告されているのですが、現在ではその特異的な抗体も発売されているので、免疫染色でその発現を確認することができます。

池田

なるほど。やはり患者さんは症状があるから来院されると思うのですが、実際に何か痛みなどはあるのでしょうか。

松延

はい。教科書的にはAsymptomatic、無症状のマスだと書かれているのですが、我々のところに受診をされるのは腫瘤自体に気づき、コブがあるとさわって触れるものだったり、あるいは関節近傍にできた場合は、ちょっと引っかかったり、痛みが出て、なんらかの違和感なり、痛みなりを訴えて来られている方が圧倒的に多く、健康診断や人間ドックなどで見つかったという患者さんは少ないと思います。

池田

やはり患者さんが気づかれて来るのですね。

松延

はい、そうです。

池田

線維芽細胞系の腫瘍ですから、診断のためにも、生検が必要ですが、腫瘍がけっこう大きくなったりしたときは、やはり切除してから診断するのでしょうか。それともほかになんらかのバイオプシーなどをするのでしょうか。

松延

比較的スローグロース、ゆっくり大きくなる軟部腫瘍で、急速に最近大きくなってきたということはまずありませんので、その診断のパターンとしては2つあります。4、5㎝ぐらいで気づかれて来院された方は、ほかの腫瘍との鑑別のために基本的には針生検をすることが多いので、針生検をして病理組織診断をつけています。小さくて、できた場所によってはたまたま気づかれて来る方もいるのですが、2㎝とか1㎝くらいの小さい腫瘍の場合は、切除してみて切除生検で結果的に線維形成性線維芽細胞腫だったと診断されることもあります。

池田

やはり、大きくなってくると、なかなか診断に苦慮されると思うのですが、画像診断はされるのでしょうか。

松延

基本的には、結果的に何らかのかたちで切除になっていることが多いのです。切除の前にはその広がり等々を確認するので、MRIを撮っていることが多いのですが、線維形成性線維芽細胞腫は、コラーゲンをたくさん含んだ病気なので、一般的にはあまり信号が高くないT2強調画像を行います。実際の臨床現場で使うことはあまりないのですが、造影MRIを行ったときは、腫瘍自体は中に血管がすごく少なく、染まることがほとんどありません。ただし、辺縁の被膜が血管に飛ぶとされているので、辺縁の造影rim enhancementが画像診断では特徴的になります。

池田

なかなか一般の検診でMRIを撮ることはないと思いますが、ほかの病気を疑って例えばCTを撮るときは、どういう所見になるのでしょうか。

松延

CTの場合は、発生部位として皮下脂肪の中にできていることが多いのですが、その中では特に均一なマスで石灰化があるなどの特徴的なものはCTではないと思います。

池田

では、よくある表皮囊腫ではCTだと区別がつかないのでしょうか。

松延

そうですね。表皮囊腫だと、基本的に線維形成性線維芽細胞腫自体は皮下脂肪の中にできていて、皮膚との間には脂肪が一層ありますので、皮膚との癒着はありません。そこら辺は多少区別ができるかと思いますが、特徴的なCT所見としてはないと思います。

池田

では、表面で1カ所dimple用のものでつながっていますが、そういうのは一切ないのですね。

松延

はい、ありません。

池田

単純に盛り上がっているということですね。

松延

そうです。

池田

皮膚の下にできているものを触診するとやはり硬いのでしょうか。

松延

はい、硬いですね。やはりコラーゲンが多いからだと思うのですが、脂肪腫よりは圧倒的に硬く感じます。

池田

可動性良好でコロコロ動くような、そんな感じなのでしょうか。

松延

下にできた場合は、境界が明瞭で少し硬くて、可動性は良好ですが、できた場所によって、例えば関節の近くだったりすると、動きが少し悪かったりした例もあります。

池田

何か癒着していると、悪性かと考えますよね。

松延

そうですね。それでサイズが4、5㎝あったら、やはり悪性腫瘍も鑑別に挙がるので、必ずその場合は生検をしています。

池田

やはり気になるところは鑑別ですが、ほかにどのような疾患を考えなければいけないのでしょうか。

松延

比較的中年にできるので、様々な病気が鑑別には挙がりますが、臨床症状だけからいうと、すべての軟部腫瘍は鑑別に挙がると思います。病理学的にいうと、コラーゲンや線維芽細胞が豊富な病気が幾つか挙がってくると思います。

池田

持続性隆起性皮膚線維肉腫ですと、CD34などの特別な抗体で染めたりしているのですが、鑑別の場合は、そういったものを考えて特殊染色されるのでしょうか。

松延

そうですね。病理医と話をすると鑑別が難しい場合もあるようで、我々の施設では感度も良いということで特異的な抗体を用いて、先ほどお話をしたFOSL1の免疫染色をしています。

池田

これが陽性になれば、線維形成性線維芽細胞種でまず間違いないという診断でよいのでしょうか。

松延

そうですね。当院の判断としてはそうなのですが、まれな腫瘍なので現時点で全国的にあまりそれを積極的にはやられていないと思いますし、WHOでもその診断基準は挙がっていないのです。補助診断にはなりますが、論文では感度・特異度ともにそのFOSL1の免疫染色はすごく重要で鑑別には有用だという報告が見受けられます。

池田

では、逆にWHOの診断基準とはどのようなものなのでしょうか。

松延

WHOでは細胞が少なくて、その膠原線維のバックグラウンドがすごく豊富で、その中に線維芽細胞が増殖しているということになっています。ただ病因として、なぜこれができるかというのは、先ほどの遺伝子の点ですとか、FOSL1が関係しているのではないかということが記載されています。ただ診断基準としては、免疫染色が必須など、そのようにはまだ定められていないです。

池田

なるほど。イメージとして硬いしこりがあって、それでその周りに造影をすると、血管が豊富に出て被膜に覆われているのでしょうか。

松延

はい、そうですね。線維性の被膜に覆われています。

池田

その周りに血管が豊富になっているということですか。

松延

被膜のアウターレイヤーに血管が豊富という記載があります。

池田

インナーレイヤー、アウターレイヤーみたいなイメージですね。

松延

そうですね。実際、臨床の現場では二層に分かれているという感じはしないのですが、被膜の外側に血管が豊富だから、造影MRIを撮ったときに、rim enhancementという形で見えると記載されています。

池田

硬い血管にあまりとんでいない腫瘍ができると、大きくなってくると中はnecrosisになったりするのでしょうか。

松延

これは、壊死はしていないですね。

池田

不思議ですね。

松延

当院で一番大きい腫瘍で7㎝という記録があります。際限なく大きくなっていくまで置いていないのか、ある程度で止まったのかわからないですが、肉腫のように10㎝、15㎝となっていくことは、おそらくないと思います。

池田

先生が経験された症例で7㎝が最大ということですね。

松延

そうですね。

池田

でも多くは先ほど先生がおっしゃっていた2㎝とかそのぐらいなので、ちょっと切り取って病理をよく見てというパターンですね。

松延

はい、やはり教科書や報告では4㎝以下がほとんどとなっています。

池田

やはりこういった軟部腫瘍もよくある皮膚腫瘍のうちの鑑別にたいへん重要だと思ってうかがっていました。ありがとうございました。